Mrs. GREEN APPLEは前人未到の次元へ 華やかな絶景が次々に生まれた初のスタジアムツアー
「ANTENNA」の超絶タッピングに臨んでいる最中の若井には、リリース当時の1年前とは違い、どこか余裕が漂っている。「ANTENNA」以外でも難易度の高いフレーズを弾く際、手元に目線を落としつつも口角は上がっていて、彼は今、ギターを鳴らすこと自体が楽しくてしょうがないのだろうと思わせられた。藤澤は、弧状のブース内にセッティングされた3台の鍵盤を駆使しつつ、様々なアプローチで楽曲を彩っている。特に「ナハトムジーク」では、藤澤らしく、魂のこもった演奏を聴かせてくれた。大森のボーカルもノリにノッていて、メロディのアレンジも多い。「Blizzard」サビのファルセットがまた進化していて、これだけ歌える人なのに、まだ伸びしろがあるのかと震えた。
老若男女の心に届くポップミュージックを当初から志向していた彼らが、目指していたポイントに到達できたのが2023年だったとすれば、今は「いよいよここからだ」とワクワクしている状況なのだろう。ドラムのフレーズに乗ってリズミカルに歌い始めた「コロンブス」の、〈未だ知り得ない/素晴らしい絶景に/やっと辿り着いた様な〉というフレーズにそう思わせられる。大森、若井、ショルダーキーボードに持ち替えた藤澤が、揃って前に出てきた時の絵面は相当華やかだ。ソウルフルなスキャットからボイスパーカッション(!)まで披露する大森は、ビジョンの映像エフェクトに合わせて変顔をしては豪快に笑っている。これだけ大きなステージでも無邪気に遊べるのが、数年前との違いだろう。
アンコールでは若井と藤澤がトロッコに乗り、観客の近くまで来るサプライズがあったが、メンバー同士離れていても、姿さえ見えていなくても、バンドだから鳴らせば合うという域に達しているのが頼もしかった。メディア出演含め、個々の活躍の場が増えつつある中で、それぞれに自立し、だからこそ任せるべきところは任せられるという信頼関係が、バンドをより自由にさせているのではないだろうか。そんな3人の絆を感じさせるアンコールが、人と人との繋がりを歌った新曲「familie」から始まるのもグッとくる。
最後のMCでは、観客へ感謝を伝えた。藤澤は「僕は今日のことを一生忘れないと思うんだけど、みんなはどうかな?」と尋ねつつ、「すごく素敵な時間を過ごせました。みんなのおかげです。本当にありがとう!」と笑顔。若井は、喋り始めると同時に大森がギターを弾き始め、サポートメンバーもそこに乗っかったことから、今の気持ちを即興で歌う羽目に。突発的にしては驚くほど柔軟に対応し、本人も「伝えたかったことは全部歌にできたので……(笑)」と満足気だった。大森は、「楽しかったです、僕も。また会いましょうね」と観客に小指を差し出す。そして「今後何があっても、応援してくれる人、肩を組んでくれる人に精一杯愛と感謝を返したいです。いろいろなことがある日々でも、こんな日があると頑張れるね。みんなの活力の一部に、僕たちがなれていたら嬉しいな、本望だなと思います」と語った。
そうして幕を閉じた『ゼンジン未到とヴェルトラウム~銘銘編~』。しかし、先に引用した「コロンブス」の〈未だ知り得ない/素晴らしい絶景に/やっと辿り着いた様な〉という歌詞に〈ほら また舟は進むんだ〉という続きがあるように、彼らはすでに先を見ている。現に、映画『Mrs. GREEN APPLE // The White Lounge ㏌ CINEMA』の公開や定期公演『Mrs. GREEN APPLE on “Harmony”』の開催など、秋も予定が盛りだくさんだ。Mrs. GREEN APPLEの航路は、まだまだ未知の世界へと繋がっていくことだろう。
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