台南のフェス『浪人祭Vagabond Festival』に行ってきた(前編) 環境とローカルに配慮した現地の模様をレポート
土井コマキのアジア音楽探訪 Vol.9
10月5日土曜日と6日日曜日に台湾の南方の街、台南で開催された『2024浪人祭Vagabond Festival』を紹介します。色んな関係者から良いフェスだよと教わり、いつか行ってみたいと思っていたら、まさかのご招待をいただいたので、ワクワクして行ってまいりました。そして本当に素晴らしかった!
今回が6回目の開催で、毎年チケットは瞬殺、3日間で8万人以上が来場する人気のフェス。今年は、元々は金曜日から3日間開催の予定だったのですが、台風上陸の影響で、2日間に短縮して開催され6万人が来場しました。高雄国際空港が全く使えず、私も急遽行程を変更。台湾桃園国際空港から入国して車で6時間ほどかけて台南まで移動するという、なかなかの旅になったのですが、お隣の高雄には大きな被害も出ており、無事事故もなく開催されただけでも奇跡的だと思われます。スタッフの皆さんは、本当に大変な思いをしてステージを組み上げ、出演者のスケジュールを調整し、水たまりひとつない会場を整えて、なんとか開催されたのだと思います。まずはそこに感謝と拍手です。
会場は美しい夕日で有名な、台南市の安平区観夕平台横芝生。ドローンの飛行練習もできるほど、めちゃくちゃ広い平坦な場所で、移動が本当に楽ちん。メインステージの「鯤鯓ステージ」と、通路を挟んで隣にほぼ同じスケールの「劍獅ステージ」、メインステージの逆側の隣のエリアには半分くらいの大きさでLEDスクリーンを備えた「金鶴廳ステージ」と「風獅ステージ」があって、横に移動していくだけの簡単配置。そしてそれらのステージの客席エリアの後方に、通路を挟んで、夜にはDJも登場するHIPHOPメインの「小嘻門ステージ」や、トークイベントを開催する「浪人塾ステージ」、夜市のような巨大なマーケットゾーン、テントエリアなどなどが配置されています。とにかくわかりやすい。縦と横の通路を交差点にして大きなゲートがあり、4面ともが写真映えする仕様なので、4組同時に撮影できて便利〜。思いついた方、天才ですか?
マーケットゾーンが本当に大きくて、フェスの会場の中に夜市があると言っても過言ではないほど! 飲食だけじゃなく、古着、古道具、アクセサリー、マッサージ、タトゥーなど、なんと100店舗。見て回るだけでも大変! ローカルを大事にしたいとのことで、台南ご当地店など地元から出店してもらっているそうです。環境の持続可能性に応えるためベジタリアンフードも出店していました。さらにチャリティーヘアカットブースもあってすごい。ヘアアレンジじゃないのよ、ヘアカットなの。丸刈りにしている男性も多くて、行列ができていて、びっくりでした。フェスに行って丸刈りになって帰ってくるとか家族びっくりするやん。攻めてるな〜。
あと、会場内は使い捨ての食器を禁止しています。自分の食器を持ってくるか、リユース食器を借りて会場内の水道で洗って返すことで、レンタル代が返金されるシステム。『浪人祭』がこのシステムを導入してから去年までの4年間に約219,880件の使い捨て食器がリユース食器に置き換えられたそうです。時間によっては、洗い場に大行列ができるし面倒じゃないのかなと思ってお客さんに声をかけてみたのですが、「全く面倒じゃないよ、だってあそこで洗えばいいだけだから」と当たり前にお返事いただき、いやはや馬鹿な質問をしてごめんなさいという気持ちに。思い切って導入してみたら、みんなそれが当然と思って協力できるのだなと思いました。思わず笑ってしまったのが、夜になって誰かが酔っ払って、お酒を飲んだリユースカップを落としたり置き忘れたりしたものを、拾い集めて洗って返金を受ける人が出てくるんですって。えらい(笑)。会場にゴミがなくなって、食器がひとつでも多く返却されるなら、それでいいですもんね。
ここまで読んでいただいたらおわかりでしょう。このフェスの音楽以外の部分のコンセプトは、環境とローカルへの配慮です。毎年ビーチクリーンも実施されています。ライブが始まる前、朝からお客さんが集まって、仮装して海岸のゴミ拾いをするそうです。その数はなんと毎年4~500人。過去5回の開催で累積ビーチクリーン重量は 4,655.5キログラム!
主催者Echoさんとのインタビューで、『浪人祭』という名前の由来を聞きました。すると、Echoさんは武士が好きで、井上雄彦の漫画『バガボンド』も好きなんだそうです。フェスを開催するというのは時代を切り開くということだから、特に明治維新の頃の武士からインスパイアされて『浪人祭』という名前にしたのだそう。戦ってるんだなぁ。そしてなぜ環境保全や地元密着型にこだわっているかというと、「大勢が集まるなら、世の中を良くすることをしたい」というシンプルな思いから。なんてピュアなのか。オフィシャルグッズにもリサイクル素材を使用したり、ゲートは自然に還る素材だけで作られていたり、徹底しています。実はリサイクル素材を使ったグッズは原価が高くなるので赤字だそうですが、他でなんとか補填して続けているのだとか。そして売れ残ったものは翌年にも思い切って繰越販売しています。(可愛かったので、2021年の商品のガチャポンカプセルをリユースしたギターピックを買いました)。