kurayamisakaが体現する“美しい矛盾” 時代を超えゆく屈指の1stフルアルバムを5人の視点から語る

kurayamisaka、最新ALを語る

バンドが美しくあるための秘訣は「矛盾を暴かないこと」(清水)

ーーでは、清水さんは?

清水:僕は「jitensha」ですかね。展開とかフレーズとか、個人的な好みが詰まった曲になったと思います。ラスサビが終わって、もう1回リフが登場して、そこで終わってもいいんですけど、さらにもう1回展開が出てきて。今までまったく出てこなかったセクションが、歌も入らずにずっと続く部分がすごく気に入ってますね。the band apartが言うところの“ゴダイゴ現象”を取り入れられたのがよかったなと思います。

kurayamisaka - jitensha (MV)

――〈ねえ、生まれたての悲しみも/抱えたままでゆくの?〉という歌詞が沁みる1曲ですが、どんなことを描こうとした楽曲ですか。

清水:歌詞は聴いてくれた人が自由に受け取ってくれるのが嬉しいので、あまり制限したくはないんですけど、やっぱり悲しみと喪失がテーマで、そこからゆっくり徐々に立ち直っていく感じを描いた曲というか。悲しくて食べ物も喉を通らないし、楽しいことがあっても笑うことにすら罪悪感を覚えてしまうような状態ってあると思うんですけど、そこから無理にスッと立ち上がるわけではなく、カーテンから光が差し込むように、だんだんお腹が空くようになって、いつの間にか楽しいことを楽しいと思えるようになって、悲しみからゆっくり立ち直っていくようなイメージの曲……というのは、なんとなく感じてくれたら嬉しいです。

――悲しみについて書きたいと思うのはなぜなんでしょう?

清水:嬉しいことより悲しいことの方が身近というか……悲しいことばかりだし、そういう出来事の方がより覚えているからかもしれないですね。嬉しい曲が嫌いなわけではないですけど、やっぱり悲しみを消化している曲には胸を打つものが多いと思うので。

kurayamisaka ライブ写真
清水正太郎(Gt)

――先ほど内藤さんが言っていた“夏が終わる切なさ”についての話もそうですが、青春や夏のモチーフがよく出てくると思っていて。それはなぜだと思います?

清水:歌詞については、12曲目(「あなたが生まれた日に」)を除いて、自分のことは歌っていなくて。僕がボーカルじゃないというのもありますけど、別に自分のことを歌いたいわけじゃなくて、「こういう誰かがいて、その人生の一瞬を切り取った」みたいな書き方を心がけています。思ってもないことを書いてみたりとか、短編小説を書くような気持ちで書いたりしていて。それが投影されるような登場人物がいる曲が今回は多く集まったので、言ってもらったような印象になるのかなと思いました。

――でも、まるで自分の感情であるかのように、歌詞の表現自体はとてもエモーショナルですよね。内藤さんの声で歌われるからこそ、どこか俯瞰したようなバランスにも聴こえますが。

清水:そうですね。歌詞の中の彼ら彼女らは僕ではない。だからこそ、感情移入してしまう部分があるのかもしれないです。自分だったらこんなに強い意思は持てないよな、とか。それが歌詞に表れているのかもしれないですね。けど歌詞はメンバーにも一切説明していないし、各々の解釈で演奏してもらっていて。「俺がこう思っているからこうなんだ」というふうには絶対したくないので、聴いてる人に対しても「受け取ったままでいいんだよ」って思います。

――「あなたが生まれた日に」は2ビートでパンキッシュな仕上がりじゃないですか。ありふれた日々についての歌をパンクに乗せていて、アウトロではkurayamisakaらしいメロディアスな展開が待っている。この曲はどうして生まれたんでしょうか?

清水:ドラムはいわゆるDビートと呼ばれるビートですね。僕らは本家のハードコア畑出身のバンドではないので、作っていくと「そんなフレーズ絶対つけないでしょ」という感じにどうしてもなってしまうんですけど、逆にその歪さがいいのかなと思って。デモをそれぞれの解釈で弾いてくれたものを、あえてそのまま採用しているんです。メロディも印象的なものになっているので、そのあたりのギャップが不思議に思わせるのかなって。

 今話していて思ったんですけど、歪な良さってこのバンドのあらゆるところにあると思っていて。歌は立たせたいけど、音は誰よりも大きく鳴らしたい。先人たちのことを真似したいけど、新しいものを作り出したい。その矛盾が美しいのかなと思いました。矛盾自体がkurayamisakaがどういうバンドなのかを表していて、それを暴かないことこそが、バンドが一番美しくあるための秘訣なのかなと思います。

――なるほど。冒頭で言っていただいた話に改めて集約された感じがしますね。その上で、清水さんとしてはkurayamisakaをどんなバンドにしていきたいですか。

清水:今後も何年かに一度アルバムを作って、それが20年後でも30年後でもいいので誰かに届いて、あの頃の自分が感じたような衝撃に近いものを受け取ってくれたら、それが一番の幸せですね。新譜も旧譜も関係なく、聴いたその瞬間がその人にとって初対面なわけじゃないですか。今出したこのアルバムを20年後、30年後の少年少女が聴いた時に、新譜を聴くかのようなフレッシュさで届いてくれたら嬉しい。時代をガラッと変えるような影響力はないけど、そうやって時代を超える勢いのあるアルバムができたんじゃないかなという自負はあるので。その上で音源が売れて、制作予算が増えて、内藤がもう1テイク録れるようになったりとか、いろいろな音楽的なチャレンジができるようになったら、さらに幸せなことだなと思いますね。

kurayamisaka ライブ写真

――皆さんも1人ずつ、今後の野望を教えてください。

内藤:すごく抽象的になっちゃうんですけど、ずっと楽しそうなバンドでいたいですし、それを見せ続けられるバンドでありたいなと思いますね。

フクダ:1stアルバムができたので、今後も活動を続けていく中で「kurayamisakaって1stがいいのか、それとも2ndがいいのか」とか、そういう話が出てくるようなバンドになれたら嬉しいなと思います。そのためにも自分らしいプレイをどんどん確立していきたいし、ツアーで見てきた景色を大事にして、それをもっと広げられるように努力し続けたいです。

阿左美:今は仕事をしながらバンドでも忙しくさせてもらっていて。バンドとしても自分自身としても、どういう風に活動を続けていくのがベストなのか、いろいろな選択肢を考えつつ、やるべきことを一つひとつこなして丁寧に選べていけたらいいなと思っています。

――阿左美さんの今の話を聞いて思ったのですが、kurayamisakaが描く青春性って10代〜20歳くらいの青春真っ只中な人が描くそれとは違っていて、青春を俯瞰して描いた青春性を感じるんですよね。青春の終わりを知っている人が、“今この瞬間”を大事にするために青春を描いているというか。だから仕事も含めて、懸命に今を生きている人にこそ刺さる余地がある作品なんじゃないかって思いました。

阿左美:確かに。単純に10代とか20歳そこそこじゃないっていう事実もありますけど(笑)、今言っていただいた面で、物語性に共感できるところはありますね。僕はあまり明るい学生時代を過ごしていなくて。1人でずっと音楽を聴いていたりとか、そういう意味では“青春”というものに共感できない部分はあるんですけど、大人になって仕事をするようになって、視野が広がって、「そういう人生もあるよね」とか、いろいろな物語を肯定的に捉えられるようになったのは、自分にとっての大きな成長だと思います。なので、若い人たちが今作の歌詞を読んで「自分のことかな」って青春を投影することもあるかもしれないけど、そういう人たちが何年も経った後に改めて聴いてみて、また新しい視点で曲のよさに気づいてくれたら嬉しいなと思います。本当に長く付き合える1枚になったんじゃないかなって思いました。

kurayamisaka ライブ写真

――ありがとうございます。最後に堀田さんはいかがですか。

堀田:矛盾を抱えながら、いろいろな視点が織り混ざって成り立っているアルバムなので、リスナーの方々もそれぞれの視点や感覚を大切にしながら、kurayamisakaに触れてほしいですね。音楽は聴かないという人もいるかもしれないんですけど、歌詞を読むだけでもいいし、アートワークを見てもらうとか、よかったらライブに来てもらうとか、あらゆる角度からkurayamisakaの芸術的要素を認識してほしいなと思います。そうやっていろいろな人に食いついてもらえるように、kurayamisakaが1つの媒体になって続いていけたらいいなと。多方面の人たちが興味を持ってくれたらバンド名は話題に上がり続けるわけですから、たくさんの人に「kurayamisakaって何だろう?」と考え続けてほしいですね。

◾️リリース情報
1stフルアルバム
『kurayamisaka yori ai wo komete』
配信・購入:https://lnk.to/kurayamisaka_yori_ai_wo_komete
・LP(A式ダブルジャケット):¥6,200(税込)
・CD(スリーブケース):¥3,500(税込)
※初回生産分のみbonus live CD「kurayamisaka tte, doko? #4 -はじめての単独公演編-」付き(LP/CDともに)

<収録曲>
1. kurayamisaka yori ai wo komete
2. metro
3. sunday driver
4. modify Youth
5. nameless
6. evergreen
7. sekisei inko
8. weather lore
9. ハイウェイ
10. theme (kurayamisaka yori ai wo komete)
11. jitensha
12. あなたが生まれた日に

◾️ツアー情報
『kurayamisaka tte, doko? #6「くらやみざかより愛を込めてツアー」』
9.27(Sat) SENDAI FLYING SON
10.4(Sat) SAPPORO BESSIE HALL
10.11(Sat) FUKUOKA Utero
10.24(Fri) NAGOYA CLUB QUATTRO
10.25(Sat) UMEDA CLUB QUATTRO
11.9(Sun) KAWASAKI CLUB CITTA'
チケット:¥4,500(税込)
購入リンク:https://eplus.jp/kurayamisaka/

■関連リンク
X(旧Twitter):https://x.com/kurayami_saka
Instagram:https://www.instagram.com/kurayamisaka_band/
YouTube:https://www.youtube.com/@kurayamisaka_official

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