Mrs. GREEN APPLE「天国」の重々しい衝撃 大森元貴が問う、抗えない現実を受け入れながら“生きる”こと

 「天国」は、大森がtimelesz 菊池風磨とW主演を務めた映画『#真相をお話しします』の主題歌として制作された。私は3月中旬に関係者向けの試聴会でこの曲を初めて聴いたが、当時は曲のタイトルも、映画の主題歌であるという情報も知らされていない状態。加えて暗闇の中での試聴だったため、曲調も相まって、作り手の非常にパーソナルな部分、禁足地に踏み入れてしまったかのような感覚になりゾッとした。あまりの凄まじさに、大森の精神状態が若干心配になった。

 その数日後、あの新曲は「天国」というタイトルで、映画の主題歌として書き下ろされたのだと知り、いろいろと腑に落ちた。ブツ切れのラストは映画のラストとも通じるところがあるし、ドラスティックなアレンジや歌詞における強い表現は、おそらく映画から影響を受けて生まれたものだろう。とはいえ、大森は(自身の演じた)鈴木という全く別の人物になりきって書いたわけではなく、映画や“演じる”という行為が、もともと自分の内にあった扉を開けるきっかけになったという話だと思うが。それは、本人の「『天国』というタイトルの楽曲を僕はもっともっと先の未来で描くと思っていましたが、このきっかけとタイミングの巡り合わせでこの度この楽曲が生まれることになり、なんとも感慨深いです」というコメントから窺える(※1)。

『#真相をお話しします』予告【4月25日(金)公開】

 映画『#真相をお話しします』は、“スピーカー”に選ばれた人がゴシップを暴露し、観衆から投げ銭をもらうことのできる生配信チャンネルを舞台にした物語だ。要は人間のドキュメンタリーをエンターテインメント化して金銭を得るという構造なのだが、自身も“スピーカー”となる鈴木という人物を、今の邦楽シーンのトップアーティストである大森に演じさせようという企画がまず秀逸だ(W主演の菊池風磨に関しても同様)。実際の映画も面白かったため、未見の人はぜひ劇場へ行ってほしい。スクリーンの中の出来事は決して他人事とは思えず、自分のことを考えたり顧みたりするきっかけになるはずだ。

 かく言う私は、「天国」のような楽曲がMrs. GREEN APPLEから出てきた時に、「これぞ大森元貴の真骨頂」「ミセスはやはり最高」と喜んでしまう自分っていったいどうなんだ……と思いながらこの原稿を書いている。「作り手が心配になった」と口では言いつつも、結局はドキュメンタリーとエンターテインメントを重ね合わせながら、身を裂くようにして表現する人に魅力を感じてしまい、抗えない。人間にはそういうむごいところがあるのだ。むごさ、虚しさ、寂しさ、罪悪感。それらを変えられない事実として受け入れながら、一歩、また一歩と踏み出していくことが、自分の人生を“生きる”ということなのだろう。

 この楽曲の続きは、きっとリスナー一人ひとりが紡ぐべきものだ。

※1 https://shinso-movie.jp/

Mrs. GREEN APPLE、加速度的に拡大するスケール 「ダーリン」は一人ひとりに寄り添う“揺るぎない願いの歌”

『Mrs. GREEN APPLE 18祭』(NHK総合)のテーマソングとして書き下ろされた、Mrs. GREEN APPLEの…

Mrs. GREEN APPLE、人生の苦悩を見つめて“愛”を歌う 研ぎ澄まされたメッセージが大躍進の鍵に

5カ月連続配信シングルリリースや、タイプの異なる大規模公演開催など、2024年も「ミセスの年」と呼ぶにふさわしい活躍ぶりを見せた…

関連記事