リアルサウンド連載「From Editors」第101回:面白くて愛おしい、最高の会話劇ドラマ『ホットスポット』の話

 「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。

バズリズムさんの脚本が“ずるい”

 皆さんは、自分のことを“口が堅い”と思いますか? どれだけ自称していても、ものすごく近しい人に対してはつい「ここだけの話なんだけどさ〜」と話してしまいがちだったりしますよね。まあもちろん、それは「この人なら他言しないだろう」という信頼関係があるからこそなんですけど。

 ……と、なんでこんな話をしているかというと、今ちょうどドラマ『ホットスポット』を観ているからです。本作は山梨県の富士山麓にある町を舞台に、ビジネスホテルで働く市川実日子さん演じる清美が、東京03の角田晃広さん演じる同僚の高橋さんが実は“宇宙人”であることを知る、バカリズムさん脚本の地元系エイリアン・ヒューマン・コメディー。ある出来事を皮切りに、高橋さんが清美へ「実は俺、宇宙人なのね」「内緒にしてもらいたいんだよね」と自身の素性を明かすのですが、“ここだけの話”にはとどまらずあれやこれやと高橋さんは宇宙人だということが知れ渡っていきます。

新日曜ドラマ 脚本:バカリズム×主演:市川実日子SPインタビュー/「ホットスポット」2025年1月スタート!

 『ホットスポット』、めちゃめちゃ面白い!!! 夜中にポテチ食べながら、肩肘ついてぼんやり観るのに最適すぎる。内容はもちろんですが、実際に「こういう人いる!」「こういうこと、あるよね〜」の連続。特に高橋さんのなんとも言えないめんどくさい言動にほのかにイラッとする瞬間とか、すべてが綺麗にハマって「それそれそれ、それはそう!」の嵐。

 清美の心の声が、視聴者の心の呟きがそっくりそのまま台詞になっているというか。バズリズムさんの“女だけの空間”の会話の描写力と解像度がとんでもないな、って思わず笑っちゃいました。あまりにもナチュラルでリアル。何度「うんうんうん」「ね〜」ってひとりごちってたかわかりません。でも、この空気感って結構独特ですよね。ちょっと棘のある言葉も出てくるけど、そこに悪意はないし"愚痴"とか"不満"じゃなくてただ頭の中にぽんぽんと浮かんでるだけだったりする。だからこそ、このリアルな雰囲気と日常の会話劇を演じる俳優陣のナチュラルな芝居が効いていて、月並みだけどすごいなあと思ったりしました。一人ひとりのキャラクターが本当に魅力的でかわいい。

 今現在9話まで観終わったところなのですが、高橋さんの身の上話で「お母さんが事故にあってお亡くなりに…」のシーンでじんわり泣いてたのに、結局「生きてたんかい!」と思わず口に出してツッコんでしまったのは今でもちょっと悔しい。バズリズムさん、ずるいです。先ほど高橋さんのめんどくさい言動、と言いましたが、それも含めてまるっと愛おしくなってくるんですよね、これもずるい。

「ホットスポット」第9話ダイジェスト【日テレドラマ公式】

 高橋さんの“宇宙人バレ”がどんどん進んでいくのに、周りはそんな事実は別にどうでもいいんじゃない、みたいな空気になっていて「人間って慣れなんだな〜」としみじみ。宇宙人だって未来人だって超能力者だって、なんだっていいのかも。そういえばヒストリアも、特別扱いせずに「普通に接してくれてありがとう」というニュアンスのことをエレンに言ってたな、って思い出しました(『進撃の巨人』の話です)。あと9話での某部屋潜入決行の時に、これまで関わってきたみんなが集結してたのも胸熱でした。シーン自体はめちゃめちゃ和やかで、ピクニックに行くくらいの平和なBGMだったけど、『NARUTO-ナルト-』のサスケ奪還編で仲間が集結するくらいの熱さがあった。わたしが監督だったらここで『NARUTO-ナルト-』のメインテーマを流してたかもしれません。

 残すは最終話のみ。すっごく楽しみです。

 で、冒頭の話に戻りますが、「他言しないだろう」という信頼関係が築けている近しい友人に対しては「ここだけの話なんだけどさ〜」と話してしまいがち、という話について。そんな友人にも、たいてい同じくらい親密な友達がいるんですよね。どうなるかなんて、言わずもがな。でもこれって、いざ自分が当事者になると案外自分ごととして気づけなかったりして。「どうしても話したい!」という衝動に、人間は時に勝てないものです。ちなみに、わたしはめちゃめちゃ口が堅いです。「実は俺、宇宙人なのね」と明かされても他言しません。本当です、多分。

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