『MUSIC AWARDS JAPAN』は日本における音楽賞の存在意義を更新するか 初開催からうかがえた志
5月22日、『MUSIC AWARDS JAPAN 2025』のGrand Ceremonyがロームシアター京都で開催された。NHKでも生中継されたので、ご覧になった方も多いだろう。各賞の発表だけでなく、アーティスト9組のパフォーマンス、アーティストたちのレッドカーペット到着の模様も放送されるなど、とても華やかなものだった。
『MUSIC AWARDS JAPAN』(以下、『MAJ』)は、今回が初開催となる国内最大規模の音楽賞。60以上という多くの部門・カテゴリーが設けられている。2024年2月5日から2025年1月26日までの期間に各種音楽チャートにランクインした作品およびアーティストが対象で、たとえば宇多田ヒカル「Automatic」のようなリリース自体はかなり前の楽曲もノミネートされていた。主な選考方法はアーティスト、音楽関係者5000人以上による投票だ。
そのクライマックスとなったのが、主要6部門の結果を中心に発表するGrand Ceremonyというわけである。司会は菅田将暉で、長時間の生放送をひとりで見事に仕切っていたことに称賛を送りたい。
6部門の結果は発表順に、最優秀アルバム賞が藤井 風『LOVE ALL SERVE ALL』、Top Global Hit From JapanがYOASOBI「アイドル」、最優秀ニュー・アーティスト賞がtuki.、最優秀楽曲賞がCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」、最優秀アジア楽曲賞がaespa「Supernova」、最優秀アーティスト賞がMrs. GREEN APPLE。プレゼンターも役所広司など豪華で、無事幕を閉じた。
個人的には、授賞式ではあるのだが、音楽ライブショーとしての素晴らしさが特に心に残った。YOASOBI、Creepy Nuts、ちゃんみな、宇多田ヒカル、矢沢永吉、藤井 風、AI、Awich、Mrs. GREEN APPLEが次々に披露したパフォーマンスは、どれも個性と力量が発揮された圧巻のステージだった。
このあたりは、総合演出の利根川広毅(テレビ朝日)をはじめとした制作陣の力量も感じさせた。さらに、観客席でステージを見ていた藤井 風が、ちゃんみなのステージに「食らった」と言わんばかりの感動した様子を見せたり、AIとAwichらのコラボにスタンディングオベーションしたりする姿もとても印象的だった。
賞そのものとしては、おそらく多くの人が感じるように、アメリカの『グラミー賞』が念頭にあることは明らかだろう。藤井 風もレッドカーペットのインタビューで「日本でこういうグラミーみたいなことができたらいいなと思っていた」と『MAJ』の創設を歓迎していた。
そのうえでこの賞の特徴をひとつあげるとすれば、やはり「海外志向」ということになるに違いない。
「世界とつながり、音楽の未来を灯す(ともす)。」が賞のコンセプト。21日に開催された他の部門の授賞式Premiere Ceremonyでも、MCの谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)が「日本初の国際音楽祭」「日本の音楽をアジアへ、そして世界へ」と高らかに宣言していた。またGrand CeremonyがYMOの細野晴臣のスピーチ、そして「RYDEEN」をモチーフにした多くの出演アーティストたちによるオープニングショー「RYDEEN REBOOT」から始まったのも、そのことを物語る。また、「海外楽曲カテゴリー」では、13の賞が日本以外の国の楽曲に贈られた。
従来の日本の音楽賞は、『日本レコード大賞』などをみても国内限定という面が強かった。そこには、音楽賞がテレビというやはり国内向けのメディアと密接な関係を保ちながら発展してきたという歴史的背景もある。
それに対し『MAJ』は、テレビ放送と同時にYouTube配信、そしてパフォーマンス映像の一部はYouTubeにアーカイブを残すなど、世界に向けて発信することを強く意識している。インターネットの普及・発達に導かれて音楽ビジネスのグローバル化が急速に進むなか、少し時代から取り残された感もある音楽賞のアップデートを目指したのがこの『MAJ』ということになるだろう。
NHKも、ここのところYOASOBIの海外ツアーに密着した番組やボーカロイドの世界的な人気を紹介した番組など、J-POPの海外進出をテーマにした取り組みが増えている。その流れで見ても、初回をNHKが中継したことには意味があった。
さらに主催するカルチャー アンドエンタテインメント産業振興会(CEIPA)は、日本の音楽主要5団体が設立したもの。文化庁も協力に名を連ね、長官の都倉俊一もプレゼンターで登場していた。官民挙げてJ-POPの海外進出に本腰を入れようとしているのが伝わってくる。