KERENMI=蔦谷好位置、次世代から受ける刺激とコラボに込められた願い 「昔の自分みたいな思いをさせたくない」

KERENMI、次世代とコラボ重ねる背景

規範を破らなければ音楽的な爆発は起きない

ーーいずれも今のシーンを代表する気鋭のアーティストですよね。前作『1』に参加した藤原聡さん (Official髭男dism)、大森元貴さん(Mrs. GREEN APPLE)と同じく、この先、日本のポップミュージックを背負っていく人たちばかりだなと。

蔦谷:聡くん、元貴くんは(2020年の段階で)すでにすごかったけど、ブレイク前夜という感じでしたからね。

ーー『1』と『interchange』のフィーチャリング・アーティストを比べると、自ずとシーンの移り変わりが見えてくるのかなと。では、収録曲について聞かせてください。1曲目の「interchange」は、街の喧騒の音、ストリングスからはじまる1分18秒の楽曲。“シンパシー”“エンパシー”“希望”“絶望”などの言葉をいろいろな人がしゃべり、後半のドラムを石若駿さんが叩くという構成ですが、この曲には“モーダルインターチェンジ”という手法が使われているとか。アルバムのタイトルにも関わっている言葉だそうですが、モーダルインターチェンジの音楽的な効果とはどういうものなんでしょうか?

蔦谷:すごく簡単に説明すると、長調の曲のなかでいきなり短調に変化させたりする手法ですね。聴いてるとハッとするし、エモいと思う瞬間を作れるというか。たとえば、(とサザンオールスターズ「TSUNAMI」のサビのコード進行を鍵盤で弾く)ここにもモーダルインターチェンジが使われているんです。同主調転調(キーの主音をキープしたまま一時的に別のスケールに切り替えること)とも言いますが、僕はかなり多くの曲でこれを使っています。シンプルなものから複雑なものまでやり方はいろいろあるんですが、J-POP的なエモの要素を感じているんですよね。

ーーなるほど。2曲目の「join my band feat. Skaai」には、ラッパーのSkaaiをフィーチャー。以前から交流はあったんですか?

蔦谷:テレビの番組(『MUSIC FUN! IVY』)にゲストで来てもらったことがありました。ラップも歌も素晴らしいし、どんどん上手くなっていて。今回のアルバムでは、ラップの曲を絶対にやりたいと思っていて、クボタカイくん、Mori Calliopeさんもラップをやってくれてるけど、全編ガッツリとラップしているのは「join my band」だけかな。彼が新しく始めたバンド(TRIPPY HOUSING)もめちゃくちゃカッコいいんですよ。

ーー制作のなかでdrillというカルチャーの文化的盗用についてのディスカッションもあったそうですね。

蔦谷:Skaaiはヒップホップの現場にいるし、drillを本気でやっている人がいるなかで、生半可な気持ちでは突っ込めないぞという気持ちが強いんだと思います。ただ自分としては、規範を破ったり、ときには間違った解釈や使い方をしないと、カルチャーの外に流出したり、音楽的な爆発は起きないと考えていて。新しいものが生まれる瞬間は常にそうだったと思うんですよ。たとえばマイルス・デイヴィスが電化して、ジョン・マクラフリンが参加した『On The Corner』あたりを作ったときもそう。もともとはジミヘン(ジミ・ヘンドリックス)にオファーをしたらしいんですが、マイルスがロックに出会わなければああいう音楽は生まれなかったので。『On The Corner』はジャズ側の人間には「ジャズじゃない」と言われて、ロック側からは「ロックじゃない」と言われたわけですけど、間違いなく独自の解釈があったはずだし、無理矢理にでも推し進めるくらいのパワーがないと新しい表現にはたどり着けない。なので「join my band」では絶対にdrillをやりたかったんですよね。「この曲で新しいジャンルを作る」みたいな大袈裟なことではなくて、この組み合わせ、面白くない? という感じでした。

ーー「border line feat. 梓川」における梓川さんのボーカルも凄まじいですね。この曲で梓川さんと出会うリスナーがいるかと思うと、ワクワクします。

蔦谷:すごいですよね。彼は小さい頃からピアノの英才教育を受けていて、絶対音階があって。今までに何百人と歌を録ってきましたけど、いちばんハーモニーが上手かったですね。それこそこの曲にもモーダルインターチェンジを使っていて、かなり複雑に転調してるのでハモがめちゃくちゃ難しいんですけど、梓川はその場で音程を確認して、「わかりました」って一発で当てていくんです。リズム感も素晴らしいですね。彼はサッカーでプロを目指していたくらい上手かったらしいんですけど、身体能力の高さが歌のグルーヴに出てるんですよ。スクエアに歌うだけではなく、「どれくらい後ろに持っていくと気持ちいいか」みたいなこともわかっていて。たぶん「この曲はこう歌えばこうなる」というラインが見えてるんでしょうね。

ーー「border line」にはCANNABISの楽曲の要素も反映されているとか。

蔦谷:もとになっているコード進行とBメロのメロディが「妄想R」(CANNABIS)という曲とほぼ一緒なんですよ。セルフサンプリングというか、手癖みたいなものもありますからね。たとえば「おぼろ」の最後のドラムのカットアップのやり方とかは、たぶん1998年くらいからやっていて。その頃に流行っていたビッグビートだったり、その後のドラムンベースの感じもあったと思うんですが、「おぼろ」ではそれを今風にして使っているというか。

ーードラムンベースも数年前にリバイバルされましたからね。

蔦谷:そうですよね。NewJeansなども2000年代初頭ぐらいの感じのサウンドを踏襲していて。m-floのTakuさん(☆Taku Takahashi)がK-POP界隈でレジェンドになっているのもそうだけど、いろんなリバイバルがあるなって実感してます。僕の青春時代は90年代なんですけど、同時にヒップホップやドラムンベースのルーツは70年代のソウルやファンク。そう考えると、大体20年周期くらいなのかもしれないですね。

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