10-FEET、探求の先で辿り着いた骨太なロックサウンド 『ウマ娘』OP主題歌に込めた“闘争心と悔しさ”を語る

10-FEETが1年3カ月ぶりとなる新曲「スパートシンドローマー」を10月8日に配信リリースした。リズムパターンの移ろいがめまぐるしい冒頭では近年駆使してきたシーケンスとの親和性も感じられるものの、全体通してそれ以上に際立っているのは、ユニークな展開を乗りこなしていくソリッドで骨太なバンドサウンド。ここ1〜2年ほどの10-FEETはライブでの演奏が一層ブラッシュアップされてきており、昨年のシングル曲「helm'N bass」も含め、ロックバンドとしてのフィジカルな力強さにさらなる磨きがかかっている。「スパートシンドローマー」はその1つの答えと言っていい会心の1曲だ。
アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』第2クール(TBS系)のオープニング主題歌ということも相まって、ゾーンに入った精神の集中と人生の悔しさを同居させたリリックも、10-FEETらしさの新たな結晶と言えるだろう。3人へのインタビューを通して、音作りの進化、この時代なりのロックアンセムの意義に迫りながら、曲作りのエンジンがますます加速している10-FEETの現在地に迫った。(信太卓実)
BPMの速さではない、“この楽曲なりのスピード感”
ーー 「スパートシンドローマー」、ソリッドなバンドサウンドに心を掴まれるめちゃくちゃかっこいいロックナンバーですよね。手応えはいかがですか。
TAKUMA:『ウマ娘』の主題歌としても10-FEETの新曲としても、自分たちなりにやるべきことをやれて、「ここから先どんな良さが出せるだろう」「どんなふうに成長していけるだろう」とか、そういうこととも向き合えたのがすごく良かったですね。これまでのすべての曲作りの経験が活きたんじゃないかなと思ってます。

ーー“経験が活きた”というのは?
TAKUMA:曲を作るって、頭も使うし感性も必要やし。過去に倣う部分と倣ってない部分、もっと言えば倣ったほうがいい部分と倣わないほうがいい部分があって、そういった割合に対するいい考え方ができていて、今の10-FEETとしての制作に活かせたんじゃないかなっていうことやと思います。
これは1〜2年前ぐらいからよく言ってたんですけど、限られたセットリストの中で新曲が重要な曲になっていくべきというか、“新曲だから”という事情を完全に除いた上でも、絶対外せない曲になっていくべきやと思っていて。長く活動すればするほどそれって難しくなってくると思うんですけど、そんな中でもあまり聴いたことのない曲で、今までのどの曲よりも感動させられたり盛り上げられたりするのが、少なくとも僕らにとっては望ましいし、「RIVER」とか「その向こうへ」とか「第ゼロ感」をセットリストから弾き出せるような、そういう新曲作りをしたいなと。そのための経験値は充分あると思っているので、そんな僕らがロジカルじゃないところで「なんかこの音楽ええやん!」って思えて、聴く人にとってもそう思ってもらうための探究心やこだわりを大事にしていますね。
そのためにはやっぱりサビが良くないとっていうのが一般的な考えとしてあると思うんですけど、それだけじゃなくてAメロがとにかくいいっていうのでもいいし、 そもそもサビも何もなくてAメロ・Bメロ・Cメロ・Dメロで終わりやんとか、1回も繰り返しないやんとか、そういう曲でもいいと思うんですよ。何でもいいから、何回も聴いてしまう、あの曲が耳から離れない、すごくかっこよくて感動する……みたいな気持ちをかきたてるような音楽を作って、「絶対に毎回ライブでやってください」って言われるようにならないといけないし、そのために一生懸命考えて今作るべきものができたんじゃないかなと思っています。

ーーその上で、最終的に何を一番大事にして作れた実感がありますか。
TAKUMA:スピード感というのは1つありましたけど、BPMが速いって意味じゃなくて、“この楽曲なりのスピード感”がうまく出ればいいなと。『ウマ娘』の主題歌ということでオファーを受けたんですけど、(アニメの)制作チームが僕たちを選んでくれたのは、過去のいろんな曲があった上でのお声掛けだと思うので、そんな僕らが「RIVER」とか「その向こうへ」とか「第ゼロ感」を超えてもっといい曲だと思えるもの、過去イチやと思えるものを提出することで、スピード感を大事にすること以上に喜んでもらえるんじゃないかと思ったんですよ。「いわゆるスピード感は入ってないけど、この曲のほうがいいです!」と言ってもらえるような、作品としての力を宿らせることが大事だなと思って進められました。
ーースピード感でいうと、歌い出しで一気にテンポが上がるのかと思いきや、意外とテンポを抑えた歌い出しになっていることで、むしろゾーンに入ったような感覚を味わえるのが面白いなと思って。「本当に速いときってゆっくりに見える」みたいな感覚にも近いと思ったんですけど、そこはいかがですか。
TAKUMA:あぁ、なるほど。今回、Aメロ・Bメロ・サビっていう並びではあるんですけど、 Aメロにもサビ同様の力を感じていたので、サビが2つあって、その真ん中に違うタイプのBメロがあるみたいな楽曲だなと思っていて。でも、サビが複数あったらどんどんとっ散らかっていって、「一体どこを聴いたらいいんですか?」ってなりそうなところ、今回はそこが強いメロディの中でうまく共存できたので、いい形として仕上げられたんじゃないかなと。Aメロに良さを感じていたから、そう捉えてもらえるのは嬉しいなと思いました。
ーーやはり手応えのあるAメロだったんですね。ラストがAメロのフレーズで締め括られるので、珍しい構造の楽曲だなと思っていたんですけど、そう言われてみれば“サビ終わりの楽曲”とも取れるのかもしれないですね。
TAKUMA:そうやと思いますね。「4REST」でも〈My, my forest. My forest. My〉のところと〈弱音吐いて泣いてなんぼ〉のところ、どっちがサビなんですかって言われたこともあるんですけど、今やもうそんな概念はええやんみたいになってると思うので、「スパートシンドローマー」もそういう風になっていけばいいんじゃないかな。
ーーベースラインは歌メロを支えつつ、非常に起伏のある演奏をされているなと感じましたが、NAOKIさんはどんな曲だと捉えましたか。
NAOKI:(完成締切まで)時間がなかったこともあるんですけど、より高い集中力で進めていけたなと思っていて。最初にTAKUMAからもらったデモの段階でイメージを膨らませつつ、その後にドラムを当ててサビのリズムが変わったことを受けて、「こういうベースラインが求められてくるんやろうな」って僕なりに解釈しながら取り組んでいきました。僕としては「ベースシストっぽいラインやな」とはそんなに思ってないんですけど、それ以上に、歌もメロディも含めて曲全体が太くなっていくためのベースっていうイメージを一番大事にしました。

ーーKOUICHIさんはいかがでしょう? 特にサビのドラミングが駆けていくようなリズムになっていて、10-FEETとしても新鮮だなと感じました。
KOUICHI:TAKUMAのデモを聴いて、最初は一旦思った通りにやりつつ、AメロもBメロもサビもいろんなパターンを考えて叩いていって。特にサビはメロディを聴いて、走ってるようなイメージもあるなと思ったので、疾走感が出るように提案してしっかりハマりましたね。自分の中で持っているリズムを全部当てはめていって、いいかどうかを判断していきました。
進化を遂げた“骨太なサウンドメイク”への大きな手応え
ーーちなみに、最近10-FEETはガラリと演奏機材が変わったという話も聞いたんですけど、そのあたりは音源にも影響しているんでしょうか。
TAKUMA:ギターに関してはあるかもしれないですね。前からずっとやってはいましたけど、この2年くらいは曲単位で、全ギターを改造してたりするんですよ。
ーーこの2年で拍車がかかっているのはどうしてなんでしょう?
TAKUMA:単純に興味を持ったんです。今まではそのへんにあるギターとかアンプでパッと鳴らして、ある程度かっこいい音を出せたらそれでよかったんですけど、これだけ長いことやってきて、見渡せば本当にすごい機材がいっぱい出ていたりして。「細かいことを追求したらもっと詰められるかもしれないけど、これぐらいでいいんじゃない?」という感じで長年やってきてた分、今は改造するとちょっとした変化もすごく感じられるし、面白くなっちゃって。機材もだいぶいじれるようになりましたし、ライブとレコーディングで力を発揮できる楽器作りをしようと本腰入っていった感じですね。
ーーその興味を持ったきっかけというのは?
TAKUMA:楽器屋によく行くんですけど、何も知らずに新作のギブソンを試奏したら、めちゃくちゃ音がかっこよくて。なんやと思って調べたら、60s Burstbuckerというピックアップを搭載していることが主たる原因やったんですよね。もちろんネックとかボディとか、全部の要素込みでその音になっているのは前提なんですけど、「このピックアップを自分のエクスプローラーに乗っけたらどうなるんやろう?」と思ったことから始まって。そしたら、音がさらに良くなるギターを見つけたりしたので、これはいろいろ検証したほうがいいなと思って試していきました。
それでライブをやってみたら、coldrainとかHEY-SMITHとか、長い付き合いのバンドメンバーたちが急に「めっちゃ音が良かったです!」と言ってくれるようになって。「そんなに……?」とは思ったけど(笑)、いちいちそんなこと言われたこともなかったし、めちゃくちゃ嬉しかったから、意味があるんやなと思って。「これが最高や」って思うところまで、一旦こん詰めていじってみようかなという感じですね。
ーー実は自分も『10-FEET "helm'N bass" ONE-MAN TOUR 2024-2025』を観ていて、似た感触を覚えていて。そのときは細かい機材の変化までは気づかなかったんですけど、ギターのラウドな鳴りとリズム隊のグルーヴの調和がすごく気持ち良くて、特に今年のZepp Haneda (TOKYO)公演では、どっしりした曲の演奏が強く印象に残ったんですよね。
TAKUMA:それは良かった。僕も知らなかったんですけど、3人ともたまたま機材をいじってる時期やったらしくて、いい感じにハマったんやろうなと思います。
ーー機材の変化に関して、NAOKIさんはどう感じていますか。
NAOKI:レコーディング面では前作の『helm'N bass』から大きく変わってないんですけど、ライブの機材に関してはキャビネットもプリアンプも、この2〜3年で本体のベース以外はほぼ一新しましたね。新しい機材を導入していって、まさに今年に入ったくらいで、ライブの音に関してはようやく自分の理想にたどり着いた感じがしていて。HEY-SMITHとかSHANKのレコーディングエンジニアさんが「ベース変えました?」と言ってくれたこともあったので、めちゃくちゃ良かったなと思いました。あとはG-FREAK FACTORYの茂木(洋晃)くんも、一時期会うたびに「何、あの音!? めちゃくちゃヤバいんだけど」と言ってくれたりして。初めて茂木くんからベースの音について褒められましたね。
ーー理想とおっしゃいましたけど、どういう風に変えていったんでしょう?
NAOKI:ライブリハのたびに、それまで使っていたキャビネットやプリアンプと、そのとき興味持って借りてきた新しい機材を並べて、実際に出ている音を聴き比べしながら、圧倒的に良かったほうにどんどん変えていったんですよね。自分の使っているベースとの相性とかもいろいろ試して、「こっちのほうがパワー出るな」とか、そういうことを何度も繰り返していきました。
ーーKOUICHIさんはいかがでしょう?
KOUICHI:レコーディングでは、基本的にライブとは別のドラムを使っているんですけど、ライブのドラムは去年の『京都大作戦』から変わってますね。それ以降もヘッドを変えたりとか、いまだに試行錯誤中ですけど、だいぶまとまってきているかなと思います。

ーーなるほど。実は機材の話をお聞きしたのは、もちろんライブでの音鳴りが変わったからでもあるんですけど、新曲「スパートシンドローマー」がロックバンドとしてのフィジカル性を前面に出した楽曲に感じたからで。「ハローフィクサー」以降って、10-FEETらしさに斬新なシーケンスを混ぜ込みながら鳴らしてきたと思うんですが、それを経て今回はシーケンスを駆使しつつも、むしろ一発鳴らしたときのフィジカルな生音の強さがより響いてくる気がしたんです。ライブの音がソリッドになっていることとの連動性もある気がするのですが、そこはいかがでしょうか。
TAKUMA:意識しましたね。シーケンスを扱うようになって、そういう違いを聴き分けて、感じられるようになってきたので。「スパートシンドローマー」はサビのアップテンポなところ以外は、ハーフのリズムが多いことも相まって、音使い的に霧がかかったような箇所が多いと思っていて。そこでロックの力強さとかライブバンドの基礎をちゃんと骨組みにした音楽表現をしていくことで、霧がかかった部分とのいい相乗効果を生み出せるんじゃないかなと。その両方の要素を活かし合うには、それぞれの楽器の聴かせ方が重要になってくるなというのは結構考えてました。
ーーギターの鳴りはどのように作っていったんでしょうか。
TAKUMA:今回はP-90タイプのピックアップを搭載したレスポール・ジュニアのギターで、Kemperというシュミレーターを駆使しながら、リアンプ(クリーンな音をあらかじめ録音しておき、あとで細かい音作りをするスタイル)していく形でやりました。で、P-90タイプってシングルコイルなので、コイルが1つしかないんですけど、僕が普段ライブで使っているのはハムバッカータイプと言って、コイルが2個鳴っているものなんです。針金みたいなのがいっぱい巻いてある機器に磁石が入っていて、弦を弾いたときに、その振動が磁石と反応して、アンプを通して音が鳴るんですけど、それがシングルコイルだったらあまり「ジャーン」ってならなくて、「シャララン」ってなる。それがダブルになると、より「ジャーン」と歪むんです。
P-90タイプはシングルコイルなのであまり歪まないんですけど、それを力づくでシンプルに歪ませたほうが、より音が飛ぶというか、とにかく骨太になるんですよ。音源のギターをそういう方向で作れたら、言ってもらったようなフィジカルな強さに結びつくんじゃないかなと思ってやっていたので、そうなって良かったですね。

ーー腑に落ちました。かつての「What's up?」あたりの歪み感とは印象が全然違うというか。音色としてはシンプルだけど、中身がぎゅっと詰まっているような感覚が伝わってくるサウンドですよね。
TAKUMA:そこを褒めてもらえて嬉しいです。今回レコーディングで用いたセットは、ライブだとハウっちゃったりとか、若干パワーが足りなかったりするんですよ。普段のライブは結構大盛りのパワーで鳴らしていることもあって、今回のセットは僕らのライブの実践向きではないんです。でも、レコーディングだとちゃんとパワーもつけて補正して、ごまかさずに表現ができるので。ドラムもベースもそうなったらいいなと思った方向と合致していたし、エンジニアさんも僕らの意図を理解してくれて。制作全体を通して、非常に有意義でしたね。


















