大橋ちっぽけ、音楽人生の青春を刻むEP『Youth』 アコースティックで向き合う“過去”と“今”、そのすべて

大橋ちっぽけ、音楽の青春と『Youth』 

 大橋ちっぽけにとって初のアコースティックEP『Youth』は、“大橋ちっぽけ”という人間の感情、息遣い、生活の営み――そんなものが何の誇張もなく、ありのままの姿で表現された、不純物の一切ないまっさらな音楽である。アコースティックという、究極までに音数を絞り、難解では決してない、シンプルな形で自分の今の声を届けることを選んだ理由には、本人に訪れた転機もそのひとつにあるだろう。そして、この形でなければ、楽曲を作った当時(もしくは聴いていた当時)の気持ちと、それを経て今の自分に本当に必要な感情が乗らなかった――きっとそういうことなのだと思う。

 これほど豊かな感性と物語を込めながら『Youth』という作品を作り、そして歌い切ることができた大橋ちっぽけは、これからきっと進化の季節を迎える。そんな確信を持って、ここに最新インタビューをお送りする。(編集部)

弾き語りは自分の音楽史における“青春”の感覚

大橋ちっぽけ(撮影=木村篤史)

――ジャケット写真には大橋さんの子どもの頃の写真が使われていて、とても印象的ですね。この写真は何歳の時ですか?

大橋:4歳になる少し前くらいですね。ジャケットはどういうものがいいだろうかと候補はいろいろあって、たとえばタイトルが『Youth』だから、生まれ育った地元に行って自分で写真を撮る案もありました。そこでスタッフさんから「昔の写真もいいんじゃないか」と提案してもらって。今まで自分の過去をあまり出してこなかったし、昔の写真も振り返っていなかったのですが、母に聞いたら大量に出てきて。「これもかわいいよ!」「これも!」って(笑)。

――お母さまにとっては大切な思い出ですから。

大橋:「こんなのあったんだなあ」と。笑顔の写真やピースしている写真もありましたが、(ジャケット写真を指しながら)このなんとも言えない、遠くを見ている目が好きで選びました。

――やはり面影がありますね。

大橋:ありますか(笑)?

――ありますし、少しノスタルジックでもあります。幼年期の写真と『Youth』というタイトルから、一区切りとなる作品だと感じました。まず、このEPはアコースティックのワンマンライブがきっかけになっているそうですね。

大橋:はい。去年ぐらいから弾き語りのライブが増えて、今年の3月に『J-WAVEトーキョーギタージャンボリー2025 supported by 奥村組』にも出演させていただきました。もともと僕は弾き語りで始めたので原点回帰というか、弾き語りは自分の音楽史における“青春”の感覚があるんです。

――弾き語りが原点だと。

大橋:この『Youth』というタイトルもそこから来ていて。今の自分と楽曲、そしてアコースティックの親和性をあらためて感じるなかで、最近のライブで自分のことを知ってくれた人やアコースティックで「いいな」と感じてくれた人がすっと聴けるものを作りたいと思いました。自分のルーツに戻ったうえで「今の自分ならどうなるか」「どう解釈するのか」を考え、いろいろな方の力を借りて作っていきました。

――メジャーデビュー初期の2020年の楽曲や、『character』(2023年)収録曲もあります。選曲の方針は?

大橋:「常緑」は多くの方に知っていただいた曲ですし、「嫌でもね」はライブでもよくやっています。今年3月のアコースティック公演で、鍵盤のハナブサユウキさんにピアノを弾いてもらい、ピアノと歌だけで構成した「僕は呪う」はアレンジが自分でもとても気に入りましたし、反響も大きかった。だから少し前の曲ですが、今の解釈で入れたいと思いました。

――数年前の自作をアレンジし直し、改めて向き合ってみていかがでしたか?

大橋:2、3年前まではライブは基本的にバンド編成でやりたくて、ソロには前向きではありませんでした。ずっと弾き語りでやってきたからこそ、逆にバンドサウンドへの憧れが強かったので、原曲がバラードでも途中からバンドインさせたりしていた時期もあります。でも弾き語りのライブが増えるなかで、どんどん削ぎ落としていったんです。自宅で拙いながらピアノでコードを押さえて作り上げた当時の気持ち――作った時に大切にしていたことが、今の研ぎ澄まされたアレンジに滲み出ているのかもしれない、と。「僕は呪う」には特にそれを感じました。余計なものを入れず、素直でいられていると思います。

――体温が伝わる温かいアレンジで、親密な空気が生まれています。

大橋:そうですね。自分のキャラクターや人間性が出ていると思います。一方で、楽曲から感じる僕のイメージと、実際の印象にはギャップがあるらしくて。

――どんな違いを指摘されますか?

大橋:曲を聴いてライブに来てくれた方から「バンドサウンドはかっこいいけど、本人は意外とふんわりしていた」と言われたり。「そうだったんだ」と(笑)。アコースティックは歌詞は同じでも、本当の温度やパーソナルな雰囲気がより伝わる。今回の作品で、もとのバージョンを聴いていた人にも違う受け取り方をしてもらえるのでは、と期待しています。

大橋ちっぽけ(撮影=木村篤史)

――「嫌でもね」はとてもパーソナルに響きます。一方で「寂しくなるよ」は手触りがまったく違い、とたさんのフィーチャリングが大きかったのでは。

大橋:僕自身、他のアーティストとのフィーチャリングも、自分の楽曲に参加してもらうことも今までなくて。今、誰かと一緒に歌うならとたさんだと思いました。音楽的にもファンでしたし、歌声にも感銘を受けていたのでオファーしたら、「寂しくなるよ」が好きだと言ってくださって。自分と同日にレコーディングしたのですが、どのテイクも美しく、表情が違うので、どれを選ぶか最後まで悩みました。

――最終的なテイクは、どんな印象でしたか?

大橋:もともとこの曲は男性の独白のような曲でしたが、とたさんの歌声は単純な“女性視点”とも違って、まったく新しい景色をくれました。終盤のロングトーンで自然に上下するニュアンスが、人の距離感――くっついて離れる感覚を思わせる。何も言わなくてもそう歌ってくださって、聴いていてハッとしました。結果的に、とても良い意味で“別の曲”になったと思います。

――現場で生まれた部分も大きかったのですね。

大橋:聴いていて泣きそうになるほど感情が揺さぶられました。二人で歌うからこそ生まれるハモりは、ひとりの時とは意味が変わる。とたさんと歌ったから見えた景色で、本当に美しい音に仕上がったと思います。お声がけして良かったです。

――この6曲のなかでも印象的でした。「常緑」は代表曲になりましたが、バージョンを新しくする中での心境の変化は?

大橋:当時は何が起きているのかわからない感覚で、TikTokで使われていると知ってから初めてアプリを入れたほどです。戸惑いもありました。ただ、この曲は初めての方と僕をつないでくれる大切な曲だと捉えられるようになりました。自分では聴かなくなった時期もありましたが、改めて聴くと、やりたいことを詰め込んでいる。キャッチーなサビをよく歌っていたなと我ながら思います。今作は“アコースティック”と言いつつ、当時のアコースティックとは決定的に違う形に着地しました。

――アコースティックの“違う形”とは。

大橋:以前は完全にひとりで、弾き語りに少し音を足す程度のイメージでした。今はDTM的な打ち込みやループ素材も自然と入ってくるし、それを“アコースティック”として出すことに違和感はない。聴く人によっては「アコースティックなのかな?」と思うかもしれませんが、今の僕が辿り着いたアコースティック感がこれなんです。「常緑」は特にそう。アレンジは岩崎(隆一)さんに委ね、僕らしいアコースティック感を意識していただきました。コーラスや音像を増やしがちな自分ですが、今回は極力コーラスも減らして。サビ前をあえて無音にするなど実験的に試せて、楽しかったですね。

――アコースティックは弾き語りそのものというより、リズムの感覚でもある?

大橋:そうだと思います。昔は自然とアコースティックギターを持って曲を作っていましたが、今はパソコンを開き、最初にビートを打ち込むところから始めます。やり方や考え方が当時とはまったく違うので、メロディやビートの取り方も変わってきました。同じアコースティックでも、今はビートを入れないと違和感があって、気づいたらドラムを入れていることもあります。それがアコースティックかという議論もあると思いますが、僕らしいアコースティックはこれ。最終的にそうして録音しました。「痛いよ」も同じで、清 竜人さんのカバーですが、最終的にはボコーダー的なコーラスも入れました。

――アコースティックとは異なる要素を入れながらも、温かみを感じます。

大橋:そこから生まれる温かみも“アコースティック”と言えると思うんです。ビートは最初から中心に置いています。

大橋ちっぽけ(撮影=木村篤史)

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