「石井恵梨子のライブハウス直送」Vol.7:Dos Monosはロックで躍動しヒップホップで突き破る 未知なる変異体の“進化”を目撃

渋谷にある12カ所の会場を使い、2日間(4月12日・13日)で100アーティスト以上が登場する春の名物イベント『SYNCHRONICITY'25』。その初日、会場のひとつであるVeats Shibuyaには一発目から相当な人が集まっていた。まだ無人のステージ。中央にはDJブース。ロックバンド中心のイベントでは珍しい光景である。そして、ドラムもベースもないのに、上手にはギターとマーシャルアンプとスタンドマイクというのはさらに珍しい光景なのだろう。今から出てくるのは何でしょうか? と言われてもすぐに答えは浮かばない。
「面白いバンドがいっぱいいる中、Dos Monosを選んでくれてありがとう」
ギターを持った荘子itが語りかけるところからライブは始まる。ファンキーなリフが鳴り響き、後方では没 a.k.a NGSがサンプラーから強烈な重低音をぶっ放す。ギタリストと1 DJ、と書けないのは、2人とも演奏しながら激しくラップしているからだ。ことに、途中からセンターに飛び出す没はシャウトに近い大声でフロアに突っ込んでいくものだから、スタイルは限りなくハードコアのピンボーカルっぽい。さらに、長身でサングラス姿のTaiTanが悠々と登場し、めくるめく早口ラップで空気をさらっていったりするので、このグループを瞬時に○○系と決めるのは難しい。それぞれの個性がやたら際立っていること。3MCのヒップホップと呼ぶには妙にロック度が高いこと。まず伝わるのはそのあたりだ。



「確固たる基盤がないのかもしれない。ヒップホップのコミュニティが近くにあったとか、一切ないから」と没が語る。荘子itによれば「男子校で、せいぜい文化祭で先輩のバンドを見るくらい。リビドーを発露する方法が最初はギターとかドラムしかなかった。でも途中からトラックメイクのほうが面白くなって、生演奏では実現不可能なくらい主張の強い世界観を作ったり、その上で3人が別々の主張をすることが面白くなってきた」というのがDos Monosの初期ヒストリーである。ロック+ラップ=ミクスチャー様式と違うのは、生ギターも「主張の強いトラック要素」として扱っているところだろうか。
とはいえ、マーシャルから生音が飛び出してくれば鼓膜と心臓にはビリビリくる。平たく言えばアガるのだ。肉体的にも精神的にも熱量を増幅させるギター。2曲目は「MOUNTAIN D」。アカペラで始まるTaiTanのラップが導火線となり、一瞬のブレイクを経て、荘子itのリフと没の叫びが合わさった瞬間、フロアからは次々と拳が突き上げられる。ビートに乗って頭をガンガン振る観客も多数。没が背中を反らし「Yeah!!」と雄叫びを放つ。冷静に言葉を繰り出すラッパーの姿とは思えない、きわめて野生的な興奮。ラップを始めた当時からこのように振る舞っていたという没によると「ライブ中、リリックのことはまったく考えてない。自動で体が動く。もう踊ってるのと一緒ですよね」。

とはいえ、メンバーが一致団結し、お前らかかってこい、などと言い出したりしない、妙にアンバランスな関係性がDos Monosの不気味さであり面白さでもある。クールな低音ラップで物語を引き継ぎ、定位置でギターノイズを繰り出している司令塔の荘子it。妙にコミカルだったり強烈に皮肉的だったり、一語一句がピシピシ突き刺さる正統派ラッパーとしてのTaiTan。三者三様のストレンジなムードは、ロックのセオリーともヒップホップのマナーとも明らかに違う新しさがある。別の言葉を探すならば、未知の変異体に突然出くわしたようなヤバさを感じる、というべきかもしれない。

「今はラッパーのほうが破天荒なイメージがありますけど、でも本来はロックってヒップホップ以上に荒っぽいところがあるはずで。荒々しい生き様を見せるのがヒップホップだとしたら、ロックは音楽そのものが荒々しい。音楽偏差値の高さと関係なく、ブチ上がる感覚がどちらも原点にはあるから。それを俺らはやりたいんだと思う」(荘子it)
「ロック化することで、俺は逆にヒップホップっぽい歌詞、飛び込んでくるワンフレーズを意識して書くようになった。ロックサウンドの上で形而上的な難しいことを言っても、快楽の最後の皮は破れない。ちゃんとストレートにカッコいいことを言う。ロック的な躍動とヒップホップ的な突き破り方。求めるのはそこだよね」(TaiTan)






















