キタニタツヤがアニメタイアップで描いてきた“物語”との共鳴 「ファタール」で再注目される魅力

 そして、キタニタツヤの“共鳴点”を見つけるソングライティングの真骨頂が発揮されたのが、今回、新たな試みとして結成されたGEMNの「ファタール」だ。

 『【推しの子】』はアニメ自体はもちろん、OP主題歌を担当したYOASOBIの「アイドル」が世界的な大ヒットを記録するなど、各方面で話題をさらった。そんな1期を経ての2期となるとプレッシャーは計り知れなかったはずだ。

 『【推しの子】』の2期では、主に2.5次元の舞台を扱った「東京ブレイド」編が描かれている。人気マンガの舞台化に際する原作者と脚本家の認識違いや、舞台上で役を演じる登場人物たちの葛藤など、第1期とは異なる角度から芸能界のリアルを追求していく。

 「ファタール」では、これまで描かれた『【推しの子】』の煌びやかで非日常的な世界を、聴いている人々にとって現実の世界に落とし込むだけの“共鳴点”が多く込められていた。

ファタール / GEMN - Fatal / GEMN

 歌詞のなかでことさらに強調される〈欠落〉と〈欲〉。キタニはもともとアイドルの第一線で活躍している中島とともに、クリエイターや表現者が抱える歪な欲求を、登場人物たちに重ね合わせている。

 欠落を埋めようと、愛や憧れを渇望する。そして、渇望すればするほど、欠落は顕著になる。それでも堂々巡りの愛を求めて、なおも信望する相手に認められたいと願わずにはいられない。

 『【推しの子】』のキャラクターだけでなく、もしかしたらGEMNのふたりも奥底に抱えているのかもしれない底なしの愛を求める心は、「ファタール」を聴く人の内側にも確かに存在しているものだ。

 〈あなたがいないと生きていけない〉と懇願しながらも〈あなたの愛がまだ足らない〉と渇きを訴える姿は、まさに人間が無自覚に抱く欲求の両面性を表している。だからこそ、音楽と作品、そして表現に関わるすべての人々に「ファタール」は共鳴して、暴きだした欲求を人から人へと伝播させていく力があった。

 中島と結成したGEMNとしての活動は、キタニが築いてきたタイアップの実力を確かなものにしつつ、さらに幅広い層へとアクセスできる可能性を秘めている。アニメ『【推しの子】』を観ている人たちには、ストーリーのゆくえとともに、キタニがアーティストとして飛躍していく姿を見届けてほしい。

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