『蓮ノ空』が提示した“伝統曲”という概念 スクールアイドルの存在を遺す『ラブライブ!』の新たな可能性
『ラブライブ!シリーズ』の魅力は数あるが、その中でもやはり楽曲の素晴らしさを語らないわけにはいかない。スクールアイドルは高校生活の3年間しか活動できない、非常に刹那的な存在だ。ゆえに、少女たちが生み出す一曲一曲には、その瞬間にしか生まれない感情が宿る。初ライブ、『ラブライブ!』大会、すれ違いからの和解――瞬きすれば過ぎ去ってしまうような瞬間が切り取られ、一つの曲として完成する。少女たちから生まれたオリジナルの熱、不安、葛藤、希望、剥き出しの感情がサウンドとリリックに乗せて届けられるのだ。その限られた時間の愛しさと想いが形を成して我々へ訴えかけてくる楽曲の尊さは、『ラブライブ!シリーズ』が刻み続けた“15年”という月日を重ねても変わらない。
だからこそ、『ラブライブ!』の楽曲においては、少女の感情が曲へ昇華されるまでの過程、つまり誕生から披露に至るまでのバックグラウンドは非常に大事にされている。そうした楽曲の抱える文脈にはさまざまな種類があるが、私は『蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』(以下、『蓮ノ空』)が提示した“伝統曲”という概念を非常に興味深く感じている。『蓮ノ空』における伝統曲とは、かつて在籍していたスクールアイドルが作成した曲を、作成者が卒業した後も後輩が歌い継ぎ、現代まで繋がれてきた曲のことを指す。つまり、現在活動中のスクールアイドルによる楽曲ではなく、かつての少女たちが遺した楽曲なのだ。そのため、伝統曲には「今を生きる少女たち」だけでなく、「かつて生きていた少女たちの想い」も内包されている。
伝統曲の歴史はさまざまで、中には数十年前に誕生し、何度も歌詞やサウンドが変化しながら受け継がれてきた楽曲も存在している。そのため、オリジナルからすっかり形を変えている曲もあるのだが、それは決して後輩が楽曲へのリスペクトを欠いたり、制作者の想いを蔑ろにしたということではない。先人の想いだけでなく、“今”を生きている自分の想いも大事にした結果なのだ。そして、楽曲が次の“今を生きる少女”へ受け継がれる度に、込められる想いは増え、いわばタイムカプセルの役目をも果たし、中身を守るために時代に合わせて形を変えていく。伝統曲とは目に見えるその表層だけを指すのではなく、内に積み重なった想いも含めた概念なのだ。だからこそ、とあるスクールアイドルは伝統曲を「時代を超えた思いの繋がり」(※1)と呼んだ。
伝統曲の中には、“受け継がれてきた曲”と“これから伝統になる曲”の2種類が存在している。たとえば、『蓮ノ空』の代表曲とも言える「Dream Believers」は、かつてのスクールアイドルクラブが『ラブライブ!』大会で優勝した時の曲として、現在まで受け継がれてきた伝統曲に該当する。一方、現在『蓮ノ空』に在籍している103、104、105期生が歌う曲、そして卒業した102期生が残した曲は“これから伝統になる曲”に分類されるだろう。
『3rd Live Tour TRY TRI UNITY!!!』では、まさに『蓮ノ空』102期生が生み出した「水彩世界」「AWOKE」「ド!ド!ド!」が伝統になっていく第一歩が描かれていた。102期生としては、曲が受け継がれていってほしいという願いがあったようだが、そのバトンを受け取る一員である104期生には大きな勇気が必要な行為だった。
なぜなら、これらの楽曲はもともと102期生のアイドルと103期生のアイドル、ふたりでステージに立っていた、当時の乙宗梢、夕霧綴理、藤島慈が感じていたことが強く反映された楽曲だからだ。そのため、後から加わった104期生が歌うというのは、見ているファン以上に、歌う104期生本人たちが違和感を感じていたはず。しかし、それでも彼女たちは歌い継ぐ決心をする。「これから伝統になっていく」というこの過程にこそ、『蓮ノ空』の“みんなで叶える物語”があると感じるのだ。























