古代祐三「重要なのは変化し続けること」 当事者として語る、テクノの発展とシンクロしてきたゲーム音楽史

古代祐三、テクノの発展とゲーム音楽

“制約”と向き合ってきたテクノとゲームミュージック

――それをお聞きできて安心しました。『ベア・ナックル』1作目のリリースが1991年なので、ケン・イシイの『Garden On The Palm』(1993年)や石野卓球の『DOVE LOVES DUB』(1995年)より世の中に出たのが早いんですよね。その点でも、古代さんは日本のダンスミュージックにおけるパイオニアのひとりだと思います。

古代:確かに当時は国内にクラブミュージックの実例が今ほど多くなかったかもしれません。Satoshi Tomiieさんはすでにご活躍されていましたが、そのとき聴いていたアーティストの多くは海外のプロデューサーの楽曲でしたね。

――しかも当時は『ベア・ナックル』だけでなく『F/A』(1992年)や『リッジレーサー』(1993年)など、テクノを主軸にさまざまなダンスミュージックが起用されたゲームが立て続けにリリースされていました。何がゲーム業界で起きていたのでしょう?

古代:おそらくサンプラーの存在が一番大きいと思うんですよね。サンプリングテクノロジーが界隈にも浸透してきたのと、ゲームにおけるテクノの使われ方はシンクロしているような気がします。当時のゲームミュージックコンポーザーは、どうにか制約から早く逃れようと考えていたような印象があります。メガドライブしかり、あの頃のハードウェアは今と比較すると使える音の数が圧倒的に少なかったので、制約がある中で音楽を作る必要がありました。そこで何を入れるかとなったら、まずビートで盛り上げようとするわけですよ。その結果、テクノなどのビートミュージックに辿り着いた。それに加えて、世代の影響もあると思います。YMO(Yellow Magic Orchestra)チルドレンが作り手側に回り始めたのもこの頃かもしれません。同時多発的にいろいろなことが起きていたと思います。

――今、私の頭に浮かんでいるのがテクノ黎明期に誕生したさまざまなアンセムなのですが、まさにデトロイトのレジェンドたちが試行錯誤していたのって、手元にある機材の機能をいかに最大化するか。つまり「制約」とどう向き合うかは、彼らにとっても重要な課題だったのではないかと思い至りました。

古代:実際テクノとゲームミュージックの発展の仕方は似ていたと思います。デトロイトの人たちもローランドのTR-909やTB-303なんかを「安いから買った」と言って、そこから曲を作っていましたもんね。私にとってデトロイトテクノは『ベア・ナックルII 死闘への鎮魂歌』(1993年)から一緒に同シリーズのサントラを作るようになる川島基宏さんの影響が大きいんですけど、彼は曲を作るにあたって質屋で303買ってきましたから。今じゃ考えられませんが、当時は3000円ぐらいで買えたみたいです。リズムマシンぐらいしか手元になかったデトロイトテクノのレジェンドと、メモリに制限があってできることに限りがあったゲームミュージックのコンポーザー。制約があったという点においては、やはり近いものを感じますね。

――そういったチャレンジの結果が『Diggin' in the Carts』を通して可視化されたわけですもんね。気づいたら世界中にファンがいた。

古代:でも実は『ベア・ナックル』が発表された頃って批判もあったんですよ。私は元々、日本ファルコムというゲーム会社で音楽を制作していたんですけど、その頃はオーセンティックな作品を作っていました。『ベア・ナックル』や『ザ・スーパー忍』(1989年)はそのあと独立してから制作したんですが、それまで自分を応援してくれていたファンの多くが離れてしまったらしいんですよね。とあるメディアにも「古代は終わった」という主旨のことを書かれました。やはりクラブミュージック自体がそんなに広がっていなかった時期であったがゆえに、なかなか理解されなかったんです。私はアーティストではないので特に意に介さずというか、新しいことをやっていくことのほうが大事だと思ったんです。

――むしろそう踏み切りたいアーティストは多いんじゃないですかね。アルバムの話に戻りますが、今作にも満を持してご自身のルーツに向き合った「Starry Night」などが収録されているように、“変わり続けること”は今もなお実践されているわけですよね。

古代:「Starry Night」に関してはバンドセットでやりたいんですよね。私の感覚だとシティポップは生バンドの音楽なので、ゆくゆくはそういった編成が実現できればと思っています。少し話が逸れるんですが、私の娘に当時のシティポップをいくつか薦めたらすっかりハマってしまって。松田聖子の曲とかめちゃくちゃ聴いてるんですよ。「どのへんが好きなの?」と聞いたら「間奏」と言うんです。つまりバックバンドに惹かれてるようなんですね。そういう良さが『湾岸』を通じて伝わるんじゃないかっていう期待も持っています。

――『Diggin' in the Carts』で大いに喰らった身として、『湾岸MIDNIGHT MAXIMUM TUNE』から同じインパクトを受ける人がたくさん生まれてほしいと思います。

古代:私も今は自分から何か動かなきゃっていう心境になっています。最近筋トレを頑張っていて、ジムにも足繁く通っているんですけど、常に若い目線を持っていたいですよね。今度12月1日に札幌でDJのイベントに出るんですけど(取材は開催前)、未成年も入場OKのデイパーティなんです。若い世代の反応を見たいっていうのもあって、すごく楽しみにしてるんですよ。そういったアプローチは自分から積極的に行っていきたいと思っています。

『湾岸ミッドナイトMAXIMUM TUNE 6RR & 6RR PLUS Original Sound Track』

◾️リリース情報
古代祐三
『湾岸ミッドナイトMAXIMUM TUNE 6RR & 6RR PLUS Original Sound Track』
発売中/CD価格:¥2,750(税込)
配信:https://lnk.to/wangan6RRand6RRplus
購入:https://lnk.to/wangan6RRand6RRplus_CD
<トラックリスト>
01.Entry Maxi6RR
02.Midnight Wave
03.Coming To You
04.Happy Moment
05.Starry Night (Future ver.)
06.Entry Maxi6RR PLUS
07.Everynight, Everyday
08.Moonlight Love
09.Midnight Symphony
10.Maximum Overdrive
11.Starry Night [Future ver. - Japanese lyrics]*
12.Starry Night

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる