天音かなた、憧れの林原めぐみに作詞術と人生を学ぶ 「私の中に蓄積されている膨大な時間が言葉になっている」

天音かなた連載第3回:ゲスト林原めぐみ

『ヱヴァンゲリオン』ファン、“エヴァロス”の人に届ける最新シングル

天音:心に響くお言葉をたくさんいただけて、本当にうれしいな。では、ここからは林原さんのニューシングル「Gathering」についても伺っていきたいです。表題曲は「P ゴジラ対ヱヴァンゲリオン セカンドインパクト G」のテーマソングになっているんですよね。

林原:実はこれ「P ゴジラ対エヴァンゲリオン」の2作目でして。前回は「集結の果てに」という曲を歌ったので、今回はどうしましょうかっていうところからスタートした感じでしたね。前回はキングギドラだったのですが、今回はカイザーギドラが襲来するという内容なので、〈抗うことすら許されない/追い込まれた選択〉という言葉を詞に入れ込みました。実際の生活の中でも〈抗うことが許されない〉状況ってあるじゃないですか。例えば受験生であったり、急に転勤が決まってしまった方であったり、自ら選択することが許されていない決定を前にどうするかっていう。あとはね、「後悔しないためにはどうしたらいいですか?」という質問をラジオ番組にいただくこともあるので、それを受けて〈後悔は進んだ先にある/踏みとどまらない証〉というフレーズも入れました。要は、後悔できるということは前に進んだことの証になるだろうと。何かに挑んだ自分を褒めろよっていうことですね。後悔ができているじゃないか、生きているじゃないかっていうことを、今回は色濃く歌詞に入れ込みました。

天音:私も後悔したくないと思うことが多いので、この曲から学ぶことがたくさんありました。ちなみに私は作詞をするのが本当に苦手で、めちゃくちゃ時間がかかってしまうんです。林原さんが作詞をされる際は、「今から書くぞ!」と時間を取って考えられるのか、もしくはポンと降ってきた時にメモしておくのか、どんなスタイルですか?

林原:作詞のようなアウトプットのお仕事で大事なのは、自分の中に何がどれだけあるかだと思うんですね。だからとにかくいろんな経験を自分の中で積むんですよ。例えば「P ゴジラ対エヴァンゲリオン」の曲であれば、もう一度『エヴァンゲリオン』シリーズを観直したり、『ゴジラ』の映画を観たりは当たり前にするわけです。ただぼんやり空を見上げながら悩んでいても、言葉が降りてくるわけもないので。私は普段からYouTubeもたくさん観るんですよ。いろんな虫の名前を知っている人の動画とか。何かに特化している人たちの才能、着眼点を知ることは、自分にとっての勉強になることも多いから。そうやっていろんな言葉や風景、誰かの尖がった探究心だったりをたくさん溜め込んだ状態で曲を聴くと、いろんな映像がわーっと自分の中に流れ始める。その映像を感じながら1日か2日かけてガッと言葉にしていくんですよね。実際に書くのは1、2日だけど、実は私の中に蓄積されている膨大な時間が言葉になって出てきているっていう。常に知らないことを知ることをおもしろがって日頃からため込んでいます。

天音:なるほど。普段の生活でいろんなことをインプットされて、それが形を変えてアウトプットされていくという。一朝一夕でできたものじゃないんですね。私は本を読むのがとても苦手なんですけど、論文を眺めるのは大好きなんですよ。昔、研究系のバイトをしたことがあったので。

林原:へえ! じゃあ論文を作詞の材料と思って見てみると、また世界がうわっと広がるかもしれないですよね。

天音:そうですね。そうすればワクワクしながら歌詞が書けるかもしれない! あと今回の「Gathering」はものすごく力強い楽曲になっていますが、カップリング曲の「Children~はじまりの明日へ~」は一転、優しいバラードになっています。違った曲調の2曲をシングルにしたのはどうしてだったんですか?

林原:「Gathering」は遊技機で使用される楽曲なので、テンポやリズムに関してはメーカーさんからオーダーがあって。それを作曲と編曲をしてくださったたかはしごうさんがすべて飲み込み、昇華してくださった感じでしたね。楽曲を聴いた瞬間、鮮明な映像が浮かんだので、安心して歌詞を書けました。もう1曲の「Children」は遊技機で使用されるわけではないんですけど、その世界観を踏襲したいという思いはあって。最初は激しめの曲を2曲並べる案もあったんですけど、あえてミディアムの曲にしたのは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の中では激しい戦闘シーンで「今日の日はさようなら」や「VOYAGER~日付のない墓標~」を歌ってきたこともあったので、その流れを汲んでみました。世の中的に“エヴァロス”(『シン・エヴァンゲリオン劇場版』にてシリーズが完結したことに対する寂しい感情)になっている方もたくさんいるだろうし、まだ遊技機で遊べない年齢のエヴァファンの子たちもいらっしゃると思ったので、この「Children」を通して自分なりの『エヴァンゲリオン』の映像を思い浮かべてもらえたらなって。

天音:“エヴァロス”ということで言うと、林原さんも「Children」を通して『エヴァンゲリオン』への想いがより強まるような感覚はありましたか?

林原:素敵な質問をぶった斬るようで申し訳ないのですが……(笑)。私自身、あの終わり方に対しては非常に納得がいっているので、とても晴れやかな気持ちなんです。とはいえ、以降も『エヴァンゲリオン』シリーズに関する仕事はコラボなどが定期的にあるので、「Children」を歌うにしても私の中では現在進行形なんです。庵野(秀明)さんの『エヴァンゲリオン』とはお別れかもしれないですけど、(綾波)レイちゃんはレイちゃんとしてーー何人目かは知らないですがーー今回の「P ゴジラ対エヴァンゲリオン」のように違った世界線を歩み続けているので、それを支え続けなければならないんですよ。なので、ロスという感覚はないんです(笑)。

天音:確かにそうですよね! あと林原さんの楽曲はやっぱり声のパワーに元気づけられるところがすごく大きくて。聴いているだけで元気になってしまう感覚が、昔からずっとあります。今回の「Gathering」も心を突き刺されたような感覚になりましたし。やっぱり大好きだなって、あらためて思いました。

林原:ありがとうございます。「Gathering」はバンッ! と刺さないといけない曲なもんですから(笑)。なんで私の曲はいつまで経ってもこんなに突き抜けてるんだろう、みたいな感じもありますけど、おかげさまで「Give a reason」(テレビアニメ『スレイヤーズNEXT』オープニングテーマとなった1996年リリースの11thシングル)から始まった私のひとつのスタイルではあるとは思っています。聴く方々の気持ちを引っ張る、引き上げるみたいな感覚は、今回もしっかり纏った仕上がりになったんじゃないかな。

天音:かと思えば、もう1曲の「Children」ではしみじみと、心のグッと深いところに触れてくれるような歌声が響いていて。それもまた林原さんの大きな魅力だなと、とても感動しました。特に曲の後半で林原さんの声が折り重なっていくところは、本当に鳥肌が立っちゃいましたね。

林原:これ、パッと聴いた分にはわからないと思うんですけど、歌詞を書くのがものすごく大変だったんですよ。歌自体、主旋とおっかけが行ったり来たりする複雑な構成になっていて、しかも違う言葉を歌う2つの声が重なるところがあるんです。そこの歌詞を書くのが大変で、「ここ1文字足りません」「ここは2文字」みたいな感じで、何度もたかはしごうさんから添削が入ったっていう(笑)。最後は“抗って”の“が(あ)って”と“君と会って”の“会って”を重ねてるんです。

天音:韻を踏んでいる感じになっていますよね。

林原:そうそう。これはたぶん、人生で一番大変な作詞でした。声の重なり方のおもしろさはCDに入っている“off vocal version”を聴くとよくわかると思うので、ぜひ。

天音:今のお話を聞いて、“off vocal version”を聴くのも楽しみになりました。CDでじっくり堪能しようと思います。みなさんも絶対買ってください! まだまだお話をお聞きしたいのですが、そろそろお時間が来てしまったようで……。今日は本当にありがとうございました!

林原:こちらこそありがとうございました。かなたさんも、これからも頑張ってくださいね。VTuberってものすごく大変なこともきっとたくさんあると思うんです。表に出ている自分と、素の自分との乖離みたいなものもあるでしょうし。

天音:はい、おっしゃる通りです。

林原:それが幸せだったり、逆に不幸せだったりすることもあると思うんだけど、その場所を選んだのはかなたさんなので、手放したくなったらいつでも手放していいと思うんですよ。いや、別にやめろと言ってるわけじゃないですよ(笑)。そんなこと1ミリも思っていないんだけど、大事なのは、かなたさん自身が自分を苦しめず、楽しいと思って活動すること。それが皆さんにも、自分の心にも一番いいことですから。これからも大変なことすら楽しみながら、頑張っていってほしいなって思います。

天音:めちゃめちゃやる気が湧きました! 今後、人生のターニングポイントを聞かれたら、今日のことを絶対に話すと思います。走馬灯にも浮かぶと思います。林原さん、本当にありがとうございました!

「Gathering」
「Gathering」

■リリース情報
『Gathering』
発売日:2024年12月18日(水)
価格:1,430円(税込)
※初回製造分のみデジパック仕様

<収録内容>
1. Gathering(作詞:MEGUMI/作曲・編曲:たかはしごう)
2. Children ~はじまりの明日へ~(作詞:MEGUMI/作曲・編曲:たかはしごう)
3. Gathering off vocal version
4. Children ~はじまりの明日へ~ off vocal version

■関連リンク
林原めぐみオフィシャルブログ:https://ameblo.jp/megumi--hayashibara
林原めぐみアーティストサイト:https://king-cr.jp/artist/hayashi/

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