鈴木雅之の音楽は懐かしくも新しく響き続ける 45周年アルバムは“ドゥーワップ愛”が結実した永久保存盤に

1980年にシャネルズとして「ランナウェイ」でデビュー以降、日本の音楽シーンを代表するヴォーカリストとして活動してきた“マーチン”こと鈴木雅之が、デビュー45周年を記念したベストアルバム『All Time Doo Wop ! !』を4月16日にリリースした。
しかも今作はただのベストアルバムではない。マーチンの音楽キャリアを語る上で外せない“ドゥーワップ”を合言葉にコンパイルされた3枚組の超豪華盤となっている。
マーチンとドゥーワップの出逢い、歌い続けてきた理由
そもそもドゥーワップとは、1950年代に隆盛したリズムアンドブルース=R&Bにおける1つのサブジャンル兼歌唱スタイル。主旋律を歌うメインボーカルとバックコーラス隊(テナー、バリトン、ベースが基本)のハーモニーで構成されるのがお決まりで、“ドゥワッ、ドゥワッ”や“シュビドゥバ”など言葉そのものには意味を持たないスキャットがその呼び名の由来とされる。アメリカの街角で若者たちが生み出したことから別名ストリートシンフォニーとも称された、ピュアで根源的な魅力を持つ音楽だ。
そんなドゥーワップは、マーチンがアマチュア時代からずっと歌い続けてきたルーツ音楽の1つ。
シャネルズとしてデビューした1980年、時はすでにハードロックやニューミュージックが台頭していたにもかかわらず、時代を逆行する形でドゥーワップを追求したのは、並々ならぬ想い入れがあったからこそだろう。
今回のベスト盤は3枚組、全49曲収録の特大ボリューム仕様だ。『Original Mania』と題されたディスク1では、シャネルズ、ラッツ&スターで歌い繋いだドゥーワップナンバーを網羅するだけでなく、ラッツ&スターの盟友でもある佐藤善雄、桑野信義とともに「ランナウェイ」「め組のひと」らを2025年バージョンとして再構築し新録。「オリジナルの良さ、その味わいを失わないようにしたい」と本人が語るように、マニアにとってもビギナーにとっても楽しめる2025年バージョンとしてアップデートされている。
また、デビュー前の1978年に竜ヶ崎宇童名義でレコーディング参加した大滝詠一のアルバム『LET’S ONDO AGAIN』から、「禁煙音頭(Niagara Triangle 1987 Mix)」のアルバム未収録レアトラックが初音源化。マーチンのヴォーカリストとしての道標にもなった大滝との記念碑的1曲だ。同じくディスク1には「Tシャツに口紅」「夢で逢えたら」などの大滝作品も収められ、数々のヒット曲の裏にあったドゥーワップの存在の大きさに改めて気付かされる。
懐かしいのに新しい--我々はマーチンを通じて、ドゥーワップの普遍的な音楽マジックにずっと魅せられ続けているのだ。
豪華アーティストがカバー 世代を超えて愛されるマーチンの名曲たち
ディスク2の『Rats Mania』には、豪華アーティストたちによるカヴァーを13曲収録。
キャッチーなダンスとともに2018年頃にTikTokでリバイバルヒットし、若い世代にもマーチンの名を知らしめるきっかけになった倖田來未の「め組のひと」(リリースは2010年)を皮切りに、YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』の生配信番組をきっかけに知り合ったというこっちのけんとは、「ハリケーン」を疾走感あふれるダンスサウンドでリメイクし、2022年のカヴァーベストアルバム『DISCOVER JAPAN DX』で取り上げた、YOASOBI「怪物」を出発点に交流が深まった幾田りらは「夢見る16歳」をお返しカヴァー。男性視点の歌詞はそのままに、キュートなガールポップへと昇華させている。
また、2024年のアルバム『Snazzy』でB’zの松本孝弘とのトリプルコラボレーションも実現したGRe4N BOYZは「星くずのダンス・ホール」をシャネルズマナーにあふれたアレンジでハーモナイズするなど、特筆すべきナンバーがズラリと並ぶ。
さらにはBENI、岡崎体育、ハナレグミ、吉岡聖恵(いきものがかり)、MATSURI、SHOW-WA、黒沢薫、川畑要、そしてGOSPE☆RATSとしては自身の声も交えながら新たに生命を吹き込んだ名曲たちが収録されているのだ。中には原曲の楽曲リリース時には生まれていなかった世代のアーティストもいるが、だからこそマーチンの楽曲が放つタイムレスな輝きがより際立っているようにも思う。
そして、それは『DISCOVER JAPAN』シリーズで新旧を織り交ぜた日本の名曲たちを歌い、“ヴォーカリストとしてのマーチン”を浮き彫りにしたのと通づるところがあるかもしれない。サウンドは多様に広がっても、中心にあるのはいつの時代も変わらない胸を打つ“歌ゴコロ”だ。