リアルサウンド連載「From Editors」第58回:『悪は存在しない』『ゴジラxコング』『瞳をとじて』……面白かった4作をレビュー

『瞳をとじて』(監督:ビクトル・エリセ)

『瞳をとじて』本予告_2月9日(金)全国順次公開

 老いること、青春時代を振り返ること、もう一度人生の旅に出ること。子供の無垢な眼差しを映した『ミツバチのささやき』(1973年)などから一転、ビクトル・エリセ監督31年ぶりの長編映画『瞳をとじて』は年配の登場人物の視点で語られ、まるでエリセ自身が己の人生を回顧しているかのよう。“行方不明になった親友を探す”という軸になるストーリーはありながらも、全編通して強く感じるのは映画そのものへの深い愛情だ。161分という長さも、80代になったエリセが重ねてきた人生経験を濾過して、映画というフォーマットに落とし込んだ時に自然と生まれたものではなかろうか。その時間芸術にゆったりと浸れるのは極上の映画体験以外の何ものでもない。

『瞳をとじて』は下高井戸シネマで鑑賞

 本作を通して“探される”人物=フリオ・アレナス(ホセ・コロナド)は、周囲の語られ方次第でいくらでも見え方が変わる人物。ずっと近くにいた主人公 ミゲル・ガライ(マノロ・ソロ)でさえ、フリオが胸に秘めた想いの真相はわからなかったが、そこを辿り直すことでフリオの記憶の中の温かみに触れていく。人がどんな人生を歩んできたのかは表層的な発言・行動だけでは判断できないからこそ、フリオを取り巻く人々の優しさが、コンテクストを丁寧に理解し、歩み寄っていくことの大切さを思い出させてくれた。

 30歳になったばかりの筆者には、実感としてはまだわからない部分も多い。この映画の本質や深みを理解できるのは、老いや喪失を重ねた50年後だろうか。ともあれ、人生をかけて鑑賞していきたいと思える一作に出会えたことが、映画好きとして至高の喜びであることは間違いない。

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