絢香は今なお進化し続ける――圧倒的な歌声の現在地、ライター3名が綴る『Wonder!』クロスレビュー

現在地を明確に示すと同時に、先の歩みを照らす出発点（黒田隆憲）

　深い森の静けさや、子どもの笑顔に宿る一瞬のきらめき――そんな“ときめき”を絢香は『Wonder!』と名づけ、その音楽に封じ込めた。デビューから間もなく20周年を迎える彼女が、およそ2年ぶりに届けた通算8枚目のオリジナルアルバムは、タイトル通り小さな奇跡の断片を散りばめたようなカラフルな一枚だ。

　前作『Funtale』（2023年）では、「もっと成長し変化したい」との想いからニュージーランドと日本を行き来して曲作りに挑み、美しい自然の中で得たポジティブなエネルギーを作品に詰め込んでいた。その環境の変化から生まれたフレッシュなサウンドやチャレンジ精神は、本作にも脈々と受け継がれている。ニュージーランドの空、子どもたちとの日々、愛犬との時間――そうした暮らしの中の“ときめき”が、楽曲の随所に染み渡っている。

　タイトル『Wonder!』には、誰もが心の奥に秘めている“小さな奇跡”の欠片＝Wonderを集めて音楽という箱に詰め込んだ、という自身の想いが込められている。「『自分の中の“好き”』と『音楽の楽しさ』をまっすぐ信じて、ジャンルに縛られず、自由に遊ぶように作り上げた」と公式サイトでも言及（※1）。その言葉通り、ポップス、R&B、ジャズ、ゴスペル、ファンク、バラードと、ジャンルの壁を軽々と飛び越えた楽曲が並ぶ。ボーカル面でも、高音域で力強く張り上げるばかりでなく低～中音域で優しく寄り添うように歌う。その歌声に込める感情の細やかさやエアリーなニュアンスがさらに増したことで、ジャンルレスな音の中でも絢香の声そのものが一本芯の通った“軸”となり、作品全体に統一感と温かみを与えているのだ。

　まず、アルバム序盤からその多彩さに圧倒される。表題曲「Wonder!」はゴスペルクワイアをバックに従え、包み込むような優しさと慈愛に満ちた歌声をソウルフルに響かせるナンバーだ。ホーンセクションの切れ味とコーラスの厚みが折り重なり、曲はどこまでも高みに上り詰めていく。続く「You’re where I wanna go」では一転、スリリングなジャズファンク調のグルーヴに身を任せる。ファルセットと地声を巧みに使い分けた抑揚豊かなボーカルがブラスと戯れ、ゴスペル風の掛け合いも飛び出す。ライブ感あふれる熱気に思わず身体が揺れること必至だ。

　「アソブココロ」は、アルバム中でもひときわ異彩を放つ。4つ打ちのキックとベースがうねるトラックに、エレクトロとスウィングジャズを融合させた実験的アプローチ。耳元に迫るミニマルなボーカルの抑揚から、サビで一気に広がるビッグバンド風サウンドへと切り替わる瞬間はまるでジェットコースターのよう。曲が進むにつれ景色がめまぐるしく変化し、絢香の“音で遊ぶ心”が直に伝わってくる。

　一方、ピアノとオーケストラを基軸とした壮大なバラード「Versailles - ベルサイユ - 」は、広大な大地を思わせるスケールの大きな響きが印象的。劇場アニメ『ベルサイユのばら』の主題歌として書き下ろされたこの曲は、運命に抗えない時代の波を描く作品世界に呼応するようなドラマティックさを纏う。絢香がこれまでのキャリアで培ったオーケストラとの共演経験が活かされ、ボーカルと楽器が拮抗しながら物語を紡いでいく。

　私的な愛情が普遍的なテーマへと昇華したのが、「ずっとキミと」だ。アコースティックギターの軽快なシャッフルリズムと可愛らしい電子音のアルペジオに乗せて歌われるのは、隣にいる“あなた”への感謝。しかしその“あなた”は実際には彼女の愛犬であり、同時に聴き手それぞれの大切な存在にも重ねられる。言葉にできない絆や喪失感までも包み込むこの曲は、誰もが心のどこかで共感できる普遍性を帯びている。

　後半には、遊び心たっぷりの「Me & You」が控える。ひねりの効いたコード進行に、二声ハモりのスキャットやマーチング調のホーンが飛び出し幸福感を放つ。ラスト直前の「花束じゃなくキミといたい」は一転して王道のピアノバラード。愛を真っ直ぐに歌い上げながらも、どこか失ったものへの鎮魂歌のようにも響き、続く「Versailles - ベルサイユ - Piano version」とともにアルバムを深い余韻で締めくくる。

　アルバム全体を通じて感じるのは、絢香が音楽を“心から楽しんでいる”ということだ。ジャンルの垣根を越えながらも、その中心には常に歌がある。20年近いキャリアを経てなお進化を止めない姿勢は、単なる“集大成”に留まらず、これから先への展望も見据えている。『Wonder!』は、彼女の現在地を明確に示すと同時に、ここから先の歩みを照らす出発点。小さな“奇跡”を音楽として形にするその試みは、今後の活動を占う上でも大きな意味を持つだろう。

※1：https://room-ayaka.jp/news/detail.php?id=1126165

■リリース情報
『Wonder!』
9月3日（水）発売
配信リンク：https://ayaka.lnk.to/Wonder
CD購入リンク：https://ayaka.lnk.to/Wonder_CD_0903

＜CD+Blu-ray+LIVE CD＞（初回生産限定盤）
仕様：特殊ケース
封入特典：ステッカー
価格：9,350円（税込）

＜CD+DVD＞
価格：6,600円（税込）

＜CD only＞
価格：3,410円（税込）

＜収録内容＞
DISC-1 CD　※3形態共通
1. Wonder!
2. You're where I wanna go
3. アソブココロ
4. Versailles - ベルサイユ - 
5. Dreaming
6. ひまわりの帰り道
7. ずっとキミと
8. Feelin' goo-good
9. Me & You
10. 花束じゃなくキミといたい
11. Versailles - ベルサイユ - Piano version　

DISC-2 Blu-ray / DVD
『Funtale Tour 2023』LIVE映像
1. 未来へ
2. にじいろ
3. Joyful Change
4. Only Star
5. Victim of love
6. Why
7. 夢幻花火
8. 幻想曲
9. 三日月
10. Woman
11. 突き破る本能
12. Beautiful World
13. ありがとうの輪
14. AoRaKi
15. あなたの世界が
16. Have fun !!
17. To The Moon
18. Home
19. みんな空の下

DISC-3 LIVE CD　※初回生産限定盤のみ収録
『Funtale Tour 2023』LIVE音源
1. 未来へ
2. にじいろ
3. Joyful Change
4. Only Star
5. Victim of love
6. 夢幻花火
7. 三日月
8. Woman
9. 突き破る本能
10. Beautiful World
11. ありがとうの輪
12. AoRaKi
13. あなたの世界が
14. To The Moon
15. Home

■ツアー情報
『絢香 Wonder! Tour 2025』
詳細：https://room-ayaka.jp/news/detail.php?id=1124128
チケットリンク：https://lit.link/sogoticket

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