海南で初開催の野外フェス『R-day Music Festival』へ 中国の人気バンドに加え、She Her Her HersやNIKO NIKO TAN TANも出演

土井コマキのアジア音楽探訪 Vol.12

 初めて中国本土に行ってきました。初めてなのに大都市の北京でも上海でもなく、海南〜南寧〜重慶〜西安という地方都市ばかり。というのが、She Her Her Hers(以下、シーハーズ)という日本のバンドの中国ツアーに同行してきたんです。このバンドのことをご存じない方もいらっしゃるかもしれないのですが、私の担当するラジオ番組では昔から応援しているインディーロック〜シューゲイザー・ポストロックなムードを持つ抒情的なバンドです。2019年くらいに中国で人気に火がついて、今では日本よりも中国の方がライブの本数や、フェスの出演が多くなっているんです。大都市ではZeppクラス(2000人前後)の会場のチケットが完売、先にあげた地方ツアーはそれより小さい会場ですが、チケットはもちろん即完売。世界のあちこちに支社がある大きなメジャーレコード会社と契約しているわけでもない彼らが、どうやって中国で大きな人気を獲得したのか、どうやって活動しているのかなど、日本のアーティストやマネージメントから相談を受けることも多いそうです。まぁ、とにかくすごい人気になっているらしい。そんな話は、ここ数年聞かされていて、いつか現地で見てみたいと思っていました。

 シーハーズ一行は中国ツアーの前に、まずは海南の『R-day Music Festival』という野外フェスへ。私は中国のことを全くと言っていいほど知らなかったんだなと思ったのですが、中国の一番南に位置する海南には、中国のハワイと呼ばれているビーチリゾート地・海南島があります。地図で見ると海を挟んで目と鼻の先がベトナムで、気候も温暖な島です。椰子の木があちこちに生えていて、ココナッツを使ったお料理や一年中安いスイカなども美味しくて南国ムードです。1月に行ったのですが、私が住んでいる大阪の秋のような気候でした。そんな場所にある大きなお寺の隣の広場で、1月11日と12日の2日間に、今年初開催されたのがこのフェスです。巨大なメインステージ「生浪舞台」と、小さめのステージ「乘风舞台」の2つあり、印象的だったのは、どちらもステージバックの映像が綺麗。これはすごいなと思いました。また、真っ先に日本と違うと思ったのは、警察官の多さです。警備員ではなく、警察官です。私は初めての経験だったので物々しいなと思いましたが、すぐに慣れてしまう自分の感覚が信じられなかったです。現地の方々はどういう感覚なんでしょう。ずっと、うっすらとした緊張感があったりするのかな。それとも、逆に安心なのでしょうか。

 シーハーズは初日の18時40分から19時25分という良い時間に「生浪舞台」に登場。演奏中に日が暮れて、音楽と映像や照明の総合的な演出が得意なシーハーズにピッタリ。サウンドは透明で浮遊感があり、バイオリンの叙情的な音色と、ステージの上に現れた月の姿が合わさって、これは言葉の壁を越えるなと理解できる美しい世界が生み出されていました。さらに、主催者がシーハーズにちなんだフェスのサブタイトルをつけてしまうほどファンだということで、シーハーズの演奏中に打ち上げ花火が上がるという仕掛けも、ドラマチックに盛り上がりました。

 そして「乘风舞台」に、東京・渋谷で開催されているサーキットイベント『SYNCHRONICITY』とのコラボ枠として登場したのが、日本のロックユニットNIKO NIKO TAN TAN。彼らはメンバーにVJがいるので、映像を綺麗に見せることができるステージで良いなぁと思いました。漫画風のイラストを使った映像が映し出された時、スマホで撮影を始めるお客さんも特に多くて、やっぱり「日本=漫画」なんだなと思いました。ちなみに「乘风舞台」はステージバックだけではなく、空中にもパズルのピースような形のLEDスクリーンが浮いていたんですが、これがクレーン車からぶら下げているだけで、日本ではありえない演出だと驚きました。すごいな中国。

 このフェスで、ずっと見たいと思っていた中国のバンドを見ることができました。西安出身のポストパンクバンド法兹FAZI。16時20分から「生浪舞台」に登場。大学生っぽい若い子達がステージ前にどんどん集まってきて、大きなフラッグを掲げる人もいる。盛り上がりがすごい。足元は砂地なものでサークルができると砂埃もすんごい。やはり若者を鼓舞するような内容の歌詞が多いとのこと。演奏はもちろん緊張感もありエネルギッシュでカッコいい! 想像していたよりも明るいエネルギーに満ちている感じがして、とても良かったです。何度か来日もしていましたし、アジア圏のあちこちのフェスのラインナップで名前を見るし、アメリカのショウケースフェスティバル『SXSW』にも出演していました。USツアーもしたことがあるみたいです。YouTubeにアップしてくれている数少ない動画の中にはツアードキュメンタリーがあって、それを見ると、あえて小さいライブハウスを回ったツアーもあるみたい。バンドの姿勢というか、ライブを大事にしているのが良くわかります。

法兹 《控制》Official LIVE VIDEO
法兹《隼》Official LIVE VIDEO

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