新着MVランキング:「いますぐ輪廻」に潜む異形のポップ構造 なきそが2分間で鳴らすサウンドの技を紐解く
MV Chart Forcus
毎週更新される「YouTube Music Charts」ウィークリー ミュージック ビデオ ランキングより、MVをはじめとした音楽関連の新着動画から上位10作品/楽曲を取り上げ、ランキング化&レビューしていく連載「MV Chart Focus」。8月1日〜8月7日のウィークリー新着のTOP10は以下の通り(※1)。
1位:なきそ「いますぐ輪廻」MV
2位:藤井 風「Love Like This」MV
3位:Snow Man「Jack In The Box」Performance Video
4位:阿部真央「貴方の恋人になりたいのです」THE FIRST TAKE
5位:なにわ男子「Black Nightmare」MV
6位:京本大我(SixTONES)「Night rider」MV
7位:初星学園「Star-mine」MV
8位:乃木坂46「ってかさ」MV
9位:back number「幕が上がる」MV
10位:King & Prince「What We Got 〜奇跡はきみと〜」MV
今週のランキングで1位を獲得したのは、ボカロP・なきその新作「いますぐ輪廻」MV。週間視聴回数は約258万回で、藤井 風の新曲「Love Like This」MVの約177万回を大きく引き離している。
「いますぐ輪廻」はキックとスラップベースのヒット一発のごく短いイントロから、ファンシーなアルペジオがキャッチーなメロディを彩るサビから始まる。かと思えば、モノトーンでハードなベースが響くテクノのビートに突入。2分ほどの短い尺にこんなインストパートが合計16小節も挿入されているのは少し意外だが、“かわいい”雰囲気の裏にダークでヘヴィなストーリーをほのめかす二面性の演出には不可欠な要素になっている(鬱展開、スプラッター展開を思わせる恋愛シュミレーションゲームを模したMVを観ればわかりやすい)。
興味深いのはどういうふうにこの曲がループしているかだ。サビは7小節とややイレギュラーだし、スムースな展開をためらわせるように余分に2拍挿入されたり。上手くいかないと見るや、すぐにリセットする無限地獄のような印象が強まる。一方、ゲームのリセットのメタファーが直接的な“死”に繋がる終盤のたたみかけでは、それまで小節頭から始まっていたサビがアウフタクトになって、後戻りできない一線を超えたかのような不穏な感情の高まりに結びついていく。永遠の表現につながりやすい反復だけれども、「いますぐ輪廻」では反復が寸断されることで、輪廻=リセット(=その中に含意される死)の持つ意味が強まっていると言える。
なきそは2018年に活動を開始し、2022年には「ド屑」がバイラルヒットとなった人気ボカロPのひとり。もともとバンド編成的なサウンドでアップテンポな楽曲を主として制作していたが、2021年ごろから音楽性の幅が広がり、トラップやダブステップといったEDM的なサウンドを取り入れるようになった。ジャンルの横断性は特に興味深く、過去の楽曲では「みまま」のように、ブレイクコア的なブレイクビーツの刻みやドリフトフォンクを思わせるリフといったインターネットを中心に広まったジャンルへの参照も見られる。順繰りに作品を聴いていくと、プロダクションの拡張と洗練が進むにつれて物語や世界観の没入性も高まっている印象がある。
ところで、前回(※2)取り上げたのはベテランボカロP・DECO*27の「チェリーポップ」。オリコンの週間ランキングと比較すると、YouTubeのランキングにフォーカスした新しい連載では、当然ながらまったく違うチャートの風景が広がっていることがわかる。初回で取り上げたTWICEのようにK-POPのアーティストが登場することは予想していたものの、ボカロPについても取り上げる機会が増えそうだ。
※1:https://charts.youtube.com/charts/TopVideos/jp/weekly


























