「鼻から牛乳」令和篇から大阪・関西万博ソングまで 嘉門タツオが語る、笑いの裏に隠された本音と哲学

嘉門タツオ、笑いの裏に隠された本音と哲学

“当たり前”を疑い、形にするのが「僕の仕事」

嘉門タツオ『至福の楽園~歌と笑いのパラダイス』インタビュー(撮影=加古伸弥)

――それでシリーズもののパターンをいくつか作って、それを随時アップデートしていくというスタイルができていったわけですね。それは時代の変化に合わせてというか、日々考えていることですか。

嘉門:考えてるというか、もうそれが生きることになっていますね。昔からよく言っているんですけど、ちょっと疑問に思うこととか違和感とか、「みんなが当たり前だと思ってることって、本当に当たり前なのだろうか?」というところを指摘して、それを形にするのが僕の仕事であると思ってます。文章にする人はいっぱいいますけど、メロディをつけて歌う人は少ないなと思っていて、それをやってるんだなって感じはしますけどね。

――嘉門さんの歌は“歌で聴くエッセイ”みたいな感覚もありますよね。今回のアルバムに入っている「インバウンド・ブルー」とか、まさに今の世相ですし。これは街中に外国人観光客が溢れている状況を見て、歌にしようと思ったわけですか。

嘉門:これは「インバウンドの歌を作ってくれ」というお題をもらって、だいぶやり取りしましたね。「学園天国」(フィンガー5/1974年)みたいな感じでとオーダーがあったので、そのイメージで作ったら、「これでいいけど『学園天国』ではないね」って言われました(笑)。

――あと、シリーズもので言うと「鼻から牛乳」「ハンバーガーショップ」「小市民」などが世相に合わせてアップデートされています。

嘉門:「鼻から牛乳~令和篇~(アルバムバージョン)」は、4、5年前から「今のSNSとかをどう扱おうか?」と思ってたものが、ようやくまとまったなと。「ハンバーガーショップ~カフェチーノ篇~」は、最初はハンバーガーショップじゃなくて、カフェのオーダーだけの歌だったんですけど、「ハンバーガーショップ」というシリーズがせっかくあるから、そっちに寄せようということで。(前作の)「カスタマーハラスメント」みたいな、店員にいちゃもんをつけるっていうことを逆手にとって、うまく作れたなって感じですね。

大阪・関西万博に「公認はしてもらってます。ただ公式ではない(笑)」

嘉門タツオ『至福の楽園~歌と笑いのパラダイス』インタビュー(撮影=加古伸弥)

――そして、先行配信された「大阪・関西万博エキスポ~港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ~」。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの替え唄で、55年振りに大阪に帰ってきた万博のことを歌ってます。嘉門さんは、1970年の『大阪万博』に行かれているんですよね。

嘉門:11歳の時で21回行ってます。うちの家から近くて、チャリンコで30分、バスで10分。そこで僕は、初めて外国の人とコミュニケーションして、サインをもらって、「アフリカの人はこんな字を書くんや」とか、そういう触れ合いもできたし、いろいろな体験もいっぱいできたし。年齢的にも好奇心が非常に旺盛で、思春期の入口ですよね。当時は小学校6年生でしたけど、あの万博が原体験で、そこから思春期に入って、ギターを持って歌を歌ってっていう、その時やってたことと今やってることが、ほぼ変わってない感じはしますよね。

――「大阪・関西万博エキスポ~港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ~」は、新しい万博の応援歌ということですね。

嘉門:そうですね。作曲の宇崎竜童さんは、去年3月の僕の復活ライブの時もゲストできていただいたり、公私ともにお世話になっている、憧れの人です。「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」はすごく良くできた曲で、かっこいいし、そのライブの時、宇崎さんもこの曲を一緒にやってくれたんですよ。内容はちょっと違いますけど、原型を一緒に歌ってくれたんで、単なる新曲っていうよりも、15、16歳の頃からダウン・タウン・ブギウギ・バンドが好きで、ずっと聴いてた宇崎さんと一緒にできて、今これが世に出るっていう、そこにも物語性があるので。万博そのものに対する思い入れもあって、そういう思いはおそらく歌声とかにも反映されてると思います。

――これは万博の公式ソングにしてほしいですけどね。

嘉門:公認はしてもらってます。ただ公式ではない(笑)。

――(笑)。でも、今しか出せない曲ですよね。時代性を表していると思います。おなじく「60なかば」という同窓会をテーマにした曲があって、あそこに描かれているユーモアと哀愁、年輪みたいなものも、今しか出せないものだなと思って聴きました。

嘉門:そうですね。みんなもう定年で、あとは余生ですよね。サラリーマン生活をしていた方々は、この先することがなくて、たそがれていくばかりの人もいて。でも、僕には“たそがれ方に対する提示”ができるのではないかと思うんですね。朽ち果てていく感じではなくて、美しくたそがれる方法を提示しようかなとは思ってますけども。

――諦めではなくて、まだ行けるぞと。

嘉門:「みんながやるから僕もやる」っていう大きな流れのなかに身を置いていた人たちは、そのまま生きていくほうが楽だし、考えなくてもいいし。会社では、行ったら毎日することがあるし、部署が変わったら立場によってやり方を変えて、気づいたら60なかばになって、それが生きることやったと思うんです。そのあいだに子どもができたり、育ったり、いろんな問題もあって大変やけど、そういうもんやと思って生きてきた。でも、僕は「みんなが当たり前やと思ってることって当たり前なんだろうか?」ってずっと昔から言ってたから。その意識はずっとあって、「当たり前なことって当たり前なんだろうか?」っていうところに、僕が歌う意味があるような気がします。

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