サカナクション、なぜ3年ぶり新曲で異例のヒットを生んだ? 「怪獣」が秀逸なアニメ主題歌である理由
そうした意味でこの曲は、サカナクションの再始動を告げる一曲として受け取れる。一方で、アニメの主題歌としても秀逸な完成度だと思う。
原作の『チ。 ―地球の運動について―』は、天動説が支配していた時代のヨーロッパを舞台とした物語。作品に登場するキャラクターたちは異端だと言われながらも地動説を信じ、命をかけてその信念を後世に託していく。
この原作の世界観を踏まえたうえで「怪獣」を聴くと、より鮮明にサウンドの解像度が増してくる。深くリバーブのかかった美しいギターのアルペジオは、夜空の星の瞬きのようだし、2番で各楽器がポリリズム的に動き回る実験的なパートは、どことなく惑星の軌道を計算しているような幾何学的な面白さがある。男女混成バンドとしての特徴を活かした重厚感のある合唱的なコーラスは、何千年も昔から語り継がれてきた理論や哲学の歴史の厚みとリンクするものだ。非常にサカナクションらしいアイデアが散りばめられていながら、アニメ主題歌としてもすぐれた解答を見せている。
重要なのは、歌詞において宇宙に関連する言葉は〈星〉くらいで、いわゆる天文用語は一切用いず、原作の持つテーマやメッセージ性、あるいはキャラクターたちが語る美学や哲学を伝えることに徹底している点だ。なかでも象徴的なのは、タイトルにも使われている〈怪獣〉という表現である。原作に忠実に従うとすれば、“異端”や“異端者”といった言葉がしっくりくるだろうが、あえて〈怪獣〉という言葉を使ったことで、より射程範囲の広い、さまざまな解釈の可能な歌に着地していると感じる。
「原作のもつテーマをわかりやすく、具体的に音楽にするのではなく、いかに抽象的で説得力のあるものにするかということに重点をおいて制作しました」(※3)と本人が明かしているように、この曲はサカナクションらしさやアニメの世界に寄り添いながらも、解釈は聴き手に委ねる自由さも持ち合わせている。だからこそ、多くの人に届いたのだろう。
※1:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/146881/2
※2:https://x.com/VictorMusic/status/1897482273798213918
※3:https://sakanaction.jp/news/detail/2835























