声優 林原めぐみ、30年経て今なお愛され続けるアーティストとしての姿勢
声優が幅広く活躍するようになった大きなうねりを生み出し、誰も知らなかったであろう海原を開拓した先駆者といえば、林原めぐみだろう。自身の誕生日でもある3月30日に歌手デビュー30周年を記念する3枚組ベストアルバム『VINTAGE DENIM』をリリースしたばかりだ。
レーベルからの「今までの30年間を振り返る3枚組ベストを」という声を受け、悩み抜いた末に選曲した楽曲を収録。彼女が歌ってきたキャラクターソングや自身で生み出した曲の量に圧倒されつつも、3つのコンセプトで紐づけた内容だ。
DISC1のコンセプトは“do your best”、ファンが好きなアニメ主題歌が集められた。TVアニメ『スレイヤーズNEXT』(テレビ東京系)のOP主題歌「Give a reason」、『シャーマンキング』(テレビ東京系)初代OP「Over Soul」、椎名林檎による楽曲提供が話題となった『昭和元禄落語心中』(MBS、TBSほか)OPテーマ「薄ら氷心中」など、彼女を印象付けるヒットソングがズラリと16曲並んでいる。なお、パチンコ『CR新世紀エヴァンゲリオン』シリーズを盛り上げたイメージソング「集結の園へ」「集結の運命」も収録されている。
DISC2は“everyday life”。今年1月に放送1500回を突破した自身のラジオ『林原めぐみのTokyo Boogie Night』(TBSラジオほか)などを通してファンとの交流を深めてきた彼女が、さまざまに感じ取ってきた日常の姿や人生をテーマにした楽曲が並ぶ。自身の年齢の節目に書いた「Thirty」「Forty」「Fifty」が立て続けに並べられているあたり、“everyday life”のコンセプトとメッセージをストレートに感じさせてくれる。
DISC3は、彼女が2020年の自粛生活中に引っかかったというASMR動画からヒントを得て、“good sleep”というコンセプトでまとめられている。クラシック音楽のフレーバーが強い「BECAUSE」や、昨今のブームであろうチルいムードにも共振するような「ルソーの森/シャガールの空」などが収録されてる。
そして最後を飾る新曲「おやすみ」は、チェロと林原の歌声のみで構成された挑戦的な曲で、テスト収録の空気でゆったりと歌い上げたら一発OKが出たという。チェロの深く低い弦の音に、林原のソフトなタッチで発せられる声と言葉、何より2つの音のみで紡がれた楽曲がデビューから30年目のタイミングで生まれるということに震えてしまう。
「他のインタビューで『声優アーティストの先駆者として』とたくさん聞かれたんですけど、改めて『自分が声優アーティストだと思ったことはないな』としみじみしています」
「確かに歌っているし、やってることはアーティストなのかもしれないけど、結果そうなっただけ。よくここまで、いろいろ降ってきたなとは思います」
「変にマルチである必要なんてないでしょ、と思う。声優は役と向き合って、台本をちゃんと具現化していればいいよね」(※1)
こう答えているのは、他でもない林原本人だ。あくまで彼女は“声優”としての役割をこなすこと、声の俳優として情熱を注ぎ、ファンを楽しませてきたのだ。
アーティスト活動に関しては「投げられた球を、打ち返していただけ」「私にあう作品や歌があったらご依頼があれば『その時』お声掛け頂ければそれでよし」(※2)というスタンス、積極的でも消極的でもない、その時々に合わせた彼女のペースで続けられてきた。
2017年6月11日に『林原めぐみ 1st LIVE-あなたに会いに来て-』を開催するまで、一切ソロライブを開催しなかったことや、2010年代においてほとんど作品をリリースしてこなかったこと、さまざまな要因を鑑みれば、今回のベストアルバム以降、再びアーティスト活動が沈黙してしまう可能性もあった。だが、こちらの不安とは裏腹に4月14日にはシングル『Soul salvation』を発表。現在放送中のアニメ『SHAMAN KING』(テレビ東京系)のOPとEDをそれぞれ収録している。