日食なつこ、盛岡を舞台に繰り広げた15年の音楽家としての姿 『エリア不変』3DAYS完全レポート

日食なつこ『エリア不変』完全レポ

【DAY2/Club Change】

 およそ20年前の盛岡にはいわゆるライブハウスと呼ばれる場所もなく、見よう見真似でオーナー自ら建設に加わったClub Change。客席が広くなるようにという考えも交えた結果ステージ間取りは三角形、「台所にある三角コーナーのようなステージ」と某アーティストが表していたのが言い得て想像もしやすくなるだろうか。DAY2は「日食なつこの活動最初期に出逢い、多大な影響を与えられ続けた先輩2組」を迎えたスリーマンライブ。ゆえに1つの体に3つの頭を持つという“ハイドラ”を冠す。

 1番手は青森県八戸市出身のシンガーソングライター・松村勇貴。「なつこちゃん」と呼んで日食の活動15周年を祝ってから、「このライブハウスで、しのぎを削ってきました」。彼が企画していたライブイベントにも参加してもらっていた当時を振り返り「すごいのが現れた。悔しくも、誇らしいと思った」と当時のことを話しつつ、アコースティックギター1本で弾き語る彼の歌声に乗って、日食たちがこの場所に立ち始めた時の記憶が運ばれてくる。なお3DAYSでこの日のみ行われた配信を含めライブをご覧になった方へ報告としては、彼の奥様が配信でライブを見ていたそう。つまり500円がもらえた……のでは!?

 続いて登場したのは2人組のロックンロールアコースティックユニット・モノクロフィルム。「日食、15周年おめでとう!」と、のっけから2人揃ってアグレッシブにギターをかき鳴らす。「今日ここに俺らを呼んでくれたのは、(その当時の)日食に、俺らを刻めていたからなのかな。今日はその当時の俺らを超えないと、日食ががっかりするから」……そう言って、放った音の熱量はこれまで彼らを見てきた中で間違いなくナンバーワンだった。ちなみに日食と初めて対バンをしたのは2009年8月とのことで、まさに日食なつこ15周年の最初期にあたる。

 先輩たちのバトンを受け取り現れた日食なつこ。「このステージが、人生で初ライブをしたところ」と言うや客席から「えー!」の大きな声。今やホールクラスのライブを行う日食、場所のサイズ感に驚きの声が上がるのも当然だろう。デビュー戦は2009年1月に開催された『Teenage Trick』なる高校生が出演できるイベントだったと語る。

 「皆のためより、自分のためにやる」と言い、「活動1~3年目の曲をこの場所で再現する」というDAY2は「レッドデータクリーチャー」で始まり、DAY1でも披露があった「赤いサイレンが廻る夜」や「深夜潜水」も。前日に話していたエピソードを反芻しながら聴き入る。初期曲の演奏が続き「アップテンポという概念を知らないんじゃないか」との一言もある中で「跳躍」を耳にした時、日食なつこという才能に出会ったあの時を思い出した。〈一進一退いつもいつでも こんな場所で風を待ってるんだ 今こそ人混みの中へ飛込む さあ あんたよ見ていて〉……この場所で築き始めた自身の決意、こうして歌にしていたのだよな。

 そんなDAY2ハイライトは先だっての未発表曲ツアーで披露した曲とはまた違った未発表2曲の演奏。先輩2組にまつわる曲で「遮断機グロウ」の歌詞には“銀河鉄道”のワードが入り(松村が1曲目で披露した曲は、青森からやって来る時に松村が乗る「いわて銀河鉄道線」がモチーフと語っていた)、「Burn the willow」はモノクロフィルムのメンバーに“ヤナギ”がいるからか(willow=柳)。この先も眠り続けていたかもしれない2曲を聴きながら、この場所で先輩たちと培ってきた出来事や先輩に対し抱いている日食の思いは、見る側の想像をはるかに超えたものであったと知る。

 駆け抜けるように9曲を演奏してきて「今日は皆さん、私の古巣に来てくれてありがとう。当時のClub Changeはタバコ臭くて、(ライブ出演時に着ていた)制服がタバコ臭くなるほどだったけど、数年ぶりのClub Changeは非常に空気が綺麗」。時代や時の流れで変わっていくものもあるけど、かつての大切で変わらないものも、ステージを通して見せてもらったDAY2。ラストに選んだのはベストアルバム『Anniversary BEST-Fly-by2024-』最後に収録の新曲「0821_a」で、お客さんの大合唱も美しい。「あまりにも最高すぎる! また会いましょう、さよなら!」そう言って笑顔でステージを去ると、明るくなったフロアには目元を拭う方が何人か。そういえばクラブ“チェンジ”を舞台に開催するにもかかわらず『エリア不変』のタイトルをつけた盛岡3DAYSに対し、日食はこんなコメントを寄せていたっけ。「変わらないために変わり続けよう、あの場所にそう教えられたように。」直接的な言葉などなくとも、ライブを通して感じられたからこその涙では、と思った。

 ライブが終わり撤収も完了すると、まるであの当時のあの日のように出演者が全員揃って事務所にやって来てご挨拶。ビル3階のClub Changeを降りて地上に出ても、ギターケースを背負うメンバーもいながら談笑し立ち話を続ける3組。その光景もまるでまるであの時のまんまで、クラブチェンジのオーナーも目を細めながら見届け会場を後にした。追伸としてDAY2にお越しの皆様、Club Changeの看板やドリンクチケットにウサギの絵が描かれていたことにお気づきだろうか? そういえばDAY1について日食は、ラテン語で野ウサギを意味する“レプス”と称し、こう記していた。「ウサギの眼光が瞬く変光星Rのもとに。」と。

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