山下達郎、VULFPECK、VAMPIRE WEEKEND……例年以上の盛り上がり見せた『フジロック'25』名シーンを振り返る

新潟県・苗場スキー場で7月25日~27日にわたって開催された『FUJI ROCK FESTIVAL '25』(以下、『フジロック』)。延べ12万2千人が来場した今年は、FRED AGAIN..、VULFPECK、VAMPIRE WEEKENDといったヘッドライナーを筆頭に、200組以上の国内外アーティストが出演。新設された「ORANGE ECHO」ステージや、観客のニーズに対応した日程別ラインナップ発表など、新たな試みも話題に。苗場の豊かな自然の中で、多様な国籍、年齢、背景、価値観の人々が「音楽」を媒介に繋がった、かけがえのない3日間となった。
7月25日(金):DAY 1
今年も最初に観たのは毎年恒例、『フジロック』のために編成されたスペシャルバンド、 ROUTE 17 Rock'n'Roll ORCHESTRA 。池畑潤二、花田裕之、ヤマジカズヒデらの常連メンバーに加えて、GREEN STAGEのトップバッターを務めたUSの3人と、Hothouse Flowersのリアム・オ・メンリィが参加。彼らがカバーするThe Who「Pinball Wizard(ピンボールの魔術師)」やThe Beatles「With A Little Help From My Friends」といったロックのスタンダードナンバーで会場は一気に沸騰した。スペシャルゲストとして登場した山下久美子は、圧倒的な存在感でステージを掌握。佐野元春が彼女のために書いた「So Young」、そして不朽の名曲「My Way」、さらに自身のヒット曲「赤道小町ドキッ」を披露した。
お祭りムードが最高潮に達したところで、両腕で杖をつき、上裸&Tシャツをショートパンツのように履いた甲本ヒロトが登場! 情報量が多すぎて理解が追いついていかないが、どうやら骨折しているらしい(「バイクで来た奴ら、気をつけて帰れよ!」のMCから推測)。しかしヒロトは不自由そうな身体をものともせず、エネルギッシュに「Please Mr. Postman」を熱唱。「なんで世の中がどんどん壊れていくか知ってますか?ーー新しくなるためです!」という名言も吐いて観客一同を酔わせてくれたのだった。最後は出演者全員で「ドレミの歌」を大合唱。明るくハッピーなバイブスが広がり、今年も最高の3日間になると確信させる絶好のスタートとなった。
次は今年「ORANGE ECHO」の名前で復活した、ORANGE CAFEエリアのステージに移動。昨年のROOKIE A GO-GOで大評判だったHOMEを観る。こうした「出世物語」を見ることができるのも『フジロック』の楽しみのひとつだ。昨年のパフォーマンスはパンクの要素が強く、パフォーマンスもブッ飛んでいて強烈な印象を残したが、今年はメロウな曲とスピード感のあるエレクトロポップをバランスよく配したセットリストで、ぐっと大人っぽくなった印象。インディーロックとクラブミュージックを縦横無尽に行き来するサウンドのユニークさもさることながら、まだまだ未知の部分や伸び代があることを感じさせる、存在自体にエッジがあるバンドである。次は深夜のRED MARQUEEで見たいなと思った。
そのまま、楽しみにしていたマヤ・デライラを観にFIELD OF HEAVENへ。「新世代のノラ・ジョーンズ」とも言われている彼女のライブは、ジャジーな雰囲気の「Actress」からしっとりと始まった。カジュアルな赤のセットアップを着た彼女は、ギターをつまびきながら語りかけるように歌う。スモーキーな声が夕闇にゆったり溶けていく。最高だ。何気なく弾いているように見えるが、ギターのテクニックも相当なもので、優しい渋みとでもいうような独特のエッジがたまらない。
しばらくゆったりとした時間が続いたが、中盤では「今までとは違う、ファンクの曲です」と言ってやにわにファットなグルーヴを奏で出し、ファンキーな側面を見せてくれたりも。聴衆はハンドクラップで参加して、会場は心地よい一体感に包まれた。その後、初めてライブで披露するという新曲やColdplay「Sparks」のカバーも交え、洗練された極上のひとときを味わわせてくれた。

この日のFIELD OF HEAVENのトリはEZRA COLLECTIVE。オープニングでは日本語のナレーションが流れ、「さあ、ずっとダンスしましょうか」という言葉と共にメンバーがにぎやかに登場。情熱的なラテンダンスナンバー「Shaking Body」を演奏すると会場はたちまち興奮のるつぼに。手拍子と歓声が自然に起こり、クライマックスがいきなりやってきたような熱狂状態に突入した。フェミ・コレオソのダイナミックなドラムとベースのTJ・コレオソが生み出す分厚いグルーヴを基盤に、ジャズ、ファンク、ラテン、アフロビートを華麗にミックスし「とびきり踊れるダンスミュージック」を矢継ぎ早に紡いでいくスタイル。トランペットとサックスの力強いユニゾンも最高だ。

このままノンストップでダンスの時間が続いていくのかと思いきや、TJが通訳を呼んで、聴衆に「踊る準備はできてるかい?」「近くの知らない人に挨拶をして友達になろう!」と丁寧に呼びかける場面も。一語ずつ訳をしてもらうのは「思っていることをきちんと伝えて、みんなに心から楽しんでもらいたい」という彼らの真心だろう。

ジャズを基調としながらも、「鑑賞」されるのではなく、観客参加型のライブにすることでステージと客席の境界を溶かしていく。インプロヴィゼーションと思しき各パートのスリリングな応酬も愉しく、祝祭感溢れるパフォーマンスに胸が熱くなった。
後ろ髪引かれながらもエズラを途中で切り上げ、苗場食堂のLAUSBUBへ。現役の大学生でもある札幌出身のテクノポップデュオは、その若さと音楽性からYahoo!ニュースなどにも取り上げられ注目されていたアクトの一つだ。サウンドチェック中、一体どんなパフォーマンスを見せてくれるのかワクワクしていたところ、聴こえてきたのは細野晴臣の「Sports Men」! リアタイおばさん(=私)、「いいセンスしてる!」と思わず唸る。
かくして始まったライブは、アブストラクトでストレンジなサウンドと高橋芽以(Vo/Ba)の愛らしい声のコントラストが心地よい。全体的にはキュートな印象ながら、独特のトガりが見えるのがとても良い。岩井莉子(Gt/Syn/DJ)による、テクノポップだけでなく現代的なEDMも消化した、センスを感じさせるトラックも素晴らしかった。本番では「Sports Men」をやらなかったのも好印象。自分達の曲だけで勝負してもその魅力は十分すぎるほど伝わった。























