「救いのための毒を共有できたら」 声優・佐倉綾音が語るラジオ論、“足枷”のない生放送でしか届けられないもの

声優・佐倉綾音が語るラジオ論

 2025年4月より放送開始した『佐倉綾音 論理×ロンリー』(TBSラジオ)が、声優ファンのみならずラジオリスナーの間で注目を集めていることをご存知だろうか。生放送中のSNSトレンド入りはもちろん、多くの音声コンテンツがひしめくポッドキャストランキングでも上位に食い込むなど大健闘を見せている(※1)。

 これまでも他局やネット上で多くのラジオ番組を担当してきた佐倉綾音だが、従来と異なるのが声優やアニメファンだけをターゲットにした作りではなく、彼女個人のパーソナリティを打ち出している点。しかもそれは“論理”という、一見するとハードルが高めに思えるコンセプトだ。だが、それも持ち前の論理的思考と高い言語化能力、そしてもちろん本職である喋りの技術を用いて、軽妙かつ真に迫るトークを繰り広げ、耳の肥えたTBSラジオリスナーの心をたちまち掴んでいった。様々な偶然に導かれ、憧れの人物がいるTBSラジオで毎週一人喋りの生放送に挑む経緯とラジオにかける思いを聞いた。(日詰明嘉)

生放送/ラジオへの強いこだわり

――まずは、『佐倉綾音 論理×ロンリー』(以下、『佐倉論理』)の番組立ち上げのロードマップをお伺いできたらと思います。きっかけは、2024年10月6日にTBSラジオの大人気番組『安住紳一郎の日曜天国』(以下、『日曜天国』)で、安住さんの代打パーソナリティを務めた際、同番組のスタッフからお声がけがあり、新番組発足に至ったそうですね。ではその『日曜天国』への代打パーソナリティのオファーはどのような形で届いたのか、経緯を教えてください。

佐倉綾音(以下、佐倉):最初の最初は、『五等分の花嫁』のラジオに出演させていただいたことがきっかけです。TBSラジオにはこれまであまりお邪魔する機会がなかったので、ウキウキで収録に臨んでいました(笑)。その際にスタッフの方から「どんな番組が好きなんですか?」と聞かれて、「一番は『日曜天国』です」と答えたところ、なんとその方がちょうど『日曜天国』のスタッフさんでもあって、「(安住さんに)伝えておきますね」とおっしゃっていただいたんです。

安住紳一郎の日曜天国 2024年10月6日放送分

――以前から安住さんと番組のファンだと公言されていましたが、思わぬ形で接点ができたわけですね。

佐倉:はい。その後、何度か 『五等分の花嫁』のラジオに出演させていただいた時にそういった会話をしていたら、ある日突然、マネージャーを通じて代打パーソナリティの依頼が届いたんです。でもその時は正直、お断りしようと思っていました。

――せっかくの機会なのに、それはまたどうして?

佐倉:ヘビーリスナーだからこそ、『日曜天国』に求める水準の高さをわかっていたから。私も色々と応援しているコンテンツがあるんですけど、 ファンというものは“好き”の対象に近づきすぎると焼け焦げてしまう生き物なので、やはり迷いは大きくて。少し考える時間をいただいてから、マネージャーを通じてTBSラジオ側に大変失礼ながら、「私を起用して勝算があるとお考えであれば、お受けできたらと思います」というお返事をさせていただきました。白か黒か極端な性格の私がこういった弱気なお返事の仕方をすることはあまりないのですが、それくらい私の中で勝算がなかったんです。そして私よりも濃度の濃いTBSラジオリスナーである母に、この件を話したところ「え。受けるの?」と、顔をしかめられて。やっぱりこれがリスナーの反応だよなぁと(笑)。

佐倉綾音(撮影=三橋優美子)

佐倉綾音(撮影=三橋優美子)

――番組放送後には大きな反響と好評を目にしましたが、放送までにはそんな葛藤があったんですね。その後TBSのほかの番組でもいくつかゲスト出演をされて、それぞれの番組でも異なった話題で足跡を残し、4月からの『佐倉論理』スタートに至ったわけですが、この番組のお話やコンセプトを聞いたときの印象はいかがでしたか?

佐倉:マネージャーも「これは少し頑張ってでも引き受けてほしい」と推してくれたので、私もすぐに前向きなお返事をお戻ししました。ただ、それよりも最初に「毎週水曜日の22時から1時間番組」と聞いた時にまず、「えっ。アトロク(RHYMESTER 宇多丸がパーソナリティを務める生放送の人気カルチャー番組『アフター6ジャンクション2』の愛称)終わるの!?」と、すごく焦って(笑)。自分へのオファーよりも気になって仕方ありませんでした。

――内部情報をいち早く知ってしまったリスナーのような目線で(笑)。他局の話で恐縮ですが、文化放送は声優番組が多く、佐倉さんもこれまで数多く出演されてきましたが、TBSラジオで番組を担当してみて放送局ごとの文化の違いは感じられましたか?

佐倉:局の違いというよりも、番組ごとに違うという印象がありますね。やはりどの番組もバリエーション豊かで様々な個性がありますから。ただ、私が番組を始めるにあたってのターゲティングについてはかなり考えました。この番組を目指して聴くのではなく、ずっとTBSラジオを流しているリスナーさんにどうしたら受け入れてもらえるだろうか、と。

佐倉綾音(撮影=三橋優美子)

――運転手のお仕事など、たしかにラジオは放送局を固定させてずっと流し続けているリスナーもいますね。そうした考えの中で、話し方のトーンについてはどのように考えましたか?

佐倉:早口の『日曜天国』……(笑)。安住さんは日曜日の朝(10時から約2時間の生放送)ということもあってか、お話のスピードがとてもゆっくりなんです。私自身もリスナーとしてそれがとても心地よく、耳馴染みもあったので、代打出演の際はそれを意識してトークをしていました。ただ、この番組は夜帯ですし1時間しかなく、あっという間に時間が過ぎてしまうので、ゆっくりさを意識せずに自分が喋りやすく安心してトークのできるスピードで行おうと考えました。それから、この番組を私の親の世代にも耳を傾けてほしいなと。『日曜天国』の時に40代や50代、それ以上の方がリアクションをくださったんですよ。そうした皆さんにできるだけストレスのない形で聴いていただけるよう、普段のアニメの宣伝番組や声優同士のラジオとは少しトーンを抑えめにしてお送りしています。

――第3回の放送では定年退職された方からメールが届いていましたね。

佐倉:嬉しかったです。ラジオ番組を続ける以上、どうしてもターゲットというのは意識せざるを得ませんが、できる限り間口を広く設けておきたいので。この時間帯だからこそ、起きてラジオつけていらっしゃる方の中にもいろんな世代の方がいると思いますので、私が“30代”として話す内容を上の世代の方にも届けることができ、その方が私と同い年ぐらいの方と話す時のコミュニケーションの間口を広げる役目も担えたらいいなと思っています。

#3 浜松町が生んだジャンヌダルク

――もう1つ、生放送という形態もチャレンジだったかと思います。

佐倉:生放送にはこだわりがありました。オファーの時にすでに(依頼事項として)ありましたが、そうでなくても自分から言い出したと思います。『日曜天国』が生放送だということも1つ大きな要素ですし、そもそもイベントや生放送という形態が好きなんです。誰かの審査というフィルターを通すことなく、世の中に自分の手札を放り投げられるのは生放送でないとできない経験ですから。収録番組の面白さや安心感はお陰様でこれまでたくさん味わってきましたが、一方でそこには足枷もあって。自分が伝えたかったことや発信したかったことが、誰かの善意でカットされた経験も多々ありました。そうやって臭い物に蓋をし続けるだけではなくて、もうちょっとみんな毒を食べてみてもいいんじゃないかな……と(笑)。

――その背景を伺いましょうか。

佐倉:声優やアニメの業界は、作品やキャラクターのイメージを守ることを最優先にしているので、まずそれは必要なこと、正しいことだということに異論はありません。ジャッジをした上で表示されているコンテンツの安心感が私自身ありがたいですし、声優にとっては作品とキャラクターが最優先なので、とても正しいあり方だと思うんです。ただ、“佐倉綾音”という名前の冠番組において自分で発信することになっても、今までと変わらずずっと守られた楽園の中で過ごしていると、「まだ蓋をし続けるのか?」ということになってしまう。私としてはそうではない、“外の世界”が元々好きだったという思いが捨てきれなかったんです。可愛いや綺麗だというコンテンツよりも、少しトゲや毒があったりするものを摂取している時の方が、私は安心できた。そういう人って、実はもっといるんじゃないかなと。そういう部分から、生放送への憧れや挑戦欲みたいな思いはずっとありました。もちろん誰かを傷つけたいわけではなく、素敵なものへのプレッシャーから解放される、“救いのための毒”を共有できたらいいなと思って、今はどのくらいがOKラインなのか探りながら、喋っています。

佐倉綾音(撮影=三橋優美子)

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