キタニタツヤがアニメタイアップで描いてきた“物語”との共鳴 「ファタール」で再注目される魅力
これまで数多くのタイアップソングを手がけてきたキタニタツヤ。その勢いは衰えを知らず、中島健人と新たに結成したユニット GEMNの新曲「ファタール」は、2024年7月から放送開始されたアニメ『【推しの子】』(TOKYO MXほか)2期のOP主題歌に抜擢された。
そもそも彼のソングライティングの歴史を振り返ると、キタニの名が知れ渡るタイミングには、必ずアニメタイアップでの目覚ましいヒットがあった。2021年7月に放送されたアニメ『平穏世代の韋駄天達』(フジテレビ系)のOPテーマに「聖者の行進」が選ばれたことを皮切りに、キタニのタイアップは加速していく。このほかにも「Rapport」や「タナトフォビア」を生誕20周年記念原画展に楽曲提供していた『BLEACH』には、満を持してアニメ『BLEACH 千年血戦編』(テレビ東京系)のOPテーマとなる「スカー」を書き下ろしている。キタニのアニメタイアップ曲はダークな雰囲気をまとった曲だけでなく、王道のギターロックでバトルシーンを彩るなど、アニメの世界観に合わせてサウンドを変化させつつ、歌詞に関しては、物語と自身の“共鳴点”を反映させてきた。
そんな、キタニタツヤの名を多くの人に轟かせるきっかけとなったのが、2023年に放送されたアニメ『呪術廻戦』(MBS/TBS系)第2期「懐玉・玉折」のOPテーマ「青のすみか」だ。
『呪術廻戦』はアニメ放送当時も『週刊少年ジャンプ』で連載中の大人気漫画であったが、2020年から開始されたアニメがその人気を一段階上げたといえるだろう。そんなアニメのなかでキタニが主題歌を担当した、本編のストーリーを大きく左右する事件が描かれる「懐玉・玉折」編では、最強の呪術師として名を馳せることになる五条悟が、かつては友として並んで歩いていたはずの夏油傑と決別した理由が明かされる。
作中でも屈指の人気エピソードに添えられた「青のすみか」は、そんな二人の青春時代と過去の関係性を浮かびあがらせつつ、五条が抱く後悔の念を瑞々しい思い出とともに回想する歌詞が印象的だ。〈四つ並ぶ眼の前を遮るものは何もない〉と不遜に思っていた青き時代。それでも〈どんな祈りも言葉も/近づけるのに、届かなかった〉と嘆く歌詞は、最強の呪術師として恐れられるほどの力がありながら、闇へと堕ちていく親友を救えなかった五条悟の紙一重の現実を写しとっている。
まさに五条悟の人生を象徴する「青のすみか」がアニメファンや原作ファンのみならず、多くの人々の支持を獲得した理由のひとつに、作品との距離を保ちながらも、誰もが一度は頭を通り過ぎる“過去への未練”に共鳴する歌詞があった。
もうあの頃に戻れないことは承知の上で、綺麗に彩られた記憶にあてられると、未熟さゆえの青さもひっくるめて、過去を抱きしめたくなる瞬間は誰しもあるはずだ。後悔の色が混じっていたとしても、ある種の憧憬として過去を描いている「青のすみか」は、五条悟だけでなく、聴き手にとっても儚い思い出を想起させる楽曲になった。