「石井恵梨子のライブハウス直送」Vol.6:天使か悪魔か――次世代のカリスマの誕生、moreruがステージで繰り広げた40分間の衝撃

「石井恵梨子のライブハウス直送」Vol.6

 いかにもヤバそうな輩が、選ばれし地下のクルーとして活動しているのならまだわかる。moreruの場合は、まさかこいつらがコレを起こすと思っていなかった、こんなものが目の前で起きるなんて思いもしなかった、という衝撃が先にくる。サウンドと歌詞の世界観を総合すると、Convergeと大森靖子とエヴァンゲリオンが手を繋いで踊っている、みたいなイメージが脳内を駆け巡るが、いや、それこそ「まさか一緒になるとは思っていなかった」の好例だろう。時が経ってインターネットを経由してmoreruのなかでは全部がアリになった。そして、こんな表現を選び取ったmoreruの器は、おそらくまだまだこんなものじゃないのである。

moreru(撮影=Hiroki Tani)

 中盤、「みんな何卒? 俺ら中卒」というMCから始まったのは新曲「中卒無双」。これが過去のどの曲よりもブライトなハイパーポップ、青春パンクに近いエネルギーの楽曲で、途中からは眩しさに心底打ちのめされてしまった。みちるのメロディも、全員が歌うコーラスも、懸命すぎて気恥ずかしく、泣きたくなるほど清々しい。ハードコアやグラインドコアの衝動を保ちながら、今はどんどん開けた世界に向かっている段階だ。

moreru(撮影=Hiroki Tani)

 「侵略をしなきゃいけないわけですよ。既存の嫌いなもの、自分が恨んでるシーンとか大衆に対して。そこに背を向けて、地下にこもって真逆の表現をやるのって、そいつの人生としては満足がいくかもしれないけど、傍から見たら何も起こってないわけで。嫌いなものを打倒するなら、そいつらに聴かせる必要がある」とみちる。ドラムのDexも「ハードコアシーンの伝統としてステイアンダーグラウンドの思想がある。それ自体はひとつの美学として理解できますし、その美学を追求するバンドたちは純粋にリスペクトしています。単にmoreruとしてはその立場をとらないというだけです。大衆のカスどもに聴いてもらわないといけないし、なんなら啓蒙していかないといけない」と同意する。かなり上から目線の発言にも聞こえるが、続けて飛んできたみちるの発言にハッとさせられた。

「なぜ俺がそれをやるのかって、俺もかつてバカだったから。あるじゃん、ひとつの音楽聴いて啓蒙されて、天啓を受けるみたいに変わっていくことが。人の頭をおかしくさせるために存在しているんです、俺たちは」

moreru(撮影=Hiroki Tani)

 かくも堂々と宣言する夢咲みちるは、間違いなく次世代のカリスマになるだろう。叫び狂ったかと思えば、後半は両手を腰に当ててステップを踏み、投げキスまで飛ばしていた彼のパフォーマンスには、ハードコアの枠を超えていく華があった。殺したいし愛したいし伝えたいしわかってほしい。自分の感情を全部ステージに投げ出してしまえる者特有の美しさがあった。きれいだ。ノイズまみれの40分間が終わった瞬間、浮かんだのはそんな言葉だった。はっきり言うが、こんなに衝撃的なライブ、今しか観られない。

moreru(撮影=Hiroki Tani)

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