古代祐三「重要なのは変化し続けること」 当事者として語る、テクノの発展とシンクロしてきたゲーム音楽史

古代祐三、テクノの発展とゲーム音楽

 今年7月にシリーズ20周年を迎えた大人気アーケードドライブゲーム『湾岸MIDNIGHT MAXIMUM TUNE』の最新作『湾岸MIDNIGHT MAXIMUM TUNE 6RR PLUS』の楽曲を収録したオリジナルサウンドトラックが配信リリースされた。8月21日には前作『6RR』と本作『6RR PLUS』の楽曲を1枚にまとめた12曲入りのアルバムがCDおよび配信で発売。走り屋たちを盛り上げるさまざまな音楽ジャンルの楽曲が、このゲーム内には実装されている。

 “湾岸トランス”を彩るサウンドコンポーザーは、シリーズお馴染みの古代祐三。同氏はゲームミュージックのパイオニアであるだけでなく、もはやダンスミュージックの伝道師としてもシーンに多大なる影響を与えている。トランスと銘打たれているが、今作ではもはやそこに終始せず、さながら万華鏡のように多彩なダンスミュージックが鳴っている。

 『ベア・ナックル』で世界的な知名度を獲得して以降、古代の音楽観は広がり続けているところだ。本稿では、『湾岸MIDNIGHT MAXIMUM TUNE 6RR PLUS』のサントラを基軸に、同氏のこれまでの足跡を辿りながら「今」にフォーカスしている。(Yuki Kawasaki)

フューチャーファンクやニュージャックスウィングといったルーツの昇華

――本作『湾岸MIDNIGHT MAXIMUM TUNE 6RR PLUS』ならびに『6RR』の楽曲はどういったコンセプトで制作されたのでしょうか?

古代祐三(以下、古代):今作はこれまでと違うことをやろうっていうマインドで音楽を作っていましたね。『湾岸』シリーズは元々、トランスから始まっているんです。“トランス”と言っても、avexさんがやってた“Cyber TRANCE”っていう、日本の中でしか流通していないジャンルなんですけど、そのあたりがスタートになっています。よりメロディックなトランスというか。このシリーズ、ナンバリングとしては「6」までなんですが、その間にマイナーアップデートもあるので全部合わせると10作ぐらいはあるんですね。その中で音楽もマンネリ化してはいけないということで、私も音楽プロデューサーとして作品を経るごとにさまざまなチャレンジをしてきました。

 しかしゲームミュージックなので当初は音楽的な縛りも結構あったんですね。たとえばブレイク(リズムのないパート)を作れないとか。キックが鳴っていないパーツも入れたかったりするわけですが、以前まではそれが難しかった。状況が変わってきたのが「4」の頃でして、シリーズを担当するディレクターが変わったのが影響として大きかったんです。彼はロック畑の人なんですが、「音楽もっと自由にやっていいですよ」と言ってもらえて。そこからだんだん新しいことをやろうというマインドになって、「6」になるともう制作側からも「古代さんの自由にやってください」と言われるようになりました。

――『湾岸MIDNIGHT MAXIMUM TUNE 6』(2018年)のサウンドトラックを聴いたときは私もジャンルの広がり方に驚きました。「Avatar's Alert」では当時リバイバルしていたアシッドテクノ的なアプローチも見られて、古代さんのトレンドセッター的な一面を見たような気がします。『湾岸MIDNIGHT MAXIMUM TUNE 6RR PLUS』ではフューチャーファンクが印象的ですが、ジャンルに関して何か狙いがあったのでしょうか?

古代:シティポップやフューチャーファンクに関しては自分がその世代だということもあって、体に馴染んでいる音なんですね。実はフューチャーファンクという名前でこれらのジャンルが定義される前に、「Starry Night (feat. SAK.) (Future ver.)」なんかは作り終えてるんです。Night Tempoがブレイクする以前から韓国で日本のシティポップが流行っていると小耳に挟んでいたんですけど、自分もこの手の音楽がずっと好きで。NewJeansのメンバーが東京ドームで「青い珊瑚礁」(松田聖子)を歌ってましたが、これらの楽曲が海外で評価されて逆輸入的に日本のポップミュージックでも広く受け入れられている様子を興味深く見ていました。私もさまざまなジャンルの楽曲をこれまで作ってきましたが、たぶんずっとやりたかったのはシティポップとかフューチャーファンクだったんだと思います。これまでこういうジャンルは1曲も作ってこなかったんですけど、「Starry Night」は全く苦労せずに作れてしまったので(笑)。

――フューチャーファンクはどちらかといえばサンプリングマナーである一方、古代さんはバンドサウンドを重視されています。この点は大きな違いかと感じました。

古代:やはり自分のルーツが関係しているんでしょうね。ダンスミュージックはもちろん好きで、テクノやハウスを聴きまくっていた時期はあるんですが、それと同時に自分の音楽観を語る上で外せないのがニュージャックスウィングなんです。今まで意識してこなかったんですけど、父親の影響でジャズやファンクの音をかなり聴いて育ってきたんですよね。その影響がかなり強いんじゃないかと思います。

――具体的にはParliamentとか、ジョージ・クリントン周りですか?

古代:ジョージ・クリントンももちろんそうですが、特定のアーティストとして絶対的な参照元がいないんですよね。強いて言えばTower of Powerかなと思います。

テクノやヒップホップへの参照が評価された『ベア・ナックル』

――なるほど。「Midnight Symphony (feat. SAK.)」の大枠は80’sシンセポップだと感じましたが、時折鳴らされるギターのニュアンスはまさにファンキーですよね。

古代:この曲はThe Weekndの「Blinding Lights」と比較されることもあるんですけど、たぶんお互い80年代の空気感を下敷きにしているからだと思います。「Midnight Symphony (feat. SAK.)」のギターに関してはお約束というか、ネタ切れのときの退屈をかわすときの一手なんですよね(笑)。テクノみたいにずっと浸っていられる音楽ではないので、解釈を変えないとゲームミュージックとして成立しないんですよ。そのためのギターソロですが、でも確かにこういった節々にも自分のルーツというのは表れていると思います。

――特定のアーティストをリファレンスにすることはないとおっしゃいましたが、「Coming To You (feat. Jeff Washburn)」も同じですか? ベースラインはThe xxの「On Hold (Jamie xx  Remix)」を想起して、個人的に大変興奮しました。

古代:やはりこの曲も「これだ!」と言えるリファレンスがないんですよね。制作時に聴いていたのがMaroon 5の「Sugar」、エド・シーランの「Shape of You」、マーク・ロンソンの「Uptown Funk feat. Bruno Mars」、それからAviciiの「Wake Me Up」。主にメジャーどころですね、ベースラインに関してはどれでもないので、それこそクラブミュージックからの影響が大きいのだと思います。フューチャーファンクと同じように、馴染んできたものが自然に発露した結果というか。振り返ると昔から特定の音楽に依存したことがないかもしれないですね。あえて言えばシンフォニーだけで、クラシックに関しては自分でスコアを買って夢中で勉強しました。

――それで言うと、ダンスミュージックと古代さんの作家としてのイメージを紐づけらると窮屈に感じてしまうこともあるのでしょうか?

古代:いや、そんなことはないですね。たとえば『ベア・ナックル』はテクノやヒップホップからさまざまな要素を取り入れて、明確に海外の市場を目がけて音楽を作っていました。メガドライブを作っていた頃のセガにとって、アメリカとイギリスが海外のマーケットとしてすごく大きかったんです。そこで流通している音楽をやって、現地の人に評価されたいという思いがすごく強かったんです。だから『Diggin' in the Carts(「素晴らしいゲーム(ミュージック)を掘り探す(そして紹介する)」という主旨でRed Bullが企画した映像ドキュメント、並びにそれを発端とするイベントなど)』で自分たちがやってきたことを評価してもらえたのは本当に嬉しかったです。おそらく自分にとって重要なのは、「変化し続ける」ってことなんです。その意味では『ベア・ナックル』も『湾岸MIDNIGHT MAXIMUM TUNE』も結構近いところにあると思います。

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