鷲尾伶菜、独立後初となる新曲で思い切れた理由 「良くも悪くも、自分の出した答えが“正解”」

“正解”を持つことは“正解以外”を否定することではない

──具体的な制作のお話も聞きたいんですけど、作詞クレジットが鷲尾さんと岡嶋かな多さんの共作になっていますね。
鷲尾:歌詞を自分で書くときは、いつもかな多ちゃんに見てもらっているんです。「このフレーズは、歌うときのことを考えたらこうしたほうがいいと思う」みたいなことをプロの目線で細かく指摘してくれるので、すごく信頼していて。今回はまず大枠を全部自分で書いたんですけど、3パターンくらい選択肢を用意しておいて、パズルみたいに組み合わせていくやり方をしたんですね。そのパズル作業をかな多ちゃんにお願いしました。
──内容的には、先ほどからおっしゃっているように飾らない言葉で、本当のことを歌っているなと感じました。
鷲尾:本当のこと(笑)。
──べつにこれまでが嘘という意味ではないですけど(笑)。
鷲尾:そうですね。キレイにカッティングされていない、原石のような言葉で歌いたくて。一人称を〈僕〉にしたのも、「私が私が」っていう自分よがりにはしたくなかったからなんです。今はネット社会で、すごくいろんな人が意見を戦わせているけど、それぞれがきっと正しいし、人を傷つけさえしなければ「自分が正しい」と思っていていいはずじゃないですか。でも、自分が正しいと信じることを発信すると叩かれちゃったりもする。だから「みんな正しい、だけど人を傷つけるべきじゃない」ということを歌にしないと! って思ったんです。それで、主語を自分自身に限定しない〈僕〉にしました。
──どうしても“正解”というものが“たったひとつの真実”を指すように思われがちだけど……。
鷲尾:そう。思われがちなんですけど「そうじゃないんだよ」ってことを伝えたくて。
──“正解”を持つことって、“正解以外”を否定することじゃないんだよっていう。
鷲尾:そう! 本当にそう! そういうことを言いたいんです! それを見出しに書いておいてください(笑)。
──(笑)。それを踏まえることで、〈これが僕なんだ〉と言い切る締めのフレーズがグッとくるんですよね。
鷲尾:良くも悪くも、自分の出した答えが“正解”だと思うので。30代に入って初めて書いた曲ですし、精一杯がんばってくれた20代の自分がいたからこそ今の私が「これが自分なんだ」と自信を持って言えるようになったんだ、ということを書き残しておきたかったんです。自分への大切なお手紙のような楽曲かなと思いますね。
──それに加えて、やはりサビの〈歌って 歌って 傷ついた〉という一節が素晴らしいです。よくこれを歌えたなと(笑)。
鷲尾:しかも〈嫌になるほど〉ですからね(笑)。やっぱり音楽活動を13年も続けていると、自分の発信するものが思うように伝わらなかったり、曲解されて心ない言葉が飛んできたりして、それこそ“正解”がわからなくなる瞬間があるんですよ。でもあとから思い返すと、その葛藤があった中でも続けてきたからこそ叶った夢がたくさんあるなって。当時は歌うことさえ嫌だった曲でも、その曲のおかげで救われたこともたくさんあるんですよね。私のやってきたことは何も間違っていなかったと今なら思えるし、つらいことはたくさんあったけど、後悔は何もないんです。30歳になってやっとそういうふうに思えるようになったから、その過去に感謝を伝える気持ちでそういう歌詞にしました。

──そう言えるようになった自分の姿を見せることで、みんなもそう思ってほしいと。
鷲尾:うん、思ってほしい! 今って世の中が激動しているじゃないですか。今日の“正解”が明日も“正解”とは限らないから、自分の“正解”とは違うものを突きつけられても傷つく必要はないし、そんなに落ち込まないでほしいなって。一番ダメなのは、すべてを否定しちゃうことだと思うので。
──否定したって、何もいいことないですもんね。
鷲尾:ないです!
思ったとおりに羽ばたくことができている
──そんな「正解」のミュージックビデオが、今日の取材日時点ではまだ完成していないということで拝見できてはいないんですが、いただいた資料を読む限りではかなり今の鷲尾さんを象徴する映像になっていそうな雰囲気ですね。
鷲尾:そうですね。学生時代と現在の音楽に対する向き合い方を対比させた感じの映像になるので、今何かに挑戦しようとしている人たちへのエールになるようなMVだと思います。
──撮影の裏話として、何か面白エピソードはありましたか?
鷲尾:面白エピソードかあ……なんかあったかなあ。
──べつに面白くなくてもいいんですけど(笑)、印象に残っていることが何かあれば。
鷲尾:今回、MVの衣装を自分のブランドで全部用意したんですよ。歌唱シーンのドレスは違うんですけど、イメージシーンで着ている洋服とか、バンドメンバーの衣装も全部Luamodaの商品になっていて。なので、スタイリング作業がすごく楽しかったです。

──それはすごくいいですね。今の鷲尾さんが出す楽曲のMVとして非常に正しい見せ方というか、それこそ“正解”って感じがします。
鷲尾:そうなんです。なんのためにファッションブランドを立ち上げたかって言ったら、音楽活動をメインに活動する人間としてビジュアル面の表現にも携わりたいと思ったからなんですよね。MVで見た服をファンの皆さんが実際に手に取ってもらえたりするのもけっこう新しい体験なんじゃないかなと思うので、これからも作っていきたいですね。
──はたから見ていると、そのブランド設立が鷲尾さんにとってかなり大きな意味を持っているように感じます。
鷲尾:だと思います。音楽とファッションという2軸での活動はけっこう大変ではあるんですけど、何かものを作るということが自分はすごく好きなんだなと改めて自覚できましたし。それに、いろんな軸があったほうがすべてが安定する、というのもありますね。
──言い方はアレですけど、「音楽がすべてじゃない」状態になったことで、むしろ音楽をより自由に表現できるようになった感じがするんですよね。だからこそ「正解」みたいな思い切った曲も出せたんじゃないかと。
鷲尾:たしかにそうですね。それと、独立に際してスタッフチームを一新したことで新たな視点が加わって、その結果として表現の手札を増やせたなという意識もあります。
──一個人・鷲尾伶菜の生き方としても、“あるべき姿”にどんどん近づけている感覚があるんじゃないでしょうか。
鷲尾:それはありますね。それこそ“正解”というか(笑)。もちろん今までの自分だって何も間違っていなかったと思ってますけど、自分の置かれる状況を自分で選び取って自分で作り上げている状態が今なので、自分の思うとおりに羽根を広げて羽ばたくことができているなっていう実感はあります。

──その翼を手に入れて、これからどんなふうに羽ばたいていきたいですか?
鷲尾:やっぱり求められるものを第一に考えつつではあるんですけど、そればかりだと偏ってしまうので、30代はライブという場で生の感情を皆さんに直接届けることを大切にしていきたいと考えています。ファッションの活動もそうですけど、今まであまり挑戦できなかった方法で、そのやり方だからこそ伝えられるものを伝えていきたいです。
──たとえば「こういう表現者になりたい」みたいな、指標にしている人は誰かいたりしますか?
鷲尾:宇多田ヒカルさんですね。けっこうプライベートも波乱万丈な方だと思うんですけど、その人生がすべて歌に反映されていて、しかもそれが世の中にずっと残っているじゃないですか。彼女が10代のときに作った「Automatic」や「First Love」にしても、そのときの宇多田さんの感性や置かれていた環境があってこその曲だと思いますし、20代のときの曲も、今もそうですよね。お子さんが産まれてからの曲には、大きな愛みたいな温かいものをすごく感じます。そういう作品作りをできる人が本当のアーティストだと思うので、すごく尊敬していますね。
──その意味では、まさに今回の「正解」はそういう曲ですよね。人間・鷲尾伶菜を表現するものになっている。
鷲尾:そうです。これを30歳という節目にちょうど出せて、残せてよかったなと思います。自分は宇多田さんのように10代のときから自分で作った歌を歌ってきたわけではないですけど、これから自分で書くものに関してはそういう“そのときの自分にしか書けないもの”をありのままに出していけたらなって。日記みたいに、長く活動を続けることで自分自身のものの見方や考え方の変化も楽しめると思いますし、そういう変化を楽しむゾーンに今来てます(笑)。
──気が早いですけど、今回の「正解」が5年後や10年後にどう響くのかも楽しみになりますね。
鷲尾:たしかに! 10年後とかに聴いたら「あのときは若かったな」って思うかもしれない(笑)。それも楽しみですね。

■リリース情報
「正解」
3月3日(水)配信リリース
配信リンク:https://lnk.to/reinawashio-seikai
■関連リンク
Instagram:https://www.instagram.com/reina.washio.official/
X(旧Twitter):https://x.com/rei__official_
YouTube:https://www.youtube.com/




















