『学マス』へのリスペクトが詰め込まれた田淵智也作詞曲「Campus mode!!」 “新しさ”と“王道”の見事な融合

 「アイドルマスター」(以下、「アイマス」)シリーズの約6年ぶりの新ブランドとして、今年5月にスマートフォンゲームのサービスがスタートした『学園アイドルマスター』(以下、『学マス』)。ゲーム自体に加え音楽面においても、1曲目の初星学園9人全員が歌う全体曲「初」の作詞曲を提供した原口沙輔をはじめ、Gigaや美波、ナユタン星人やHoneyWorksといった作家陣が「アイマス」楽曲を手掛けるというトピックが話題を呼んでいた。

 そんな本作にとって2曲目の全体曲「Campus mode!!」は、こちらも「アイマス」シリーズに初めて楽曲を提供する田淵智也が作詞曲を担当。新たな試みをふんだんに盛り込む本作ならではの楽曲であるのと同時に、従来の「アイマス」シリーズらしさと新たな『学マス』のストーリーを繋げる重要な役割を果たす1曲に仕上がっている。

 実はこの「Campus mode!!」、ゲーム内で聴くことができるのは各アイドルを育成して親愛度10を達成した際であり、ローンチ時点においては高めのハードル。だからこそ逆に、「この曲への言及は『ストーリーのネタバレ』に準ずるもの」というプロデューサー(「アイマス」シリーズのプレイヤーの呼称)間の暗黙の了解のようなものが生まれたのだろうか。6月7日に同曲のサブスクリプションおよびダウンロード配信やリリックビデオの公開が発表されるまで、SNSで話題にする者は少なかった。

 そんな「Campus mode!!」は、多くの人の耳目に触れる機会を得るや否や、多くのプロデューサーの心を掴んでみせている。その要因として最初に挙げられるのは、やはり楽曲自体の持つとんでもないキャッチーさだろう。『学マス』楽曲には、各アイドルの個性を反映しつつ、各コンポーザーが遠慮なく“らしさ”を発揮していくという特徴・魅力が存在しており、この曲の歌詞やメロディもこれでもか!と言わんばかりの田淵らしさにあふれたものだ。田淵自身が音楽プロデュースを手掛ける声優アーティストユニット DIALOGUE+をはじめとする数々のアーティストや声優、キャラクターソングなどへの楽曲提供で培った経験値を存分にぶっ放してみせている。しかもその上で、前述したゲーム内解放条件に伴って求められる“大団円感”をもにじませて完成させたのだから、やはり流石としか言いようがない。

初星学園 「Campus mode!!」Lyric Video (HATSUBOSHI GAKUEN - Campus mode!!) Short Size

 「Campus mode!!」は、決して「どのコンテンツでもいい曲」にはなっていない。この曲での田淵の担当セクションにおいては、それが特に歌詞から強く感じられるだろう。前述のとおりサウンド的には大団円感が求められる一方で、一歩踏み出したばかりのアイドルたちがポジティブに駆け続けていくという視点も欲しい。そこを歌詞で、しっかり描き出しているのだ。

 そういったベースに加えて、この曲の持つ大きな役割である「“新しさ”と“王道”との融合」という要素もまた、プロデューサーの心に刺さったはず。それをとりわけ強く感じさせるのが、フルサイズでのみ聴くことのできる2コーラス目の歌詞だ。この部分においては『アイドルマスター』をド直球に織り込んだ〈アイドルなんだ/全力でマスター!〉のフレーズがまず目を引くが、おそらく田淵が仕込んだ“王道”要素はそこだけではない。直後に歌われる〈アクシデント、気をつけて!〉とのフレーズが、実はゲーム版『アイドルマスター』との結びつきを感じさせるポイントなのだ。というのも、同作ではアイドルがオーディションに合格した後のTV出演の際、能力値のパラメーターが低いと歌詞が飛んだりダンス中に転倒したり……といった「accident」が発生してしまう。その言葉を〈道を刻んだ偉大な歴史 忘れずリスペクトだ〉から始まる2コーラス目の中に、しかもタイトルの直接投入を経て組み込んだという構成自体に“リスペクト”を感じるし、長年のプロデューサーをたまらなくエモくさせてくれる。

 そんな歌詞を上滑りさせることなく、サウンド面を通じて“王道”とより密着させる役割を果たしているのが、滝澤俊輔(TRYTONELABO)によるアレンジ。アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』の2ndオープニングテーマ「Shine!!」の作編曲や『アイドルマスター SideM』の「DRIVE A LIVE」の編曲をはじめ、長年にわたって「アイマス」シリーズに携わってきた滝澤だからこそ、田淵と「アイマス」どちらの長所も潰さず融合させることができたのだろう。とりわけストリングスやウィンドチャイム、グロッケンがポイントになっているイントロ、そしてそこにホーンセクションが華やかさを与えていく……という構成は、この曲に確固たる“アイマスらしさ”を与えている。田淵の作詞曲はもちろんのこと、滝澤のこの巧みな手腕ももっと称賛されていいはずだ。

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