ジョー・力一、ユーモラスかつ華やかなエンターテイナー 音楽への真摯な姿勢も滲み出た初単独ライブ
「にじさんじ」所属のVTuber ジョー・力一が、2024年6月14日にワンマンライブ『カーニバル・リヴ』を東京・品川ステラボールで開催した。
今回のライブは、ジョー・力一にとって初めての単独ライブであり、1stミニアルバム『カーニバル・イヴ』を引っ提げた公演だ。6月中旬にして30度を超える真夏日となったこの日、会場にはその熱量そのままに多くの熱心なファンが駆け付けた。
いよいよ開演とのアナウンスが流れると大歓声と拍手が沸き起こる。暗闇に光が降り注ぎサーカスのテントへ誘われると、カウントダウンに合わせて手拍子と歓声があふれ、ライブがスタートした。
この日最初の曲は「レイテストショーマン」。いつもの白いスーツに身を包んだジョー・力一が登場すると、「お会いできて光栄です。一夜限りのショー、最後まで楽しんでいってください!」と高らかに呼びかける。ファンキーなバンドサウンドとジョー・力一が醸し出す独特の雰囲気にマッチし、ライブの幕開けにふさわしい一曲と言えるだろう。サビでの大合唱や、ペンライト、手拍子など、観客との一体感も抜群だ。最後に「カーニバル・リヴへようこそ!」と両手を広げると、大歓声が沸き起こる。
続いては「ジョン・ドゥ・パレード」だ。ミニアルバムのジャケットにもなったアーティストビジュアルへ衣装チェンジし再登場。長いマントをたなびかせ、ステッキを使ったダンスでショーマンらしい新たな一面を見せた。さらにファルセットを美しく響かせながら歌われた「フェイキング・オブ・コメディ」ではキャンディのようなステッキマイクを自在に操り、ステージをジョー・力一の世界観に染める。
MCで「2018年にデビューした時からよくしてくださってる友人の曲、ここでライブをするとわかってからずっとカバーしたいと思っていた」と語られた後に披露したのは、あくまのゴート「品川シーサイド」のカバーだ。「どんどん声を出してほしい」という呼びかけに応えるように客席からも歌声と手拍子が聞こえ、ペンライトで盛り上げる。
伸びやかなボーカルで、曲の魅力をまっすぐ伝える表現は意外性に満ちており、この日のひとつのハイライトとなった。
大人っぽい楽曲に合わせてシックなステージを展開した「ソワレ another rum ver.」では様々なエフェクトが織りなす映像を背景に、ジョー・力一のアーティストとしての色気を感じさせる。夜の街を歩くようなミステリアスな雰囲気で歌われた「化け猫」は、楽曲と彼の持つ妖しげな魅力が絶妙にマッチ。新しい解釈を生みだしたと言えるだろう。「Nightmare」では、鳥籠型の檻の中で歌われた。囚われながらも笑みを絶やさぬビジュアルと声の艶っぽさは唯一無二。彼のストーリーテラー的な表現と感情をむき出しにする瞬間が交互に飛び出し、ボーカル表現の多彩さを感じさせた。
「みんなで一緒に歌いましょう」と戯けるように煽った超難曲「FAKE LAND」では、ステージを左右に大きく動きながら客席を見渡す。切れ味抜群のカズーも披露し、トリックスターらしさを存分に魅せた。
MCでは「情緒が乱高下するようなセットリスト」と笑いながら語ったが、さらにハードでバリエーション豊かな楽曲が続いていく。
鍵盤が光るバンドサウンドが魅力的な「コルロフォビア」では、広い音域のボーカルを自由自在に操り、彼の個性であるアルルカン的な世界観が音楽として完璧に再現されていく。その様はある種のカタルシスを感じさせるほどである。
さらに「皆さんから僕に、僕から皆さんに、エールを送り合いましょう! まだまだ僕たちくたばるわけにはいきません!」と語りかけた「死ぬな!」では、その歌唱力はもとより、楽曲のチョイスから人柄の一部を垣間見せる。
「明転」はアーバンな雰囲気の楽曲だが、その中にも彼の情熱のようなものを確かに感じさせた。回るミラーボールの光の中で響くハイトーンボーカルは幻想的でありながらも確かな温度があり、VTuberにしか成し得ない表現だったと言えるだろう。
七尾旅人「サーカスナイト」のカバーも披露すると、客席から感嘆の声が漏れる。赤い光が次々浮かび上がる中、傘をさし綱渡りするようにステージを歩く。静かに語りかけるように歌う姿からは、シンプルでありながらジョー・力一というボーカリストとしての真髄をじっくりと味わうことができる名カバーだった。
今回のミニアルバムについて「キャラソンキャラソンしたのにしようとしたわけじゃないけど、私小説的なものになった」と自身の内面を反映させた結果、ファンに刺さったのではないかと分析し、初ライブという新たな幕開けを語った。「ファンに見せたいものが増えていく」と活動の中の幸せと苦悩を笑いを交えながら話しながらも、「一生カーニバル・イヴ!」と宣言すると拍手と歓声が巻き起こる。
本編最後の曲は「Stream Key」。「皆さんに一緒に歌ってほしい」という言葉通りのシンガロングと左右にゆれるペンライトの海の中、ポジティブなメッセージが次々に放たれていく。ピンクの風船や溢れる光は、実にファンタジックだ。しかし、これが夢ではなく日常的に彼が見せてくれる希望や明るさ、楽しさという現実で、彼の常日頃の活動のスタイルをショーに反映させたと言えるだろう。