TRACK15の涼やかなサウンドを形作るもの シンガロングで心を通わせた『season』ツアーファイナル公演

 TRACK15が、2ndミニアルバム『season』のリリースを記念して東名阪ツアーを開催した。

 6月7日、東京・渋谷CLUB QUATTROで行われたツアーファイナル公演は、TRACK15が“シャイ兄”と呼んで慕う先輩バンド、シャイトープとのツーマンライブだった。シャイトープは、最新シングル表題曲「It's myself」を含むセットリストを披露。盛り上がる観客に対して、「みんなこの日をすごく楽しみにしてたんだね。TRACK15がどういうバンドなのかをみなさんが表現してるんだと思う。最高のバンドだね」と伝える姿が素敵だった。

 TRACK15のステージは、『season』の1曲目かつリード曲でもある「脇役スター」からスタート。音源同様、蓮(Vo/Gt)の印象的なブレスから始まる一方、ピアノをバックに歌うのではなく、蓮がギターでコードを鳴らしながら歌うというライブアレンジが施されていた。蓮の持ち味である透き通った歌声が響く会場では、ミラーボールが回り、星空を思わせる幻想的な光景が立ち現れる。心惹きつけられるオープニングだ。メンバー4人で息を合わせて一発音を鳴らしたあと、蓮の「会いたかったよ、渋谷!」という言葉をきっかけに、バンドのサウンドが広がった。

 その瞬間、私は「なんて涼やかなサウンドだろう」と思わず息を呑んだ。まず、寺田航起(Gt)の奏でるギターリフ、アルペジオが美しい。寺田はエレキギター特有のジャキッとしたアタックよりも、響きを重視した音作りをしている。「涼やかな」という印象の大部分を担っているのは彼だろう。響きの美しさを損なわないよう、弦にタッチする時にも繊細な気遣いをしているはずだ。衝動に任せて音を鳴らすというよりも、やわらかなサウンドでリスナーを包み込み、ハーモニーの美しさで魅せるタイプのバンドだけに、リズム隊である高橋凜(Ba/Cho)、前田夕日(Dr/Cho)のプレイの質感も問われるところだ。あまりにも躍動的すぎると、バンドのアンサンブルからリズムだけが浮いてしまう。とはいえ、無暗にテヌートをつけるだけでは、平面的に聞こえたり重たくなりすぎたりしてしまう。そんなバランスを問われる状況で、高橋と前田は絶妙なニュアンスづけを行っていて、見事なものだと感心した。今のバランスを掴むため、いろいろと試行錯誤したのではないかと想像する。

寺田航起
高橋凜
前田夕日

 寺田、高橋、前田の奏でるサウンドは、清涼感のある蓮の歌声との親和性が高く、豊かに響き合っている。おそらく、蓮の歌声がTRACK15の武器であると彼ら自身が認識し、大事にしたいという想いから、サウンドを磨き上げ、今の状態に至ったのだろう。そして蓮が観客に「今日は俺たち4人とみんなでTRACK15です。よろしくお願いします!」と伝えていたように、歌を中心に構築された彼らのサウンドは、リスナーの心に寄り添いたいというバンドのスタンスにも起因している。ライブ中にはシンガロングが発生する場面も多く、TRACK15の楽曲が、来場者から日常的に愛されていることが伝わってきた。恋人と過ごす日常の幸せを噛み締めながらも、ふとよぎる不安を歌った「私的幸福論」で、蓮が〈顔色伺ってしまうのはさ/ひとりが怖いから〉という歌詞の直後に、「ひとりじゃないよ」と言葉を重ねていたのが印象に残っている。TRACK15のライブ中は今この瞬間の幸せを噛み締めるだけでいい、不安に思う必要はないと観客に伝えているかのようだった。

 蓮が「次に歌う曲は、多分、俺らが死ぬまで歌うんじゃないかっていう曲で。俺に優しい気持ちを教えてくれた人の曲を歌います」と紹介したのは、『season』収録のバラード「ふゆのうた」。気持ちを込めた歌を確かに受け取ってもらえたという実感からか、直後のMCでは「『season』というアルバムを自分の生活の中に入れて聴いてくれて嬉しく思います。改めて、俺たちの音楽を大切にしてくれてありがとうございます」と観客への感謝が語られた。さらに蓮は、東京で初めてライブをした時のことを振り返る。いいライブをした手応えがあったものの、観客は数人しかおらず、悔しくて、帰りの車の中で涙を流したそうだ。そんな回想とともに「あれから好きなことを好きなようにやってきて、好きなものに苦しめられることもあって……どれだけしんどくても好きなことを続けて、好きなことだから続けられて、今俺らはここに立ってます」とクアトロのステージを踏みしめる。そして「これからもずっと、みんなの生活の中の音楽を、俺の中の音楽を、メンバーの中の音楽を、チームの中の音楽を、一切手加減せず、一生懸命ライブハウスに持ってきます。またお会いしましょう。どうかこれからもTRACK15をお願いします」とMCを結んだ。

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