劇場版『ラブライブ!サンシャイン!!』再考録 “普通の少女たち”が示した希望、本作が遺した功績とは?

 2025年7月4日から2週間限定で、『ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow』(以下、劇場版『ラブライブ!サンシャイン!!』)の4DX版が上映されている。2019年の上映以来、何度も再上映を行うほど根強い人気を誇るアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(TOKYO MXほか)の劇場版が、今度は体験型のスクリーンとともにファンの前へと帰ってきた。そこで本稿では、あらためて9人のAqoursの終わりと、6人のAqoursの始まりを描いた本作の魅力に迫ってみたいと思う。

『ラブライブ!サンシャイン!! The School Idol Movie Over the Rainbow』4DX 2025年7月4日(金)より2週間限定上映!

 Aqoursの物語に焦点を当てる前に、まずは『ラブライブ!The School Idol Movie』について触れておきたい。本作を簡潔に説明するのであれば、社会現象となるほどの眩い輝きを放ったμ'sが、その最後をもって永遠に語り継がれる伝説の存在となっていく“終わり”を描いた話だった。アニメ本編において、μ'sは3年生の卒業とともに、グループを終わらせる決断をした。しかし、『ラブライブ!』大会での優勝を果たしただけでなく、ニューヨークでのライブを成功させた彼女たちに対して、世間はμ'sの存続を望む。それでも、μ'sは「限られた時間の中で精一杯輝く」スクールアイドルであることに価値を見出し、終わりを選択。そして、μ'sは最後にスクールアイドルの素晴らしさを伝えるライブと、彼女たち自身のラストライブをもって有終の美を飾った。彼女たちの一連の活躍をもって、スクールアイドルの祭典である『ラブライブ!』はドームで開催されるほど巨大な大会へと発展していく。μ'sはA-RISE(作中のスクールアイドル)とともにスクールアイドル黎明期を支え、スクールアイドルという文化へと押し上げた、偉大な存在となったのだ。

「ラブライブ!The School Idol Movie」特報

 では、劇場版『ラブライブ!サンシャイン!!』で描かれた物語とは何だったのか? 一言で言えば、3年生の卒業により6人となったAqoursが、新体制となり再出発するための物語である。TVアニメでは、Aqoursは母校である浦の星女学院の廃校を阻止できなかったものの、『ラブライブ!』大会での優勝を見事に果たした。しかし、劇場版でも、彼女たちの前にまたしても壁が立ちはだかる。春からAqours含めた浦の星女学院の生徒達は統廃合先の学校に通うことになるのだが、保護者たちは浦の星女学院やAqoursの存在に懐疑的だったのだ。さらに、3年生が卒業したことで心に不安が生まれ、優勝を果たした時とはほど遠いパフォーマンスしかできなくなってしまう。そんな中、残されたメンバーは3年生がいない新しいAqoursの形を見つけながら、統廃合先の学校に認められようと奮闘する。

 このあらすじを聞くと、海外からライブのオファーを受けたり、全国のスクールアイドルを巻き込むライブをした壮大な前作に比べると、かなりスケールの小さい作品にも感じられるだろう。だが、それこそが『ラブライブ!サンシャイン!!』の物語、ひいてはスクールアイドルの本質であると言える。

冒頭映像7分公開!「ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow」

 以前、本作の監督・酒井和男は、『ラブライブ!サンシャイン!!』は、世界は変わらないように見えても、自分が変われば世界は変わるということに気づく物語なのだとと語っていた。つまり本作の本質とは、スクールアイドルたちの行動の結果ではなく、その“過程で得た意味”にある。本編を見ればわかるが、Aqoursの活躍をもってしても、驚くほど世界は変わっていない。大会優勝校にもかかわらず、地元の高校にすらその存在は認知されていないし、海外で3年生とのストリートライブを経た上で挑むことは、統廃合先の学校に自分たちの価値を認めさせること。どこまでいってもAqoursは等身大の少女であり、挑戦者でしかなかった。

 それでも、Aqoursは確かに“自分たちの軌跡”に意味を見出す。そして、その軌跡は決して消えない、0にはならない――その気づきを胸に抱いて、Aqoursは3年生のいない未来へと踏み出していく。そんな彼女たちの姿を見て、統廃合先の学校の人々もAqoursを認め、その輝きに憧れる少女が現れたところで物語の幕は閉じる。世界は大きく変わらなくても、Aqoursの未来へと向かう姿勢が、彼女たちとその周りにある小さな世界を確かに変えたのだ。

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