曽我部恵一が思いを馳せる70年代フォークの時代 高田渡、加川良らURC作品群から受けた影響、魅力を語る

曽我部恵一が思いを馳せる70年代フォーク

岡林信康、三上寛、高田渡ら選曲の背景は?

ーーでは、『シティ・フォークの夜明け〜URC Selection Compiled by 曽我部恵一』について聞かせてください。選曲の基準は?

曽我部:フォークが中心ですね。URCには、はっぴいえんどもいたし、アシッドフォークやサイケ、ニューロックっぽいサウンドもあるんだけど、今回のコンピレーションはフォークにこだわってみようかなと。僕が思っているフォークは、アコギを持って1人で歌うという行為という感じなんですよ。60年代はプロテストソングも多かったと思うんだけど、そうじゃなくて、もっと私小説的な曲をメインに選ばせていただきました。自分の生活とか思いを自分の演奏でやってみるという、フォークソングの基本中の基本というのかな。今だとラッパーとかがやっていることかもしれないけど、いちばんやりやすい方法で自分のことを歌うっていう。CD版の1曲目に入っている加川良さんの「下宿屋」はまさにそうですね。下宿屋での生活の様子をただ書いて歌っているんだけど、それが本当によくて。

ーー〈僕が岩井さんや シバ君に会えたのも/すべて この部屋だったし〉という一節もあって。とても個人的な歌なんですが、引き込まれます。岡林信康さんの「がいこつの唄」はライブ録音ですね。

曽我部:たしかこの曲はスタジオ録音されてないんじゃないかな。岡林さんは「いくいくお花ちゃん」という曲もいいんですよ。「今日をこえて」とかマジメな曲の印象があると思うんだけど、僕はどちらかというと楽しい曲が好きで。「がいこつの唄」は、がいこつが政治家先生やいろんな人を見ているという歌ですけど、そういう社会的なつながりを求められていたんじゃないかな。そのあたりが上手いんですよね、岡林さんは。

ーー聴衆の期待に応えつつ、たまにフザけて。

曽我部:そうですね。牧師さんの息子だからなのか、ギャグとか下ネタを言ってもどこかキレイで、品があるんですよ。そこも好きなところです。

ーー岡林さんと真逆の作風なのが、三上寛さんの「青森県北津軽郡東京村」。三上さんは世界各国でライブ活動を行っていることでも知られています。

曽我部:この前、中国に行ったら、三上寛さんのレコードが売っていたんですよ。中国のポストロックみたいなバンドがバックをやってて、三上さんが歌ってる中国制作のLP。「こういうレコードがあるんですね」って現地の人に聞いたら、「中国ですごく人気があります」と言っていて。国を選ばないっていうか「なんだ、この人?!」ってなるんじゃないかな、どこに行っても。

ーー「日本の唄うたいが来た!」と?

曽我部:それはわからない(笑)。僕らは三上寛さんの歌を聴いて、「青森、東北の地を背負ったシンガーソングライターだな」ってわかりますけど、海外ではそこまで伝わらないだろうし。そういうことは関係なく、歌の破壊力にビックリするんじゃないですか。今でもすごいですからね、三上さんのライブ。「夢は夜開く」とどっちにしようか迷ったんだけど、そっちはアナログに入れて、CDには「青森県北津軽郡東京村」を入れました。間違いなく、URCを代表するアーティストの一人ですね。

ーーひがしのひとしさんの「夕暮れ」は、アルバム『マクシム〜無頼のシャンソニエ』(75年)からの1曲。

曽我部:ひがしのさんはURCの終わりごろの人だと思います。フォークというより、ニューミュージックに近くなってきてる感じもあるんだけど、市井の唄という雰囲気も残っていて。この曲はトーキングブルースでありつつ、シャンソンみたいなところもあって、好きなんですよね。

ーー加川良さんの「下宿屋」の歌詞に出てきたシバさんの「バスが走る」も印象的でした。

曽我部:シバさん、レコードの値段も安定しているし、今も人気あるんですよね。男の子が好きなタイプのシンガーソングライターじゃないかな。スリーフィンガーのギターも上手いし、洒落てるし、余計なことをしなくてクールな感じがあって。CDケースにもシバさんの絵を使ってるんですけど、マンガ家だっただけあって、絵も上手いんですよ。

ーーマンガ雑誌『ガロ』にも作品を発表しています。

曽我部:ギターも歌も絵も上手くて、これ見よがしなところがなく、どちらかというと地味。男の子って、そういう人が好きじゃないですか。派手なヤツなんかダサいよなって時期、ありますよね。「バスが走る」は1stアルバム(『青い空の日』)に入ってるんですけど、超名盤ですよ。

ーーそして、なぎらけんいちさんの「昭和の銀次」。

曽我部:なぎらさんはタレントのイメージが強いから、URCからレコードを出してたって知らない人が多いかもしれないけど、この曲が収録されているアルバム(『葛飾にバッタを見た』)がすごくいいんですよ。確か中川イサトさんや高田渡さんも参加していたんじゃないかな。

ーーカントリーの風合いもあって、洒落てますよね。高田渡さんの「来年の話をしよう」についてはどうでしょう。

曽我部:この曲は、1stアルバム(『汽車が田舎を通るそのとき』)に入っていて。URCのレコードとしてもいちばん古いくらいの作品なんですけど、この時点で完成されているんですよね。フォーク、カントリー、ブルースで、決して派手さはないけど、小技が効いてて、粋な曲作りというのかな。もちろん歌詞もすごくいいです。「自衛隊に入ろう」なんかが知られているけど、ああいう曲は民衆とか大衆に寄せて歌っていた気がしていて。時代に求められていたというか、「ちょっとやってみるか」くらいの感じで書いたんじゃないかな。根本的にはそういうものとは関係なく、「ちょっとコーヒーでも飲んでいこうか」というだけで歌になってしまう人だと思うんですよね。今回のコンピレーションでも、社会性が強いものよりも、渡さんの呟きみたいな言葉から、その時代が見えてきたらいいなと思って選曲させてもらいました。やっぱり別格というか、すごいですよ、高田渡さんは。

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