mekakushe × 望月麻衣 星詠み占い対談 音楽家と作家に共通する言葉へのこだわり

mekakushe × 望月麻衣 星詠み占い対談

小説は、ゆっくりと読者に寄り添ってくれるもの

ーーそれぞれご自身の作品の好きなところを挙げるとしたら、どんなところになりますか?

望月:私は何よりも読みやすさにこだわっているんですよ。文芸的な美しい文章に憧れはするんですが、それよりいまは、誰にとっても読みやすいことを大切にしたいなと。というのも、元々私は漫画しか読めない子供で、母は心配して何か小説を読め読めと言っていたんです。でも、家にあるのは松本清張さんとか大人向けで、3ページ進んでも場面が変わってない! みたいな感じだったんです(笑)。その時に母が、赤川次郎先生の『三毛猫ホームズの推理』を渡してくれて、これならあなたでも面白く読めるはずよって。本当? と思いながら読んだらめちゃめちゃ面白くて、最後まで一気に読めたんですよね。それまで漫画しか読めなかった子が本を1冊読み切るのは大仕事というか、すごいことを成し遂げたような気になって、今思えば自己肯定感がすごく上がったんですよね。私はその時に赤川次郎先生みたいに、漫画しか読めないような子でも面白く読める小説家になりたいと思ったので、するすると読めることを意識しています。

ーーそこに望月さんの美学があるんですね。

望月:そうですね。「軽い読み物」と言われたとしても、私はそれでいいと思っています。自分で書いた後にワードの音声読み上げをして、ダメダメ! と思ったらすぐに直します。

mekakushe:私が書いている曲は今のお話の歌詞版だと思います。私は難しい言葉を使わないようにしていて、辞書を引かなくてもわかる言葉で表現する、というのをすごく大切にしています。

望月:スッと入ってくるように。

mekakushe:自分の言葉の好きなところは、難しい言葉を使っていないけど言葉の組み合わせで新しく聴こえるところ。確かに散文的な歌詞に憧れたりもするんですけど、やっぱり自分にできないことを誰かがやっていて、自分にできることを自分がやっているというか。そうやって世界が回っているんだと思うから、私はこの表現を突き詰めようと思っています。歌詞は小説と違って制約のある中で書くものですから、その一文と何時間も睨みっこして、ここは本当に「た」でいいのだろうか、「か」のほうがいいんじゃないかとか、何日も自分の中で会議をして決めるんですけど。制約のある中でこそ輝く歌詞があると思うので、そこは人からはわからないかもしれないけど、私はすごくこだわり抜いた音楽を発表している。それが誇りなのかなと思います。

ーーmekakusheさんは望月さんに何か聞いてみたいことはありますか?

mekakushe:質問というか感想になっちゃうんですけど、小説ってゆっくりと読者に寄り添ってくれるものだと思うんです。音楽は4分で聴けるけど、小説は4分じゃ読めないじゃないですか。そこは全然違うものだし、ゆっくりじんわりと入ってくるというのは今の時代にすごく大切なことだと思うんですよね。近年は音楽も短くなってきて、2分で曲を終わらせたり、いきなりサビから始まったり、イントロがなくなっちゃったり、そういう風にクリエイティブの人が頑張っているんだと思うんですけど。

望月:飽きさせないようにしているんですね。

mekakushe:小説だけはゆっくりと気長に表現できる美しさがあって、そこが音楽とは逆だと思うし、時間をかけて作品を書ける人はすごいです。私は長い文章を書けないので、作家さんはこんなに長い文章を書いて、こんなに沢山の人が出てきて、頭の中はどうなっているんだろうって思います。

望月:作家の中にはプロットをしっかり作ってから文章を書いていくタイプと、見切り発車タイプがいて、私は後者です。まずは良さげな冒頭を書き、じゃあこの人はどうなっているんだろうみたいなことを探りつつ、世界を覗いていくみたいな感じで書いていきます。でも、設計図は出していないだけで、どっかにあるんですよね。それに沿って進んでいく中で、思っていたよりもいい感じのルートがあったらそっちに行くし、半分くらい書いた時に自分の中で編集者的な視点が生まれるので、ここら辺が雑じゃない? とか、あの人も出せば? とかツッコミが入ってきて、書きながら整えていきます。

ーー全体像を考えずに書けるものなんですね。

mekakushe:そっちの方が難しそう。

望月:フェイスブックの創始者のマーク・ザッカーバーグが「完璧を目指すな、まずは終わらせろ」と言っていて。「それだよね、後で直せばいいんだよね、頼もしい人がいっぱいいるんだから」みたいな感じです。

――桜田千尋さんが描いた1枚のイラストを見ただけで物語を書き上げたというエピソードも聞きました。他の方の作品から受けるインスピレーションもパワーとして受け取って、そこから一気に作り上げることもあるんですね。

望月:3巻の『満月珈琲店の星詠み~ライオンズゲートの奇跡~』に出てくるダイビング・ソーダはすごく好きなイラストで、触発されて前に進んで行けました。

mekakushe:あの絵からあのお話ができるなんてすごすぎます。

望月:担当さんに「すみません、今回無理かも」みたいなことを言っておきながら、桜田さんの新作を見ると素敵! 書けましたー! とかやっているから、私がいくら「もう書けないです」と言っても全然信じてくれないんです。

mekakushe:(笑)。

望月:オオカミ少年みたいになってるんですけど(笑)。ただ、先ほどmekakusheさんは長いものは書けないと言われましたけど、たぶん小説は誰もが頑張れば書けると思うんです。

mekakushe:いやいや(笑)。

望月:「人間誰しも一編は小説を書ける」という話があるらしいんです。でも、作曲ってできますか? 私は文章をやっているので、歌詞は頑張ればもしかしたらできるかもしれない、という気持ちがあるんですけど、作曲はできない。曲って浮かぶ気がしないんですよ。

mekakushe:それはもう、そっくりそのままお返しします。

望月:音楽なんて浮かんだことがないんですけど、流れてくるんですか? 湧き出るの?

mekakushe:(笑)。

望月:ピアノや楽器に触れながら出していく感じなんですか?

mekakushe:うーん、色んなパターンがあるんですけど。私は詞先で曲を書くので、先に歌詞があってその歌詞に結びついたメロディを作るんですよ。歌詞を見ているとそれに合いそうなメロディが浮かんできます。

望月:それって幼い頃からいっぱい音楽を聴いているからできることなのでしょうか?

mekakushe:いや、全然関係ないと思います。そもそも詞先で曲を書く人は少ないので、なんでそういう書き方ができるようになったのか私も全くわからないんですけど、逆にメロディからは作れないんです。やっぱり言葉がないと何も浮かんでこない。

望月:物語なんですね、mekakusheさんにとって曲は。リクエストしてもいいですか? たとえば水星をイメージした曲とか、金星をイメージした曲など、星たちをイメージした曲をmekakusheさんに書いてほしいです。

mekakushe:ええ!!

望月:金星はときめきとか恋とか娯楽、水星は学びとか成長、そういう感じで惑星と結びついた楽曲をこういうジャケットで(『ラヴレター世界宛』)作ったら素敵じゃないですか?

mekakushe:すごく素敵です。EPを作りましょう!

ーー11月にはアルバムのリリースもありますね。

mekakushe:宇宙をコンセプトにしたアルバムを絶賛制作中です。タイトルは『138億年目の恋』。

望月:素敵なタイトル! 琴線に触れました。

mekakushe:ビッグバンで宇宙が生まれてから138億年経っていることを知って、このタイトルにしようと決めました。もともと宇宙をモチーフにした曲ばかり作っていたので、その真骨頂みたいな曲を集めようと思い新曲を書き下ろしています。それが終わったら先ほど言ってくださった、星で曲を書くというのを早速始めたいです。あと、つい先日30歳になりまして。

望月:おめでとうございます。ぜんぜん見えないですね。

mekakushe:ありがとうございます(笑)。30歳になれたことが夢みたいです。

望月:嬉しかったんですか?

mekakushe:すごく嬉しかったです。

望月:そうですか。私は30の時、嫌で嫌でたまらなかったです。

ーー(笑)。

望月:40になる時も嫌だったんですけど。

mekakushe:本当ですか!(笑)

望月:今年50になったんですけど、50は嬉しかった。49って嫌じゃないですか、しがみついているみたいで。今年は、抜けたー! みたいなよろこびがありました(笑)。

mekakushe:周りの大人たちが「人生は30歳からだよ」と、口を揃えて言っていたので楽しみでした。20代で名前を変えた辺りはずっと運が悪いというか、色々と上手くいかないなと思っていたけど、20代後半から変わっていって、特に今年に入ってからは何もかも上手くいくようになっちゃって、30歳に向けて自分がどんどん良くなっている感覚があります。生活を丁寧にやる、ということを心がけるようになったから、こうやって前向きな気持ちで30歳になれたんだと思うんです。20代の辛かった時の自分に、30歳の自分が書く音楽を聴かせてあげられるのが嬉しいし、40歳になった自分が書く音楽を聴きたいので、そうやって歳を重ねていけたらなと思います。

ーー望月さんは今後どんな創作をしていきたいですか?

望月:ありがたいことに去年作家デビュー10周年を迎えまして、コミカライズやアンソロジーも含めると、関わった著作が100冊になったんです。本当に沢山の方に力になっていただいて、恩返しのような気持ちになってきているといいますか。これからは自分の書きたいものというよりかは、求めてもらえるものを書いていきたいです。あと、一時期はすごく賞が欲しいと思っていたんですけど、それもちょっとすぎて、今は面白いと思ってもらえる話を書けたらいいなと。読書ってデジタルデトックスができると思うんです。電子書籍もありますけど、それも含めてその間は物語に浸れますよね。どういう形になっていこうと物語というのはずっと残っていくものだと思うので、作家の端くれとしてこれからも自分なりに頑張っていきたいです。

ーー10月には、海外の大きな文学祭にも招かれたそうですね。

望月:そうなんです。『満月珈琲店の星詠み』はありがたいことにいま世界26カ国で翻訳されていて、イギリスでは今年の秋に2巻の翻訳も出るんです。そんなタイミングで、イギリスで権威のあるチェルトナム文学祭に呼んでいただけて。これまでずっと「海外でサイン会をするのが夢だ」と言ってきたので、それが叶うことになってとても嬉しいです。満月と新月の日に願い事を書く、というのを遊び感覚でやっていたんですけど。射手座は遠い世界と繋がれる時だから、その時に「海外でサイン会ができることになりました」と書いて、わざわざ海外で使えるだろう挨拶文を考えていたんです。そうしたら本当に叶ったので、ほんとに叶った怖い! みたいな(笑)。

mekakushe:すごい......!

望月:でも、遊び半分の気持ちだからいいんです。真剣にやっちゃダメなんですよ。

ーー欲を出しすぎるといけないんですかね?

望月:宇宙の法則って執着になると叶わないので。叶うといいなぁという遊び感覚ですね。私がデビューできなかったのはずっと執着が強かったから。しんどすぎて「これがダメだったらやめよう」ってなった時に、たぶん中庸になったんだと思うんです。

ーー海外といえば、mekakusheさんも今年はアジアに何度か行かれてますね。

mekakushe:行きました。今年になって急に海外でのライブが増えたんです。

望月:アジアはどちらですか?

mekakushe:香港、北京、上海。来月はマレーシアに行きます。アニメのタイアップのご縁もあって、海外のアニメのイベントにも誘っていだただけるようになりました。海外で私の音楽を聴いてくれている人に会えるというのは、夢にも描いていないような憧れだったんです。

望月:嬉しいですよね。

mekakushe:全く実感が湧かない。でも、サイン会をしたら確かにそこにファンの方たちがいて。

望月:実在している! みたいな。

mekakushe:「好きです」と言ってくれたのがすごく嬉しかったです。エネルギーをもらって帰ってこれたので、素敵な経験になりました。『満月珈琲店の星詠み』は続編は出るんですか?

望月:はい。6巻までが一応第一部みたいな感じで、次の7巻からはまた新しい登場人物たちも。今年の12月発売と担当さんからは聞いていますが、書けるのかな?

ーーこれから書かれるんですか?

望月:お話が思い浮かばないので、次は表紙の絵から想像していこうと思いました。

mekakushe:(笑)。

望月:読者のみなさんにも「満月珈琲店がどこに現れたら嬉しいですか?」とことあるごとに伺っていて。トレーラーカフェが砂漠の上で迎えてくれたら素敵! ということになり、さっそく鳥取砂丘に行ってきました(笑)。

mekakushe:素敵です。新刊楽しみにしています。

◾️mekakushe
デジタルシングル
「ランデヴ」
8月27日(水)リリース
配信リンク:https://linkco.re/hhvAcVSc
MV:https://www.youtube.com/watch?v=TxljpD_lzxY

デジタルシングル
「ずっとエメラルド」
7月26日(土)リリース
配信リンク:https://linkco.re/29Fx4Qf6

デジタルアルバム
『138億年目の恋』
11月7日(金)リリース

プラネタリウムライブ『mekakushe Planetarium Acoustic Live ~138億年目の恋~』
11月27日(木) プラネタリアTOKYO DOME1(有楽町マリオン9階)
1st stage 18:00開演(17:30開場)
2nd stage 20:00開演(19:30開場)
※弾き語り
詳細はこちら:https://planetarium.konicaminolta.jp/planetariatokyo/dome1/mekakushe/

関連リンク
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◾️望月麻衣
望月麻衣 桜田千尋「満月珈琲店の星詠みシリーズ」特設サイト
https://books.bunshun.jp/sp/full_moon_coffee

望月麻衣 公式X(旧Twitter):https://x.com/maimotiduki
望月麻衣 公式Instagram:https://www.instagram.com/maimotiduki/
望月麻衣オフィシャルブログ:https://ameblo.jp/maimotiduki/

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