新連載「RAP FOR YOUTH」序文 “本来の姿”を取り戻した日本のラップミュージック
2025年、九段下駅の長い階段を何回くらい上ることになるのだろう? つい先日も、OZworldが10月7日に東京・日本武道館にてワンマンライブ『369 at 日本武道館』を開催すると発表したばかりだが、今年に入り同会場のステージに立つラッパーが急増。時系列順に、1月にMC TYSON、2月にはRed Eyeが。3月以降もGADORO、LANA、千葉雄喜、IO、Kvi Babaに前述のOZworld。さらにはラッパーではないものの、DJ CHARI & DJ TATSUKIによるワンマンライブも控えており、数年前では考えられないほど、あの“日の丸”の下がヒップホップヘッズたちにとって親しみ深い場所になりつつある。
そのほか、5月には『POP YOURS』や『KOBE MELLOW CRUISE 2025』といった毎年恒例の大型フェスも。筆者も例年『POP YOURS』に足を運ぶのだが、そこで感じるのが国内の同規模フェスと比べて、明らかに客層が若いこと。人の見た目をジャッジするのは気が引けるし難しいのだが、それでも集まっているのは10代後半〜20代前半が大半かと思われる。
詳細こそ後述するが、ヒップホップがある種のブームになると同時に、SNS領域におけるTikTokの台頭なども時期を重ねることで、10〜20代の若者たちが年上ではなく、新たに登場した同世代のラッパーたちに憧れを抱く構図が急速に生まれ始めた。言わずもがな若手ラッパーの楽曲、なかでもリリックにはこの時代を生きるストラグルを綴ったものもあり、そこに共感しやすいのは、当然彼らと同世代の者たちだろう。
つまり、近年ラップミュージックは、ユースカルチャーとして本来の姿を取り戻しているのだ。だが、その背景にあったものとは? 今年で30歳を迎える筆者がリアルタイムで追ってきた事項を中心に、歴史の網羅ではなく抜粋の形にはなるが、可能な限り詳しく振り返ってみたい。
T-Pablowから始まったラップの“復権” 『フリースタイルダンジョン』など功績を辿る
なにを隠そう、筆者はあのBAD HOPのメンバー(Benjazzyを除く)と同じ生まれ年。彼らの活躍ぶりは、2月19日にちょうど1年が経った東京ドームでの解散ライブに集約されるところだが、クルー結成当時まだ20歳にも満たない若者たちが多くの同世代、そして彼らよりも若いファンを引き連れて、東京ドームという日本有数の大舞台に立ったこと(いわゆる“アウトロー”ではない普通の学生までもが彼らの勇姿に熱狂したことも付け加えたい)。あれこそまさに、ラップミュージック=ユースカルチャーと示す象徴的な出来事だった。なかでも、メンバーのT-Pablowはここ10年前後におけるシーンの盛り上がりの立役者のひとりである。
T-Pablowといえば、まず語るべきは『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』(BSスカパー!)。2012年7月放送の初回、2013年9月放送の第4回大会と史上初の2冠を達成すると、2015年9月からは『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)でモンスターに抜擢。放送開始から約2年間、数多のチャレンジャーを返り討ちにしてきた。
そもそも、ラスボス・般若まで4名のモンスターに勝ち進んでいくRPGのようなゲーム性に加えて、勝敗がハッキリとつけられる審査、フリースタイル(即興)独特のインテリジェンスとユーモアなど、番組の建て付け自体が視聴者を惹きつけるものだった。そこに、R-指定をはじめとしたモンスターたちの実力と際立ったキャラクター性、とりわけT-Pablowの持つカリスマの風格と、ラッパーとして成長するドラマ性が重なり、多くの同年代を一気に巻き込む要因のひとつとなった。
さらりと流してしまったが、『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』『フリースタイルダンジョン』といったコンテンツが立て続けに登場し、特に後者は関東圏には限られたが地上波で放送されたことも大きい。さらに、T-Pablowを含む“初代モンスター”が、『ミュージックステーション』に出演したことも、番組の地位を絶対的なものにした要因のひとつだったとも記しておく。
いまでこそ、AwichやCreepy Nutsが当たり前のように招かれる『ミュージックステーション』。とはいえ大前提として、Awichのようなマスに訴える力を持つ存在が、日の目を見るまで粘り強くラップを続けてくれたこと。あるいは、R-指定がMCバトルの最高峰『ULTIMATE MC BATTLE』で3連覇を果たしたことなど、さまざまなピースが揃っていなければ成し得なかった功績だというのは自明である。
それに加えて、もう少し前に遡れば、AKLO、SALU、そして宇多田ヒカルにもその才能を認められたKOHH(現:千葉雄喜)といった、彼らのロールモデルとなる先人たち。そうした歴史を紡いできた存在と、そこにスポットを当てる目新しいコンテンツが相乗効果的に働き、2025年のこの状況にまで繋がったのだ。
また、話が途切れてしまったが、BAD HOPについては業界随一の切れ者であるYZERRを中心として、コロナ禍での横浜アリーナ無観客ライブの無料生配信に、メトロ・ブーミンやマスタードら海外プロデューサーとの共同制作、あるいは地元である神奈川・川崎に、若い世代が無料で使用できる一軒家のスタジオを設けるなど、次の世代へと託す情熱と財産を残してくれたことも大きな功績であると付け加えておこう。






















