新世代の台頭、1億再生曲続出、二次創作推奨手法……“拡張”の年となった2024年ボカロカルチャー情勢考察
気づけば今年も残りわずか。慌ただしい年末が差し迫る中、各所で様々な2024年総決算が今まさに行われている真っ最中だ。そんな中、本稿では2020年代突入以降、破竹の勢いで人気を拡大している音楽ジャンル・VOCALOIDに関する今年のトピックスを振り返りたい。近年は文化を牽引するクリエイターの世代交代も進みつつあるが、2024年は一体どんな話題がシーンをにぎわせたのか。改めてこの1年を振り返ってみよう。
まず、直近過去数年間と今年のシーン動向を改めて比較すると、冒頭にも触れた通り2024年は特にカルチャーを牽引する新たな才能が台頭した年だったように思う。
昨年からのロングヒット作「人マニア」に続き、今年初頭の『ボカコレ冬2024』では原口沙輔が「イガク」で総合ランキング1位を獲得。詳細は後述するが、サツキ「メズマライザー」も国境を越えたバズを生み出し、YouTubeにて投稿からわずか1年以内で1億回再生達成というボカロ曲史上初の大記録を樹立。また文芸誌『ユリイカ』(青土社)にて、当誌初となる特定のボカロPをピック。いよわを特集した“いよわ号”が刊行されたことも、シーンにとって大きな一報だったに違いない。
さらに今年のメイントピックとして、“SNS・動画サイト等での二次創作推奨”が、バズの呼び水的手法のひとつとしてインターネットミュージックシーン全体で徐々に周知され始めた点も挙げたい。
元より「歌ってみた」「弾いてみた」などのカルチャー風潮もあり、特に近年は楽曲投稿時のオフボーカルデータやStemデータの無償配布が半ば当然の文化だったボカロシーン。だが、本来カルチャーとやや距離のあるSNS発楽曲においても、直近でバズを生み出している弌誠「モエチャッカファイア」やAKASAKI「Bunny Girl」などは、YouTube動画概要欄に二次創作用のデータ無償配布リンクが設置している。曲自体は正規の商業ルートで拡散しつつ、音源データの配布で幅広い二次創作の推奨環境を作る。そんな風潮はおそらく来年以降も、ボカロシーンのみならずインターネットミュージックシーン全土に広まる可能性を秘めていることだろう。
そんな新世代の台頭が目立った一方で、シーンレジェンドらのトピックも今年は随所で散見された。ともに長年シーンを牽引するピノキオピーとDECO*27は、それぞれ活動15周年の歌詞集と画集の刊行、2年ぶりのフルアルバム『TRANSFORM』をリリース。また米津玄師=ハチによる「ドーナツホール2024」のリブート投稿に、夭逝したwowakaの各種周年を記念する初歌詞集の刊行。
『カゲロウプロジェクト』シリーズのクリエイターが再集結したじんの楽曲「Summering」、アプリゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』4周年におけるkemu(堀江晶太)の新曲「熱風」の起用など、カルチャー全盛期のリスナーだった人々にとっても、喜ばしい報せが飛び交ったことも記憶に新しい。
新旧問わず大勢のボカロPが作り上げてきたVOCALOIDという日本の音楽文化。そのサウンドがいよいよ本格的に世界進出しつつあることも、今年を総括する上で絶対に外せないトピックだろう。その象徴となる出来事は、YouTubeにおける1億回再生突破曲の複数輩出。今年、Crusher-P「ECHO」、椎名もた「少女A」、きくお「愛して愛して愛して」、ゆこぴ「強風オールバック」、サツキ「メズマライザー」の5曲が、続けざまに1億回再生を突破したのだ。
中でも注目すべきは「少女A」、「メズマライザー」の爆発的なブレイクだ。上記ラインナップの中には、2023年6月時点ですでにYouTube内での再生数上位曲だった作品も複数ある。しかしこの2曲に関しては、完全なる選外からこの記録を成し遂げている。
「少女A」は、2023年9月時点の再生数自体は約2700万回。その後2024年7月に1億回再生を突破、12月25日時点で1億2000万回再生という点を鑑みると、いかに今年1年間、特に上半期の伸びが異常だったのかがわかるだろう。「メズマライザー」も2024年4月の投稿から1億回再生に至るまでの期間はたったの6カ月強。投稿1年以内にこの大台を突破した曲はボカロ史上本作のみであり、この最短記録はおそらく今後も容易に塗り替えられることはないだろう。