タブゾンビ&日向秀和&伊澤一葉&柏倉隆史――奇跡のユニット・Katsina Session 唯一無二の価値を生むセッションの凄さ

奇跡のユニット・Katsina Sessionの凄さ

 音楽シーンの第一線で活躍する4人のプレイヤーが集まり、インプロビゼーションで音を紡ぐ。トランペットのタブゾンビ(SOIL&“PIMP”SESSIONS)、ベースの日向秀和(ストレイテナー/Nothing’s Carved In Stone)、ピアノ/キーボードの伊澤一葉(the HIATUS/東京事変/あっぱ)、ドラムの柏倉隆史(toe/the HIATUS)という、ジャンルも文脈も異なる4人が、2016年の年始に大阪のライブハウスで行ったセッションをきっかけに始動したのが、この奇跡のユニット・Katsina Sessionである。

 バンド名の“Katsina”(カチナ)は、ネイティブアメリカンのホピ族が信仰する精霊に由来するという。タブゾンビは「大事なのは、その場の振動をキャッチすること。テレパシーって知ってるかい?ソレなのさ!我々の振動がアストラル体(神智学の体系では、精神活動における感情を主に司る、身体の精妙なる部分)に共鳴するのさ」とも語っており、彼らにとって音楽とは、エンターテインメントを超えた“身体”と“精神”をつなぐ儀式のような営みなのだろう。

 そうした意識は、演奏スタイルにも通底している。リハなし、打ち合わせなし、台本なし。4人が音で交信しながら、その場限りの音楽を紡いでいく。ライブに足を運んだ者にしか味わえない、一期一会の音体験。その高密度な空気を共有することが、Katsina Sessionの真の魅力である。

 冒頭で述べたように、各メンバーの個性も際立っている。タブゾンビは、ジャズ/クラブシーンにおける重鎮でありながら、メタルやファンクにも造詣が深いトランぺッター。激情と叙情を自在に行き来するブローは、Katsina Sessionの音に荒々しさと艶を与える。日向は、ART-SCHOOLやZAZEN BOYSを経て、現在はストレイテナーやNothing’s Carved In Stoneで活動中。骨太な低音でありながら、時にメロディックに“歌う”ベースラインが彼の真骨頂だ。実際、彼のベースリフが流れを生み、即興の方向性を決定づける瞬間は数知れない。

 伊澤は、東京事変やthe HIATUSで鍵盤を操る天才肌のミュージシャン。クラシックやジャズ、ロック、電子音楽を自在に横断し、時に叙情的に、時に破壊的に鍵盤を操る。ひとたび彼のフレーズが飛び出すと、セッションの流れが急旋回することもある。柏倉は、toeの精密かつ表情豊かなドラミングで知られ、感情とロジックの両輪を持つコンテンポラリーなドラマーだ。大胆な間合いと予測不能なブレイク、そしてしなやかなグルーヴ。柏倉の一打一音が、セッションの生命線を担っていると言っても過言ではない。

 この4人が即興でセッションすれば、ケミストリーが起きないわけがない。ジャンルの垣根を越え、まったく新しい音楽の景色が立ち上がる。その過程には驚きとスリルがあり、観客もまた創造の場に立ち会っている感覚を味わうだろう。ライブ会場では誰もが呼吸を止めてその一音を待ち、沸点に達した瞬間には歓喜の拍手が巻き起こる。そうした緩急自在のアンサンブルこそが彼らの信条であり、魅力であり、ある種の中毒性を生んできたわけだ。

 そんなKatsina Sessionが、10周年という節目にようやく初音源を発表。今年3月にリリースされた1stアルバム『NiiN』には、「Hopi」「Butterfly dance」「Totem」といったホピ族やネイティブモチーフに由来する名称が並んでいる。内容も実に多彩だ。紫煙のように立ち込めるトランペットの響きから幕を開ける「Hopi」、洗練されたピアノのコードと骨太のリズムが鮮やかなコントラストを生み出すジャズファンク「Butterfly dance」。6分を超える大作「Totem」では、バンド全体がひとつの有機体としてうねりながら、強靭なスパイラルを描いていく。

 まるでエレクトリック時代のマイルス・デイヴィスを彷彿とさせるような、ジャジーかつプログレッシヴな「Naki Naki」を経て、「Neon drip」では現代的な都会の色彩を想起させる音像が展開される。「Snake maze」では歪みまくったベースやオルガン、トランペットが気炎を上げ、終盤の「pömöq」ではメロウなソウルを奏でたかと思えば、ラスト曲の「S.O.K!!!!」で再びバンドはカタルシスを迎える。即興と構成美がせめぎ合う絶妙なバランス。ライブの一瞬を切り取ったような生々しさと、アルバムとしての完成度を両立した一作だ。

 彼らは、このアルバムを携えてビルボードライブ横浜(7月17日)、ビルボードライブ大阪(8月20日)をまわるツアーを開催する。横浜では純度100%のKatsina Sessionが堪能でき、大阪ではスペシャルゲストに後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が参加。バンドの代表曲に加え、Katsina Sessionの即興と後藤のポエトリーリーディングが融合する一夜限りのパフォーマンスは必見だ。言葉と音、詩と衝動。その出会いがどんな音楽を生むのか、その場に行くまで誰にもわからない。あらゆる情報が事前に共有されるSNS時代だからこそ、そこには唯一無二の価値があるのだ。

 Katsina Sessionの音楽は、生き物のようにその場の空気を吸い、変化し、感情を激しく揺さぶる。そんな体験を、ぜひとも自分の耳と身体で確かめてほしい。

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