タイの音楽フェス『Maho Rasop Festival』は20歳以上入場可! 大人に刺さる現地アーティストをピックアップ

土井コマキのアジア音楽探訪 Vol.11

 『Maho Rasop Festival』(以下『Maho Rasop』)は、2018年にHAVE YOU HEARD?、Seen Scene Space、Fungjaiという3つのプロモーターが一緒に始めた、タイ・バンコクのインターナショナルミュージックフェス。聞くところによると、多数決で出演アーティストを決めているそうで、3社のうち2社がOKを出さないと出演オファーに至らないのだとか。公平! シンプル! 2020年、2021年はコロナの影響で開催できず、2024年11月23日・24日に行われた今回が5回目。ステージは3つで、そのうちの1つは三方をお客さんも登ることができる櫓で囲まれたクラブ仕様。単純に規模で語るとそんなに大きくはないのですが濃度が高い。内容の充実度がすごいです。日本人からすると、「こんなBIGアーティストをこの距離感で見ることができるなんて夢みたい!」の連続です。

 会場はバンコク郊外のESC PARK。広く地面が平らな公園で、芝生にシートを敷いたり、折り畳み椅子を持ってきたり、寝転んでいる姿も見受けられて、ゆったり楽しんでいる人が多い印象。スポンサーブースの周りには、飲食できるテントやテーブル、椅子、ビーズクッション、はたまたタイらしくて面白かったのが、ネオンピンクのネットで出来た巨大なタワー。可愛いけどちょっと色っぽいなと思っていたんですが、これが実は蚊除けスプレーのブランドが設置した巨大な蚊帳だったんです。ピンクのつなぎを着たお兄さんたちがブースでPRしていて、蚊の着ぐるみもいて、ちょっと可笑しかったです。一緒に写真を撮ってもらうと、不思議なファンタジー感が。

 このフェスの大きな特徴の一つは、20歳以上しか入場できないということ。それゆえ、場内の雰囲気が大人びているように思いました。飲食店もちょっと洒落たものが多くて、スムージーもメニューが凝ってました。ここでもやっぱり日本食が出店していたんですが、サーモンやカニカマなどタコ以外のものが入っていたり、とびっこトッピングもできるという癖のあるアレンジたこ焼きが……。あとは切り身の焼き鮭も売ってました。フェスで?! 焼き鮭? シンハービールはアイスクリームの無料配布をしていて、なんだかリッチです。カルチャーブースもたくさん出店していて、雑貨やレコードなどの物販の他にも、カメラマンにレトロな写真を撮ってもらえる写真館や、作家による似顔絵コーナー、タイマッサージも人気。ライブだけを必死で観るのではなく、それ以外にもみんな時間やお金を使って、思い思いに週末を楽しんでいます。ファッションも、いわゆるライブやフェスファッションというよりも、音楽と隣にあるものとしての洋服選びをしている、おしゃれな大人が多いなと思いました。

 今回のヘッドライナーはフランスのAirとイギリスからWhite Lies。Airはアルバム『Moon Safari 』が25周年で、そのアルバムの再現ツアー中(日本には来ない!)ということで、かつてAirに恋に落ちたインディミュージックファンが大集合。そんな大人をめがけた、良い意味で偏ったアーティストセレクトが実現したわけです。濃かった。たとえば、地元タイの大御所・The Paradise Bangkok Molam International Bandや、タイの90s’グランジを象徴するOrnareeというレジェンダリーな存在、アメリカからReal Estate、韓国は日本でもシティポップ的なサウンドで人気のバンドADOYとSilica Gel。日本からは坂本慎太郎と羊文学。また、インドネシアやシンガポールなどからもセレクトされていました。知らないアーティストでもきっと良いんだろうなという安心感が漂ってきます。ある意味クセの強いこのラインアップに、日本のメジャーシーンでも老若男女から人気を得ている羊文学が混じっていることが誇らしいし、やっぱりここでも偉大なアーティストとして歓迎されている坂本慎太郎に、ゆらゆら帝国からライブを観てきた私としても鼻が高く嬉しい気持ちになりました。羊文学のステージはちゃんとそこで鳴る音にお客さんが反応して歓声が沸いていて、坂本慎太郎ご自身も驚かれたのでは? と想像される黄色い歓声が起こっていてびっくりしました。『FM802 MINAMI WHEEL』にも出演してくれたタイのバンド・Soft Pineはゆらゆら帝国リスペクトを公言していますが、会場内は「シンタロウをタイで見れる日が来るなんて!」というムードに溢れていました。

 そんな中から、私が気になったタイのアーティストをピックアップします。

JPBS
JPBS

 まずはJPBS。一言でいうとハードなインストバンド。ポストロックと呼べばいいのか、タイの伝統音楽的なニュアンスもある。衝撃的にかっこいいライブでした。実際、多くの人がそう思ったようで、The COSMOSという音楽紹介メディアの「TOP3アクトは?」アンケートで、たくさんの人がJPBSをあげていました。大きいステージに現れた6人はどこか宗教的なムードのある薄いグレーのローブ(形はベトナムのアオザイにも似ている)を着ていて、まるで何かの儀式のよう。ステージは基本的に常にバックライトに包まれ、すっかり日が暮れた会場を真っ赤な世界に染める。興奮して撮影しすぎて、私のスマホのカメラロールも真っ赤になってしまいました。「Chowsex」という曲のタイ語の男性のナレーションに歓声が起きる。日本人の私にはそのタイ語の響きはとても神秘的に聞こえて鳥肌が立ちました。しかも曲の途中でバキバキのダンストラックに変貌するので、会場はクラブと化し温度が上昇。その曲も収録された最新アルバム『Waiting Room』が素晴らしいので、ぜひ聴いてみてほしいです。なだらかで瑞々しい「Waterfall」もいいし、「Green Screen」の環境音の長いイントロを経て鳴らされる低音の効いたサウンドは、まるで大きな宇宙戦艦がゆっくりと旋回するようなダイナミックさがある。いちばんレディオフレンドリーだなと思ったのは「KDG」。2024年はこのアルバムを携えての台湾ツアーも開催したそうなのですが、『Maho Rasop』はそのアルバムツアーの集大成のような位置付けで、気合いの入ったショウを用意していたんだと思われます。めちゃくちゃいいタイミングで観れたのかもしれない。ぜひ『フジロックフェスティバル』のレッドマーキーか、ホワイトステージで観たいです! お願いします!

JPBS - DIAGE Festival 2023

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