ボカロシーンの先駆者を徹底解剖 第2回(前編):はるまきごはん、現実世界からの脱出 創作と音楽のルーツを辿る

はるまきごはん取材前編:ボカロとの出会い

モノ作りの信念「自分が好きかどうかで判断している」

ーー音楽と同時に、はるまきごはんさんの作品と言えばアニメーションも重要な要素です。もともと、楽曲も映像も作りたかったんですか?

はるまきごはん:そうですね。最初にお話ししたことに戻るんですけど、ミュージシャンになりたいとかイラストレーターになりたいとか肩書きを目指すのではなくて、自分の作りたいものがパソコンに移った結果そうなっただけなので。音楽というフォーマットに限ること自体が重要ではなかったんですよね。音楽を作ることも好きだけど、キャラクターを作って、みんながそのキャラクターに対して何か考えたり感じたりすることも好きで。だから、音楽にプラスアルファして膨らませていくというよりは、音楽というフォーマットに落とし込んだ結果、削られてしまったものを取り戻していくみたいな感覚に近いかな。作品を作るうえで、自分が好きだと思えるものを追求していった結果というか……。まだ「結果」と言えるほど、やりたいこと全部はできていないですけど。

はるまきごはん
「WhiteNoise」で使用した絵

ーー楽曲の前にキャラクターや物語が生まれることもあるんですか。

はるまきごはん:全然ありますよ。漠然とした音と映像セットの景色みたいなものが最初にあって、それを切り出したり、広げていったり。ただ、細かいところで見ると曲からだったり、こういう曲ができたからこうしようと展開を決めることもあるし、順番はその時次第ですね。

ーー作品を作る時にこだわっていることは?

はるまきごはん:いくら物語やキャラクターが大事だとはいえ、そのせいで音楽が微妙になったら元も子もないじゃないですか。だから、いろいろなものを作るうえで、アニメや音楽やキャラクター、それぞれ別に切り取られてもちゃんといいと思えることをいちばん大事にしています。いざバラバラになった時も、各フィールドでしっかり自分が好きだと思えるものになっているかどうかが大事。一緒に作っているからといって、アニメと音楽をセットで聴かないとわからないものにはしない、というモノ作りでありたいんです。音楽に物語を与えているがゆえに音楽のほうが微妙になっちゃったり、物語を説明したいがために歌詞が微妙になっちゃったり、意外とあるあるなことだし、一種の甘えが出てきてしまうことも想像できるから。それは絶対嫌なんですよ。

はるまきごはん
「WhiteNoise」で使用した絵

ーーすべてご自身の頭のなかで考えていくうえで、そのクオリティを自分で維持していくのはなかなか難しいですよね。

はるまきごはん:ほかの人よりも多くの時間をかけて頑張るのは前提として、あとは何を削ぎ落とせるかですよね。時間をかけてもあんまり結果が変わらなかった作業も多いので、やらなくてもいいことはなるべくやらないことも必要なのかなと思います。僕は比較的筆は早いほうではあると思うので、それでなんとか成り立っているという感じです。

ーーあれもこれもやりたいで足していくと、収集がつかなくなりそうです。

はるまきごはん:時間をかけたからいいものになるわけじゃないのは間違いないし、時間をかけなさすぎてもそれはそれでよくないので、難しいです(笑)。必要なものに手を動かす嗅覚みたいなものが必要なのかもしれないですね。

ーー作りたいものはどんどん思い浮かぶほうですか?

はるまきごはん:アイデアが枯渇することはあんまりないかもしれないですね。作りたいものがたくさんあるなかで「今のタイミングだったらこれがいちばんいいかな」という選び方をすることが多いです。

ーー物語や楽曲を考えるうえで軸になっているものというと?

はるまきごはん:自分の人間としての考え方や哲学的な部分を大切にしていますね。自分が好きかどうかで判断しているので、自分の作品を自分自身がちゃんとリピートして聴いたり、心を動かされたりするかどうかが大事なポイント。「自分は好きじゃないけど、これを出したらみんなが喜ぶだろう」みたいな作品は、ひとつも出したことはないです。

※1:https://realsound.jp/2018/12/post-296445.html

▼後編へ続く

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