絢香 初のシングル1位、紅白初出場……「三日月」が普遍性を帯びた理由

『みんなが聴いた平成ヒット曲』第6回…絢香「三日月」

「三日月」が普遍性を帯びた理由

「同じ曲ばかり求められることに、正直、複雑な気持ちになることもありました」

 この言葉は、絢香が書籍『絢香 15th Anniversary DVD BOOK』(2021年)のインタビューのなかで語った、自身のヒット曲「三日月」への想いである。

 2006年9月27日にリリースされた「三日月」は、絢香の4枚目となるシングル曲。自身初となるオリコン週間チャート(2006年10月9日付)1位を獲得し、『第48回日本レコード大賞』最優秀新人賞も受賞。さらに『第57回NHK紅白歌合戦』に初出場した際の歌唱曲にもなった。以降も、世代を問わずカラオケなどで歌われ続け、テレビ番組などでも何度も使用され、そして数多くのミュージシャンがカバーした。

 「三日月」がたくさんの人に受け入れられた理由は、楽曲にこめられたメッセージ性と、聴き手がさまざまな解釈をすることができた部分だろう。2009年10月7日放送『SONGS』(NHK総合)出演時などでも語られているが、もともとこの曲は、絢香が歌手になるために地元・大阪から上京を決意し、大切な人たちと離れることへの心情をつづったものである。

 ただその歌詞内容は、たとえば好きな人との失恋であったり、身近な人との永遠の別れだったり、リスナーが自分の状況に置き換えて聴くことができた。いろんなかたちの「別れ」に重ねられる点が、この楽曲が普遍性を帯びた理由ではないだろうか。

世間のイメージが「三日月」で止まっているジレンマ

 しかし絢香は、先述の書籍にて「世の中にある私のイメージって、『I believe』や『三日月』、『にじいろ』のイメージしかないと思うんです。でも今の私はそこからまた先に進みさまざまな作品を創って歌ってきていて」と素直な心情を口にしている。

 たしかに、「I believe」「三日月」は2006年リリース、「にじいろ」は2014年リリースの曲である。いずれも間違いなく平成を代表する楽曲だ。ただ彼女は令和になってからも、妊娠中にお腹のなかにいる赤ん坊を想って書いた「道しるべ」(2020年)、聴けば前向きな気分になれる「もっといい日に」(2021年)など、多彩ですばらしい曲を次々とリリースしている。また、ONE OK ROCKのTaka、三浦大知らとのコラボ曲も含むアルバム『LOVE CYCLE』(2022年)はコロナ禍の現代を映し出したような面もあり、作品としてかなり充実したものだった。

 だからこそ平成から令和へと時代が移り変わり、絢香自身もミュージシャンとして、そして人間として成長を遂げているなか、世間のイメージが「三日月」の頃のままで止まってしまっているジレンマは私たちの想像以上に大きかったのではないだろうか。

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