大森靖子、変化と不変が渦巻くステージの美しさ ピンク色のサイリウムがまばゆく照らした超歌手の現在地

MCで大森靖子は、音楽を通じて、あなたのどんなに汚らわしい感情でも歌うとファンに呼びかけた。そこからZOCの「CUTTING EDGE」へ。2021年に発表されたZOCの1stアルバムにして傑作『PvP』の収録曲にして、前述のMCにもつながる大森靖子のスタンスを表明している楽曲だ。大森靖子は、あなたの人生がどれだけ美しかったのか歌いたいと語り、「マジックミラー」が始まった。〈あたしの有名は / 君の孤独のためだけに光るよ〉という歌詞のとき、大森靖子はアコースティックギターを肩にかけ、アカペラで歌いあげた。そして、「死神」では静寂と奔流が交差していく。終盤で張替智広のドラムの強い音圧と大森靖子の絶唱が響くと、大森靖子はそのまま「音楽は魔法ではない」と歌いだした。「音楽を捨てよ、そして音楽へ」である。インディーズ時代の2013年の『魔法が使えないなら死にたい』の収録曲だ。この日のセットリストは、大森靖子の音楽の核が何も変わらないことを証明するかのようだった。

ファンの「靖子が一番かわいいよ!」というアンコールを受けて、「絶対彼女」が始まった。2013年の 『絶対少女』の収録曲であり、一筋縄ではいかないかわいさを歌ったこの楽曲も、歳月を経てなお高い耐久性を誇る。この楽曲では、「少女」「おっさん」などに呼びかけて、該当者に歌わせるパートがある。この日は、「お風呂入ってきた人」と「風呂キャン」にも歌わせており、「風呂キャン」の女性が奮闘する姿に胸打たれた。「おっさん」は、大森靖子に「声殺してけ!」と煽られていた。



「最幸♡きゅん」では、『THIS IS JAPANESE GIRL』に収録された複雑な音源をどう再現するのかと思っていたところ、まるでPファンクの生演奏に。かつ、大森靖子が「うんこ」を連呼する鬼気迫る場面もあった。「最後のTATTOO」はソウルナンバー。演奏の途中で、バンドメンバーに大森靖子の名前を呼ばせながら紹介していく趣向もあり、最後は大森靖子と宇城茉世が左右のお立ち台に立った。

ライブが終わり、エンディングのSEとして「オリオン座」が会場に流れると、バンドメンバーはステージを去っていった。流れる音源とともにファンが歌い、大森靖子がひとりひとりを見ていく。豊洲PITのキャパシティは約3000人。おそらくその全員に大森靖子は手を振ったのだろう。そして、オリオン座を指で描く。


「オリオン座」が終わると、大森靖子はマイクを通さずに肉声でファンに語りだした。私はPA卓の後ろで耳を澄ませた。以下は聞き取れた大意である。人が死ぬと星になると誰かが言っていました、でも私の心の中では美しい青空をみんなが見せてくれています、みんなが私の音楽を大事にしてくれるから、私は自分を大事にすることができています、私がボロボロになっても美しくなっていけるから、みんなも安心してボロボロになってください、安心して美しくなり続ける人生があると信じてください、あなたが大っ嫌いなあなたは私の音楽が美しく美しく歌っていきます、超歌手大森靖子でした、と。

すべての人生を受け入れて、それを歌にしていく。どんなに汚れた人生も。そうした姿勢が最初から変わっていないからこそ、今も大森靖子は2013年の楽曲群を歌える。それと同時に、最新作である『THIS IS JAPANESE GIRL』の新曲群がライブを通して新たな表情を見せていた。不変と変化が同時に内在し、渦を巻き、その中に大森靖子もファンも、そして私もあなたもいる。だからこそ大森靖子のライブを見続けてきたのだ。そう改めて痛感した夜だった。
大森靖子は“あなた”と一対一で向かい合う 声を枯らす絶唱がファンの熱狂を生んだ生誕祭ライブ
大森靖子の37回目の誕生日当日であり、ニューアルバム『THIS IS JAPANESE GIRL』が発売された2024年9月18…
大森靖子、すべての“名もない女の子”に届ける歌 10年変わらない音楽家としての姿勢を見た
大森靖子が、『大森靖子アルティメット自由字架ツアー 2024』のツアーファイナル公演をZepp Hanedaで開催。ファンと共に…