連載「lit!」第149回:MARK、JENNIE、NCT WISH……ストーリーを丁寧に描いたK-POPの良作5選
30年に及び、強大なカルチャーに成長して世界中にファンダムを築き上げたK-POPは、一時的な流行りに見られることも少なくない。しかし、その細部にフォーカスしてみると、アイドルにとどまらず、いちミュージシャンとしての人生のストーリーを丁寧に紡ぎ、思わず「やっぱりいい音楽をしているよね」と語り合いたくなるような作品が生まれ続けているのも確かだ。こうした文脈で、2025年春を彩る新譜を5作紹介したい。
MARK『The Firstfruit - The 1st Album』
NCT 127、NCT DREAMではラッパーとしてチームの核を担うMARK。4月7日リリースのソロ初のアルバム『The Firstfruit』は、全13曲を彼が故郷とするトロント、ニューヨーク、バンクーバー、ソウルの4都市(4セクション)に分け、人生を描いた作品だ。生まれ故郷を振り返る「Tronto’s Window」と生まれ年を冠したリード曲「1999」に始まり、「Flight to NYC」で7歳から住んだニューヨークに視点を移したのち、HIPHOPナンバーの「Righteous」では彼自身のアイデンティティと信念を歌う。
イ・ヨンジを客演に迎えた「Fraktsiya (feat. Lee Young Ji)」では、自ら〈Name somebody who can juggle three teams〉とボースティングするバースも公開直後から大きな話題となっていた(リスペクトを込めて「基本どこにでもいる」と紹介される彼は、NCT U、NCT127、NCT DREAMといった数多くのユニットを兼任しているメンバーだ)。韓国のR&Bシンガー Crushを客演に迎えたラブソング「Watching TV (feat. Crush)」は、筆者が個人的におすすめしたい楽曲だ。アルバムを聴き進めていくと“相棒”HAECHANとの念願のユニット曲「+82 Pressin'」(82は韓国の国番号)では終着地・韓国へ。アルバムを締め括る13曲目「Too Much」では神から自分が受けた愛があまりにも大きすぎるという深い信仰心を表し、MARKという1人の人生の原点に回帰している。
JENNIE『Ruby』
今年4月に『Coachella Valley Music and Arts Festival 2025』へ単独初出演を果たしたBLACKPINKのJENNIE。2023年に独自レーベル・ODD ATELIERを設立して以降、満を持して今年4月11日にリリースしたソロデビューアルバムは彼女の別人格にちなんで『Ruby』と名づけられ、リード曲「like JENNIE」がBillboard「Hot 100」で『Coachella Valley Music and Arts Festival』出演後に再び96位でランクインするバイラルヒット作となった。しかし、本アルバムそのものが名盤だということを多くの人に知ってほしい。
ドーチとコラボした「ExtraL」やデュア・リパが参加した「Handlebars」は聴いたことがある人も多いかと思うが、特に筆者がおすすめなのは「start a war」、「with the IE (way up)」、「ZEN」の3曲だろうか。JENNIEがK-POPという枠を抜け出し、完全にUSシーンに参入したことを音楽性から感じ取ることができる「start a war」と「with the IE (way up)」は一度聴けばクセになる。さらに、「ZEN」は名の通り、“禅”をテーマに作られた楽曲だ。自分本来の姿を追い求めて悟りを得る修行である禅の思想に則し、本楽曲を通じてJENNIEは自らが揺るぎない存在であることを確立したようにも感じられる。20代にして世界的トップスターとなった今の彼女から、そうした信念を受け取ることができるのは非常に貴重ではないだろうか。『Coachella Valley Music and Arts Festival』で筆者が息を呑んだのも、やはりこの曲のパフォーマンスだった。