B’z、稲葉浩志、INABA/SALASらをサポート キーボーディスト サム・ポマンティ、“縁”に導かれた音楽人生

ソロ作品で向き合う自分自身「すごくわがままなプロジェクトなんです」

ーーそんな稲葉さんの、ボーカリストとしての魅力はどう感じていますか?
サム:言えることは山ほどあるんですが……稲葉さんはものすごく存在感のあるボーカリストですけど、一方ですごく音楽的な人ですね。歌うことだけを考えているわけじゃなくて、全てを音楽として聴いてるから、稲葉さんの声もバンドの一部になっているような気がするんです。だからどうサポートすればいいか迷ったときも、稲葉さんの声がリードしてくれる。稲葉さんの声は本当に音楽の一部になっていて、そういう意味ではあまり困らないというか、他の楽器とセッションしてるみたいな気分になるんですよね。
ーー去年は全国ツアー『Koshi Inaba LIVE 2024 〜enⅣ〜』に参加されましたが、そのときもそう感じましたか?
サム:ソロツアーでさらにそれを感じました。B’zのときは松本さんのギターもありますが、そのギターもある意味“歌声”みたいな役割になるというか。だから僕は、B’zのときはボーカリストが2人いるような考え方でサポートをしていたんです。でもソロの稲葉さんは、B’zのとき以上にバンドの一部になろうとしているように感じました。
ーーINABA/SALASの新作『ATOMIC CHIHUAHUA』にも全面的に参加されていて、今回こそはツアーも実現しそうですね。
サム:今回のアルバムは全曲に関わっていて、最初の種の段階から完成品になるまでの流れを全部見てきました。「Burning Love」や「LIGHTNING」は特に好きですし、素敵な歌詞のバラードもあるし、「ONLY HELLO」はちょっと独特な形ですけど、みんなで一緒に歌うような、INABA/SALASのアンセムになるんじゃないかと思います。『Maximum Huavo』のツアーができなかった分、5年前から溜まってる気持ちが爆発するような、楽しいツアーになると思いますので、期待していてください。
ーーではここからはB’zのことを離れて、サムさん自身の活動について聞かせてください。途中で話に出たご自身のアーティストプロジェクトであるKitsunaはもともとどんなコンセプトのプロジェクトなのでしょうか?
サム:Kitsunaはミックスとマスタリング以外の全部を自分一人でやっていて、自分が受けてきた影響を全部入れて、流行りのことは全く考えずにやるっていう、すごくわがままなプロジェクトなんです。僕の根底に流れている音楽はどんなものなのかを探りながら作った音楽ですね。ただ最初に出した『The Alone Experience』は10代に制作したので、今聴くとちょっと若いなと思います(笑)。あとKitsunaには「孤独」がテーマにあって、『The Alone Experience』は「“孤独=寂しい”わけじゃない」というテーマだったんですけど、2枚目の『Yami』は「やっぱり一人では何もできない」という結論に至っていて、ちょっと暗いアルバムになってます。『Yami』は劇場でパフォーマンスされているような映像をイメージしながら作ったアルバムでもありますね。
ーー『Yami』という物語のサントラを作るような。
サム:そうですね。まさに、そういう考え方でした。
ーー『Yami』のリリースは2021年なので、パンデミックのときの内省的な気持ちも反映されているでしょうね。
サム:そうだと思います。ただ「闇」とか「影」は自分の中に常にあるというか、先ほども話したように、カナダは常にアメリカの影に存在してるっていうのもあるし、あと僕の父はカナダで大活躍をしているミュージシャンだから、僕はずっと彼の影に存在していたような部分もあって。
ーーそういう意味では、サムさんの人生が詰め込まれている。
サム:そうですね。作っていたときは、そのとき感じていたことをただただ音にしていたんですけど、後から気づくことがたくさんあって、今でもあのアルバムがいろいろなことを教えてくれるので、それは音楽の不思議な力ですね。
ーーもう一作、2021年に出ている『One of These Days』に関しては、INABA/SALASにも通じるグルーヴィな側面があるし、個人的には日本のシティポップも連想しました。
サム:そうかもしれないですね。子供の頃から70〜80年代の音楽が好きだったから、シティポップも好きだし、いろんな人があの頃の音楽の良さに気づいているのはいいことだと思うんですよ。
ーー日本のことを知っていく中で、日本の音楽のこともより好きになった?
サム:そうですね。坂本龍一さんのアルバムは父のレコードコレクションにもあって、それを棚から出して聴いていました。昔は「戦場のメリークリスマス」くらいしか知らなかったんですけど、いろんなアルバムを聴いて、坂本さんの素晴らしさを知りました。あとはスピッツがすごく好きになって、日本語の勉強にも良かったんですよね。すごくクリアに歌うし、綺麗な声だし、歌詞の意味も素敵だし、とても勉強になりました。あとはちょっと前に、日本でどんな音楽が流行っているのかが気になって、水曜日のカンパネラを結構聴いていた時期があったり、中田ヤスタカさんのプロデュースも好きになって、彼のいろいろなプロジェクトを聴いたことは、プロダクションの面ですごく勉強になりました。
「自分が一番やりたいのはこれだなって気づきました」

ーーホームページのプロフィールには「2023年から、幼いころから興味を養ってきたゲーム音楽を実際作るようになり、日本の大手ゲーム会社と編曲の活動をしています」とありますね。
サム:まだそのゲームは発売前なんですけど、実はそのオファーが来たのはシェーン・ガラース(B’zのサポートで知られるドラマー)の奥さんからなんです。彼女はコンポーザーで、映画やゲームの音楽を作ってる人なんですけど、「こういうプロジェクトがあるから、参加してみませんか?」と誘ってくれて。もともとあったサウンドトラックをアレンジして、新しくリリースされる作品に追加するんですけど、1曲だけの予定が、結局6曲になったんです。
そのプロジェクトに関わって、やっぱり自分が一番やりたいのはこれだなって気づきました。ゲーム音楽でも劇伴でも、映像に合わせて音楽を作ることが一番好きなんですよね。これまでも映画やドキュメンタリーの劇伴を作ったことはあるんですけど、もともと子供の頃からゲーマーだったので、「こんなに楽しい仕事はない!」って(笑)。もちろん大変な部分もあるとは思うんですけど、ゲームに関わっている人とはすごく波長が合う気がして、もっとそういう仕事を増やしたいです。
ーーサムさんから見たゲーム音楽ならではの魅力はどんな部分にありますか?
サム:最近のゲーム音楽はちょっと映画のサウンドトラックっぽくなっているんですけど、昔は本当にいろんなジャンルが混ざってたんですよね。「ゲーム音楽」とひと括りにしちゃう人もいるんですけど、よく聴くとそうじゃない。例えば、『ファイルファンタジーVII』のサウンドトラックはすごく有名ですけど、ボサノバもジャズもクラシックもロックもメタルも、本当にいろんなジャンルが混ざっていて、いろんなジャンルからの影響があるからこそ、ゲームの世界観がもっと豊かになる。そこが一番の魅力なんじゃないかと思います。
ーーサムさんもこれまでいろんなタイプの音楽に関わってきたわけで、ゲーム音楽だったらそれが全部注ぎ込める。
サム:実際に今回のゲームの仕事では、まさにそれに気づきました。いろんなジャンルやいろんなスタイルを混ぜれば混ぜるほど、ゲーム会社の人が「これは最高だ!」と言ってくれて、これは僕のストライクゾーンじゃないかなと思うようになりました(笑)。

ーーきっかけがシェーンだったっていうのも面白いですね。現在サポートをしているHeavenstampに出会ったのもDURANさんがきっかけなんですよね?
サム:そうなんです。日本に引っ越してきて、最初に仕事を振ってくれたのがDURANでした。DURANとFUYUさんとKenKenさん、もともと3人だけのセッションライブだったんですけど、僕が東京に引っ越してきたことを知ってくれていて、「じゃあ、サムも参加してくれよ」と言ってくれました。そのライブにHeavenstampのTomoya.SさんとSallyさんがいて、ライブが終わったらすぐ僕のところに来て、「キーボーディストを探してるんですけど、ぜひ参加してください」って、その場で誘ってくれて。2人は人間としてもすごく素敵な方だし、ありがたかったです。
ーーHeavenstampでは昨年中国ツアーもしていて、より活動の幅が広がっていますね。
サム:中国では400人ぐらいのキャパシティのところでやって、温かいファンたちが大勢来てくれて、いい触れ合いでした。僕は漢字には結構強いと思っていたんですけど、中国に行ったら何もわからなくて、今度は中国語も頑張らなきゃいけないかもしれない(笑)。
ーーサムさんなら数年後には本当に喋れるようになってそうな気もします(笑)。では最後に、ミュージシャンとしての今後の展望を聞かせてください。
サム:編曲家や作曲家として、映像に合わせて音楽を作ることには相性の良さを感じているので、そこにより力を入れたいと思っています。それには長年アーティストをサポートしてきた経験も大きく関わっていて、映画における音楽は、物語や演じてる役者を支えているわけで、サポートミュージシャンとして活動してきたことと似ている気がして。自分の中にあるスキルで、どうやったらこの人をベストな形で支えることができるのかっていう考え方は、映画やゲームの音楽を作ってるときもすごく使える考え方だと気づいたんです。なので、できればこれからもサポートミュージシャンとしてアーティストを支えながら、いろいろな物語を支える音楽を作り続けたいなと思っています。






















