LAで躍進するher0ismが語る、世界で戦うための戦略とシーンの課題「日本の音楽を海外に発信できる新しいフェーズに入る」
BLACKPINK・LISA、XGの楽曲プロデュースから繋がった縁
ーーそして、この数年でのXGの楽曲プロデュースなどの様々な活動の結果、her0ismさんはSony Music Publishing LAオフィスと契約されたそうですね。
her0ism:一番大きなきっかけは、BLACKPINKのLISAさんのアルバムに楽曲が収録されたことでした。これまでもいろいろなところからオファーはいただいていたのですが、全世界契約をしようとすると日本人であることの壁が立ちはだかるんですよ。いわゆる、出版社のシステムの違いです。日本の出版の取り扱いだけ独特で。
ーー日本ではタイアップをとると、タイアップ先の音楽出版社に版権を渡すことが多かったり、無償でプロモーション扱いとなる場合が多いと聞きます。
her0ism:日本の音楽出版社のルールと世界の音楽出版社のルールは、そもそもビジネス的な構造の違いがあるんです。それが、世界レベルだと障壁になる。簡単に言うと、出版が個人に紐づいているか否かという権利の問題です。日本以外の国は個人に紐づいていて、個人が出版社に管理を委託しているという考え方なんですけど、日本は成り立ち上そうではないので、そこがネックになっていました。
ーー今回、Sony Music Publishing LAオフィスとの契約はそこを乗り越えられたと。
her0ism:日本の事情を話していると、やっぱり海外の方はその権利部分に難色を示されていたんです。でも、そんな状況の時にLISAというアメリカでもトッププライオリティアーティスト、いわゆるUSアーティストとして認識されている彼女のアルバムに参加できたことで、契約が一気に進みました。
ーーそれもまたアメリカらしいですね。
her0ism:ソニーグループといえば、中島美嘉さんの「LIFE」が自分の出世作でしたし、これまでMISIAさんやmiwaさん、JUJUさんの曲を作らせていただいたりと多くのご縁もあって、Sony Music Publishing LAオフィスさんを選ばせていただきました。契約の話をした翌日の午前には、担当A&Rがスタジオに来て条件をパッと出してくれたんです。スピード感がすごいなと思って。
ーーでは、her0ismさんの大きなターニングポイントとなった、BLACKPINKのLISAさんのソロアルバム『Alter Ego』収録の「Dream」について教えてください。
her0ism:アルバムの中で唯一のミッドバラードと言えるスローな曲です。LISAさん本人から「アルバムの最後になるような、ゆったりとした曲がほしい」というリクエストを受けて制作しました。聴いていただくとわかると思うんですけど、日本人のアイデンティティが強く反映された楽曲になっています。
ーーJ-POPに通じるセンスが込められていますよね。それでいて、グローバルなクオリティも兼ね備えた絶妙なバランスで。
her0ism:あえてJ-POPの要素を入れました。J-POP感は自分の個性のひとつでもありますし。
成功の鍵はコライトにあり? 「日本人にもチャンスは大いにある」
ーーそして、her0ismさんは『グラミー賞』主催の『ザ・レコーディング・アカデミー』のボーティングメンバーであり、スクリーニング責任者を担当されているそうですね。
her0ism:はい。去年からボーティングメンバーとしてレコーディングアカデミに参加していて、さらにスクリーニングというジャンルを振り分ける担当の責任者としても声をかけていただきました。要は、わたしはポップの担当です。ポップといっても幅が広いので、ノミネート曲を全曲聴いて、「これはポップなのか?」と判断する役割ですね。たとえばアリアナ・グランデの楽曲が“ポップ”に該当するかを決めるような形です。Zoomで選出されたA&Rやプロデューサーと会議するんですけど、楽曲に関わっているプロデューサーに知り合いも多いので、「これどっち?」って確認し合ったりすることもあります。
ーーそれは面白いですね。ちなみに、日本のマーケットをどのように見られていますか?
her0ism:日本のマーケット、とても面白いと思っています。日本に戻った時は、日本のアーティストとセッションすることが多いんですけど、日本ならではのいいところを改めて感じています。まだ名前を言えないのですが、最近も素晴らしいアーティストとセッションをしました。今年は、そういった日本の音楽を海外に発信できる新しいフェーズに入る年になると思っています。まさに元年ですね。

ーーコライトによる共作でのセッション、という曲作りの大切さがよくわかりました。となると、やはり英語を話せるかどうかは大きなポイントですか?
her0ism:ヨーロッパでの英語は第二外国語という存在なので、現地の方は気を遣って話してくれます。ただ、アメリカに行った途端に母国語になるので、どんなに優しい人でも最初の10分ぐらいはゆっくり話してくれるんだけど、すぐに普通のスピードに戻っちゃうんですね。
ーーリアルな体験談ですね。
her0ism:セッションでは、円滑なコミュニケーションが取れないとなかなかスムーズにいかないと思います。ただ、ギターがすごく弾けるとか、音楽で会話ができる能力があって、ポジティブに明るくコミュニケーションできるのであれば大丈夫かも。やっぱりノリで曲は作るので。ただ、セッションって3、4人くらいでおしゃべりの延長線上で曲を作っていくんです。おしゃべりな子とのセッションだと、6時間ぐらいずっと話していることもあるんですよ(苦笑)。元カレの話とか、延々と。でも、そうやって話している間にアイデアが引き出されて、少しずつトラックができて、それが広がって曲になっていくんですね。
ーー制作に、日常を組み入れることの面白さですね。そしてダイナミズムも感じます。
her0ism:そうそう、なので日本人が海外に行ってセッションをすると、日本人がいることが“非日常”になるので、それも楽しんでもらえるというか。とはいえ、英語が必要かと聞かれたら、やはり必要だと思います。死ぬ気でやらないとダメですね。
ーーセッションを通じて出会えたクリエイターやアーティストとコラボすることが、ヒットへの道として大きいということがよくわかりました。出会いのひとつひとつがチャンスとなるんですね。
her0ism:それ以外方法はないと思っています。ひとりで作っている曲なんて、アメリカにはほとんどないと思うので。クレジットを見ても、何人関わっているんだっていう作品ばかりなんですよ。メリットもあって、それぞれが強いコネクションを持っているので、曲がピッチングされるチャンスも上がっていくんですよ。たとえば、4人で作ったら4倍の可能性が広がる。音楽性においても同様で、4人それぞれの得意とする才能を集結できます。なので、日本人にもチャンスは大いにあると思っています。
ーーたしかに、日本人にはほかの国にはない特色がありそうですし。
her0ism:違う色を入れてみることで非日常のクリエイティブになるという。ただやはり人間関係が大切なので、わたしはLA移住という選択をしました。通っているだけだとコミュニティに入り込めないんですよ。お客さん扱いになってしまうので。だからLAを拠点にして、スタジオを構えて関係を築き上げてきた10数年でした。


















