日食なつこ、盛岡を舞台に繰り広げた15年の音楽家としての姿 『エリア不変』3DAYS完全レポート

日食なつこ『エリア不変』完全レポ

 『宇宙友泳』なるキーワードを掲げ、5つの大きな企画と共に活動15周年のアニバーサリーを駆け抜けている日食なつこ。その1つが、盛岡3DAYS『エリア不変』。岩手県のライブハウス・クラブチェンジが盛岡市内で展開する3つのライブハウスをジャックし、日食なつこが日替わりで好き放題にライブをするという企画だ。昨年、20周年のアニバーサリーを迎えたクラブチェンジは1店舗目のオープン当初こそジャンルも偏り日食曰く「タバコ臭いライブハウス」であったが今や、ヤニ臭もなければオールジャンルのアーティストが訪れる。“ツアーバンドが来てくれない”かつての岩手・盛岡はすっかり様変わり、連日のように音が鳴り響く街となった。

 そんなクラブチェンジの1店舗目・名前もまさにClub Changeというライブハウスで「なつこ」のアーティスト名からスタートした日食なつこの歴史。かの宮沢賢治と同じイーハトーブに生まれ育ち、盛岡行きの電車もおよそ30分に1本しかなければ終電が22時台という花巻から、キーボードを背負ってやって来て制服姿で音を鳴らしていたあの当時を思うとしみじみ感慨深い。

 では、“日食なつこの好き放題”な3日間をみていこう。

【DAY1/the five morioka】

 定刻から約5分を過ぎ、日食なつこがステージに登場するや万雷の拍手。ソールドアウトでスタンディングのお客様に180度囲まれるかのような形で、YAMAHA・CP4 STAGEの鍵盤を前に「おばんです(=こんばんは)!」の挨拶から。

 「初日にして一番ヤバいライブ、マジでどうして良いかわかんない」…この日は来場者が入場時に投函したリクエストをくじ引きのように日食自身がステージ上で引いて演奏する曲が決まっていく、すなわちセットリストはない。客席からの「がんばれー!」の声も拾いながら「皆の聴きたい気持ちに時間いっぱい応えていきます、腹を決めていきます」と宣言するや、フロアからは「ドゥルルルル~」と声で鳴らすドラムロール。スタートから盛り上がりが高まる中で引き当てた1曲目は「やりやすい!」と笑みをみせての「水流のロック」、鍵盤1つで歌う姿と音は新鮮。続いて「ヤベーのが来たぞ、4番バッターを前にしたピッチャーの気持ち」と「ローカルミーハーのうた」。ヒールを脱ぎ捨て裸足で演奏を繰り広げる姿は今や珍しい。

 この日は本当に出たとこ勝負で、「開拓者」が来たと思ったら「赤いサイレンが廻る夜」。「ライブは皆が知っている曲で(セトリを)組んでしまう」と言う通り、通常のライブではこんな曲順にならないだろう。ちなみに「赤いサイレンが廻る夜」は楽曲を作り始めた1年目、遅番の仕事が多い父の帰宅を部屋の電気を消して待っているとすりガラス越しに救急車などのサイレンが綺麗に見えた……という思い出を語っていた。

 初っ端で「生まれ育った」と言っていた通りに、地元エピソードを多めに聞くことが出来たのも貴重ではなかったか。「深夜潜水」はClub Changeでのライブ後、打ち上げにも参加できるようになった年齢になって終電を逃し、盛岡の大通り付近をあてもなく歩いて生まれた曲だと語る。本人に尋ねたところ、書き上げた場所は大通りにあるファミレスだそう。歩いてみれば誰しもが分かるこの場所も、日食の聖地の1つに加えよう。

 そして今や日食なつこを代表する曲のひとつ「開拓者」。花巻に住みながら色々な音楽コンテストに応募していた高校3年生の時に書いたこの曲は、結果とあるコンテストで東北ブロック2位に甘んじ「歌詞をもう少し頑張りましょう」といった総評をもらったそうだ。「あの頃、開いていなかった道を(今になって)開いた」と語り、我々も各々の仕事や立ち位置であったり、評価が低かろうがどんな境遇にいようが「センスねーな! って言っておけばいい!」と、力を込めて我々に言ってくれた日食なつこ。生き続けていくための強さをもらったような、そんな瞬間。会場にいる1人1人全員の目が、キラキラ輝きを増す。

 この日のセットリスト及び「リクエストのランキングが見たい」という客席からの声を受け止め直後に公開されたランキングを見ると、あぁこれも聴きたかったと思う曲がずらり。このスタイルでのライブ続編、是非に希望する。さていよいよラストソングは、2012年に岩手県のテレビ局を通して放送される高校野球中継のテーマソングにもなった「ビッグバード」。奇しくも岩手にゆかりある楽曲がラストを飾り、終わってみれば約1時間半。「今日はライブでなくラジオみたい」と形容したDAY1は最後、翌日のDAY2に向けて「ガチ聖地巡礼」と言った上で愛を持って「明日は、ボロいステージで、ボロい記憶を持ったClub Changeで!」と締めくくる。「最初の日としては最高の1日をありがとう、本当に疲れました」の言葉は嘘偽りない本音だろう、こうしてDAY1は幕を閉じた。

 実に実に濃密なライブ終了後、楽屋に行ってわたしは思い出したのだ。日食なつこに感動しインタビューをしたのがまさにこの楽屋であったこと、その時、DAY3に登場するドラマー・komakiが「日食なつこ、覚醒しましたよね!」と口を挟んできたことを……それは2015年にリリースした1stアルバム『逆光で見えない』ツアーファイナルをクラブチェンジ3店舗で一番新しいこの場所・the five moriokaで迎えた時。日食なつこはあの頃に覚醒してから歩みがどんどん大きくなって今、ここに至った。

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