KANA-BOON、go!go!vanillas、THE ORAL CIGARETTES……“アニソン×ロック”の新潮流、作品愛とバンドの矜持の両立

 日本のポップミュージック史は、いつの時代もさまざまなタイアップ楽曲によって彩られてきた。近年の大きな潮流として、米津玄師やVaundy、YOASOBI、Creepy Nutsをはじめとするヒットチャートを席巻するアーティストたちがアニメの主題歌を手掛けるケースが増えている。また、そうした潮流と並行する形で長年にわたって続いているのが、“アニメ×ロック”という系譜だ。この流れは決して今に始まったものではなく、2000年代、2010年代から脈々と続いているものであり、たとえば、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのように、アニメ作品との幸福な関係性を築きながら、海外進出を含めた大きな飛躍を遂げていったロックバンドも多い。

 この約10年間を通して、その系譜を引き継ぎながら更新し続けているバンドの一つが、KANA-BOONだ。「シルエット」が『NARUTO -ナルト- 疾風伝』(テレビ東京系)のオープニングテーマになったことを皮切りに、その後も『NARUTO』シリーズとのタイアップが続いき、「ダイバー」が映画『BORUTO -NARUTO THE MOVIE-』の主題歌に、「バトンロード」がアニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS-』(テレビ東京系)のオープニングテーマに起用された。KANA-BOONは、ほかにも多数のアニメのタイアップを手掛けており、2025年の7月クールのアニメ『Dr.STONE』(第4期 第2クール/TOKYO MXほか)のオープニングテーマとして、最新曲「SUPERNOVA」 が起用されている。どの楽曲も、それぞれの作品の物語を、熱く、時に優しく彩る重要な役割を担っており、アニメの内容と合わせて各楽曲が記憶に深く刻まれている人は多いのではないかと思う。

アニメ『Dr.STONE SCIENCE FUTURE』最終シーズン第2クールノンクレジットOP映像/「SUPERNOVA」KANA-BOON (Ki/oon Music)

 主にロックシーンを主戦場として活動しながらアニメタイアップ曲を手掛けるロックバンドはほかにも多く存在する。2025年7月クールにおけるトピックスとして、go!go!vanillasの新曲「ダンデライオン」が、アニメ『SAKAMOTO DAYS』(第2クール/テレビ東京系)のエンディングテーマに起用されている。作品のために書き下ろされた同曲がフォーカスするのは、主人公・坂本太郎が、戦いを終えて大切な日常へ向かう"帰路"。エンディングテーマという本来の役割を大きく超えて、物語の核心を担う重要なピースとなっている。また、オープニングテーマとして、Kroiの新曲「Method」が起用されており、こちらは、『SAKAMOTO DAYS』 の“静”の側面にフォーカスしたgo!go!vanillasのエンディングテーマと対を成す形で、“動”の側面と熱く呼応するような躍動的なファンクロックナンバーとなっている。

TVアニメ『SAKAMOTO DAYS』第2クールノンクレジットエンディング│go!go!vanillas「ダンデライオン」

 この文脈において、もう一組、忘れてはならないのが、KANA-BOONやgo!go!vanillasたちとともに、2010年代以降の日本のロックシーンで鎬を削り合ってきたTHE ORAL CIGARETTESだ。アニメ『ノラガミ ARAGOTO』(TOKYO MXほか)のオープニングテーマ「狂乱 Hey Kids!!」や、アニメ『SCARLET NEXUS』(TOKYO MXほか)のオープニングテーマ「Red Criminal」、また、2025年7月クールのアニメ『桃源暗鬼』(日本テレビ系)のオープニング主題歌に起用されている最新曲「OVERNIGHT」 。

TVアニメ『桃源暗鬼』ノンクレジットオープニング映像

 『桃源暗鬼』の主人公・一ノ瀬四季が象徴的なように、それぞれのアニメ作品の主人公たちは、自身の宿命と向き合いながら懸命に戦っている。同じように、THE ORAL CIGARETTESの4人もまた、この時代をともに生きるリスナーを奮い立たせるために、ロックバンドとして懸命に闘い続けているのだ。最新曲「OVERNIGHT」しかり、ここで挙げた曲を聴くと、そうした"共闘"の意志がロックサウンドの熱い高揚感とともに伝わってくる。アニメの世界に寄り添いながらも、同時に自身のロックバンドとしての信念を持って真っ向からアニメ作品とぶつかり合うような熾烈な楽曲が生まれたことは、アニメとバンドの双方にとってとても幸福なことだと思う。

THE ORAL CIGARETTES「OVERNIGHT」Music Video (TVアニメ『桃源暗鬼』OP主題歌)

 現行の日本のロックシーンの最前線には、アニメ作品への深い愛や理解をもとに自分たちだからこそのタイアップ曲を書き下ろしているバンドがまだまだ多く存在している。Saucy Dogは、国民的アニメ『クレヨンしんちゃん』シリーズの劇場最新作『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』の主題歌として、「スパイス」を書き下ろした。映画の公開は8月8日のため、作品と楽曲がどのように響き合うかは実際に観てみないとわからないが、石原慎也の「これからもどんなに大変なことがあってもあのワクワクを忘れずに生きていきたいなという気持ちで「スパイス」を書き上げました」(※1)というコメントからも、"小さかった頃の日常のワクワク"にフォーカスして楽曲を書き下ろしたことがわかる。Saucy Dogは幅広い世代から人気を博す『クレヨンしんちゃん』とのタイアップを新たなきっかけとして、きっと今まで以上に大きく躍進していくであろう。

『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』主題歌PV ~Saucy Dog 「スパイス」~【大ヒット上映中!】

 これまでも数多くのロックバンドが、自らの“ロック観”を貫きながらアニメ作品の世界観やテーマに丁寧に寄り添った楽曲を生み出してきた。その姿勢は、音楽が物語の一部として溶け込み、時にキャラクターの心情や物語の節目を深く彩ることを証明していると言えるだろう。アニメとロックの関係性は今や単なるタイアップを超え、物語の“体温”を伝える表現として進化を続けている。

※1:https://tougenanki-anime.com/music/op/

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