GRAPEVINEの貫禄とbetcover!!の野心が交差した対バンライブ 世代を超えた熱狂的な夜に
9月12日、GRAPEVINEが『MAGNIFIK GRAPEVINE×betcover!!』を東京・EX THEATER ROPPONGIで行った。8月末から『GRAPEVINE The Decade Show : Club Circuit 2024』で全国を回っている中でのスペシャルなダブルヘッドライナーである。これと同タイトルで5月にSuchmosのYONCEが率いるHedigan'sと恵比寿ザ・ガーデンホールと共演したが、GRAPEVINEと旬な後輩たちとのシリーズになったようだ。
betcover!!は柳瀬二郎のソロプロジェクトとしてスタートし、現在は5人編成のバンドで活動しているが、ライブを観るたびに編成が変わったりアレンジがまるで違っていたりと目が離せない。定番SE、金井克子の「他人の関係」が流れる中、登場した金髪でスーツ姿の柳瀬とメンバーはこの日もその期待を裏切らないライブをやってくれた。まずは最新作『馬』から「翔け夜の匂い草」「バーチャルセックス」をアグレッシブな演奏で畳み掛ける。柳瀬のボーカルは怒りとエロスが錯綜するような独特な響きがあり、ジャズ的なフリーフォームも混じる展開の激しい演奏と相まって一気にオーディエンスを惹きつけた。
その後も日高理樹がギターを弾きまくる「狐」「鉄に生まれたら」、メンバー紹介を挟んで「母船」、ダンサブルだがサンバではない「イカと蛸のサンバ」と間髪入れず曲を続ける。そして白瀬元のピアノでしっとり歌う「不滅の国」、そのピアノとギターがテンションを上げる「火祭りの踊り」、シャンソン風に情感を込めて歌った「炎天の日」「あいどる」と近作からの人気曲を演奏。終盤は歌に力が入った「メキシカンパパ」、高砂祐大のドラムと吉田隼人のベースが曲を引き締めた「フラメンコ」、「鏡」と続き、柳瀬の歌も一段と表情豊かに響いた。betcover!!の独特な楽曲と演奏は、彼の歌のためにある。
存分に温まったフロアに登場したGRAPEVINE。田中和将(Vo/Gt)は超ご機嫌で、ステージに現れるなり「こんばんは、ギロッポン!」とオーディエンスに呼びかけ「ヒューヒュー」と自分を煽る。そんな気分のままに始まった「Alright」は軽快で、高野勲のテルミンと西川弘剛(Gt)のギターがカラフルに曲を彩った。田中が指で目を囲う凶眼のサインをすると歓声が起こり「行くぞ! ギロッポン!」と亀井亨(Dr)のドラムが跳ねて「EVIL EYE」へ。9月25日リリースの『Almost There Tour extra show at Zepp DiverCity 2024.03.28』からのライブ映像が、つい先日公開された曲だ。
「改めてGRAPEVINEです。betcover!!ありがとう。最高にかっこよかったです」とMCを始めた田中が「今日はしょうもないこと言いませんよ、なにせギロッポンやから、ちょっと洒落た感じでいかせてもらおうと思ってます」と続けると、高野がシンセで「HESO」のイントロを鳴らした。田中がグルーヴィに歌いながら西川とギターを合わせる。久々にライブで聴くこの曲で、田中が全力でシャウトする〈地に堕ちたポリティシャン〉とか〈押しちゃ駄目なスイッチに/手を掛けそう〉といった歌詞が昨今のニュースと重なるが、つまらない深読みはやめておこう。「HESO」と同じく『BABEL, BABEL』からの「Scarlet A」は田中がアコギで歌い、西川はボトルネックで幻想的なギターを鳴らした。ホーソーンの『緋文字』をモチーフにした曲から「アマテラス」へという流れは、なかなかに面白い。高野がシンセベースで超低音を響かせ、亀井がドラムを重ねるストイックな演奏に乗る歌はライブらしい緊張感を生み出した。楽器それぞれが自由に動き回るような演奏はbetcover!!といい勝負だ。
リリース当時は「ライブですごい緊張する」と言っていた「雀の子」も1年以上演奏してきただけに、ライブに馴染んで安定感が生まれている。それでもこの曲の不思議なテンションは変わらない。途中で田中が「おんどれ!」と叫んだのは歌に出てくるおっさんの気持ちなのか、それとも〈そこのけ〉への反発だったのか。ライブで曲が変容する面白さを田中も楽しんでいるのだろう。
「今の曲が10億回再生の『雀の子』という曲でした。10億1回目、誰か再生してください。なんの話や」という田中らしいジョークに拍手が起きる。「なんの話や」と自分で突っ込むMCはギロッポンらしいのかどうか不明だが、イントロに乗せて「アモーレたちよ、電話なんかやめてさ 六本木で会おうよ」と岡村靖幸「カルアミルク」の歌詞をつぶやいたのは、「実はもう熟れ」の80’sディスコ風サウンドと相まってギロッポンらしいと言えようか。