TETORA 上野羽有音、サブスクを解禁しない理由 “名盤”を目指して『13ヶ月』が完成するまで
なぜ『13ヶ月』なのか MV限定公開の意図も明かす
――「コンセプトアルバムを作ろう」というスタートから、「“月”をコンセプトに12曲作ろう」「アルバムのタイトルは『13ヶ月』にしよう」というアイデアを思いつくまで、どのように考えていったのでしょうか?
上野:月って嫌でも思い出ありません? 「みんなが全曲聴きたくなるようなアルバムにしたい」という気持ちがとにかく強かったので、「その人にとって特別になるような、聴きたくなるようなアルバムってどんなものだろう?」というところからアルバムのコンセプトを考えていきました。
――なるほど。確かに、時間は誰にでも平等に訪れますからね。
上野:私が「あー、1年が過ぎたな」と思うのは、その年の12月じゃなくて次の年の1月で。でもその時の1月は、振り出しに戻った1月じゃなくて、12ヶ月間で感覚も考え方も変わった上での新しい月だから“13ヶ月目”という感覚なんですよね。『13ヶ月』というアルバムタイトルはそこから。このアルバムの1曲目から12曲目まで聴いて、また1曲目から聴き始めた時に、最初と同じ1曲目じゃなくて、また違う感覚で聴いてもらえたらいいなと思ってます。
――収録曲の中で最初に公開されたのは「12月」。リリース前の新曲としてライブで披露されたほか、YouTubeでMVも公開されました。YouTubeでの公開は2023年12月限定だったので、今は非公開になっています。
上野:「12月」だから12月だけしか聴けません、という形でしたね。限定って楽しいなと思ってやってみました。サブスクもYouTubeも、こっちが「はい、やめます」と言ったらすぐに消せるじゃないですか。だからずっとあるものじゃないんだけど、みんな、ずっとあるものみたいな感覚で聴いているなと思って。CDじゃなくてサブスクで聴くという人が多い中、そういう人にとってはもしかしてCDもサブスクもYouTubeも同じなのかなと。だけど私の中では全然別物。「いや、サブスクもYouTubeも消えるものだよ?」という疑問がずっとあったんです。限定公開は今までやったことがなかったので、いろいろな捉え方をしてもらえていたら嬉しいです。
――その後、「1月」「7月」のMV公開を経てアルバムリリースに至ると。季節の曲を書く場合、季節のイベントやモチーフの扱い方に書き手の個性が出ると思うのですが、今作には上野さんならではの感性や着眼点、ソングライターとしての凄みを感じさせるフレーズが多く、コンセプトとのマッチングの良さを感じました。例えば「8月」の〈綺麗だとは言えない海〉というフレーズがすごい。夏の海を描いた曲といえば「青い海、白い砂浜」みたいな曲も多いのに、この曲では〈綺麗だとは言えない〉と書いてしまっている。
上野:でも、綺麗な海ってあんまりなくないですか?
――観光地くらいにしかないですよね、綺麗な海なんて。キラキラの海を描いた曲よりも身近に感じられるし、リスナーはむしろ自分を重ねやすいけど、こういう曲って今まであまりなかった。物事をしっかり観察して、「いや、実際こうだよね?」という視点とともに忠実に描ける書き手は稀有だと思いますよ。
上野:そんなところ褒めてもらったことなかったです。「8月」のAメロでは〈公園とぬるくなった缶チューハイ〉〈バイトの先輩〉〈予鈴の小走り〉というふうにいろいろと並べているんですけど、これは、自分の記憶の中の“あの時”にあったものをザーッと書いていった感じで。綺麗だとは言えない海自体、私の中で綺麗な過去みたいになっているんですよ。だから綺麗なものとして描いているというか。
――その言葉がまた素晴らしい。アルバム、聴いた人のリアクションが楽しみですね。
上野:そうですね。今回「アルバムやからバランスよく」ということはあんまり意識していなくて。1曲1曲、シングルでもいけるくらいの気持ちでまっすぐ作ったんですよ。全曲聴きたくなるアルバムを作ったので、「どうだろうか、これは?」という気持ちでいます。なので、ぜひ聴いてほしいです。全部聴いた上で、名盤かどうか教えてください。
◾️リリース情報
TETORA『13ヶ月』
発売:2024年6月19日(水)
価格:¥2,750(tax in)
<収録曲>
1. 7月
2. 8月
3. 9月
4. 3月
5. 12月
6. 5月
7. 6月
8. 10月
9. 11月
10. 4月
11. 2月
12. 1月
◾️ライブ情報
『TETORA 武道館でワンマン』
2024年8月12日(月)
会場:日本武道館
OPEN 17:00 / START 18:00