日食なつこ、活動15周年企画が堂々フィナーレ キャリアの総ざらいと次なるタームへの助走


ここからはハイライトの連続だ。その火付け役になったのが「Fly-by (2024 observed ver.)」である。ベストアルバムのタイトルにもなった通り、この曲は初期の代表曲であるばかりか、この15周年の看板だったように思う。背景のスクリーンには宇宙が映し出され、満天の星空を思わせる照明がそのムードを引き立てる。日食なつこはグランドピアノを前にひとりでステージに立ち、無数の出会いと別れについての歌をゆったりと歌い上げていた。鍵盤は銀河を泳ぐように流麗で、彼女の声は寂しいくらい澄んでいる。

客席を練り歩くように登場したのが、BLACK BOTTOM BRASS BAND(以下、BBBB)の6人である。陽気なスネアドラムと活気の良いサックスが鳴り響く。するとどうだろう、さっきまでのしっとりとした空気はどこへやら。「appetite」の跳ねるようなリズムが会場を揺らし、パッと花が咲くように気分が晴れていく。「Dig」では一際大きなクラップが響くなど、ひょうきんなくらい明るい音色にお客さんたちも乗せられていたように思う。たった2曲とはいえBBBBの存在感は抜群で、日食なつこのライブでは珍しいチアフルな空気が生まれていたように思う(「もしこの先20周年ライブがあったら、是非また呼びたい」とのこと!)。


この日2回目のkomakiとのツーマン演奏は、もちろん彼女の代表曲「水流のロック」だ。向かい合っているだけで絵になるふたりである。軽いタッチだが推進力のあるスキルフルなドラムと、叩きつけるような鍵盤。ピアノもドラムも全てがリズムを刻み、会場からも大きなクラップが巻き起こる。鎬を削るような演奏がクールであり、やっぱり日食なつこのライブではこの曲を味あわなければと思わされる。

再び日食カルテットを交えて歌った「音楽のすゝめ」は、オーロラみたいに綺麗なストリングスに乗せて美しくも力強い歌を聴かせていく。奔放にうねりを上げるベースと洒脱なギターが絡み合う様も魅惑的で、これだけで満足だ......と思っていたら、次の「うつろぶね」でぶっ飛ばされた。ほとんどやり合うようなテンションのアンサンブルは壮観で、この日一番の見せ場だったのではないだろうか。
最後は日食CREWの4人に戻り「√-1」「0821_a」「ログマロープ」を演奏して終演。新曲の「0821_a」は早くもライブにおけるアンセムになっているような印象で、オーディエンスからコーラスが聴こえてきたのも感動的だった。星が瞬くような鍵盤のイントロからして魅惑的で、展開の多いこの曲は高いスキルを持ち合わせる日食CREWの持ち味を存分に楽しめる楽曲なのである。そして大団円の「ログマロープ」だ。会場中から響く〈鋼の心臓〉というフレーズが頼もしい。彼女の楽曲は無邪気に聴き手を応援するものではないが、こうやって心の深い場所を熱くしてきたからこそ、こうして多くのリスナーを惹きつけてきたのだろう。

「15周年やっても音楽は片付かない。一生散らかったまま」だと語っていたのが印象的だった。「誇りを持って散らかしていきます。あなたも楽しく人生を散らかしてください」というのは、20周年に向けて走り出す彼女なりの所信表明だろう。日食なつこの欲望は溢れる一方で、これからも格闘するように素晴らしい音楽を生み出していくはずである。
〈ずっと前から気になっていた 運命に逆らえばどうなるのか〉(「空中裁判」)というフレーズから始まったこの日のライブは、〈ひっくり返して遊ぼうぜ〉(「ログマロープ」)と歌って終わっていった。日食なつこが運命に逆らって生きてきたのかどうかはわからないが、しかし現実に抗うように音楽活動を続けてきたのは間違いないだろう。その積み重ねがこの15周年であり、その傍で多くのリスナーと出会い、そしてその旅はまだ続いていくのである。「周年」は節目ではあるがゴールではない。彼女自身「まだ何も成し遂げていない」と口にしているではないか。新曲「風、花、ノイズ、街」がドラマ『こんなところで裏切り飯~嵐を呼ぶ七人の役員~』のテーマソングに決まり、3年ぶりのアルバムも迫っている。気づけばZeppを回るツアー『玉兎 “GYOKU-TO”』も始まることだろう。さあ、この表現が爆発する瞬間は、もうすぐ先まで来ているのである。

日食なつこ 15th Anniversary -宇宙友泳- 特設サイト
ベストアルバム『日食なつこ 15th Anniversary BEST -Fly-by2024-』 特設サイト
日食なつこ『銀化』&『玉兎 “GYOKU-TO”』特設サイト
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